未知の地で備えろ、戦い

エピソード一覧


前話


本編

 アルマたちはうまくリアムの言葉から情報を手繰り寄せ、レオンの話に合わせる。
「獅子王レオン。そんな名で呼んでくれとは頼んでいないのだがな。だが獣人種の王を決める戦いが間もなく始まる。それで我らの部族も昂ぶっているのだよ。そうか! もしや君たちが今年の狼犬族の戦士か!」
「そうだ。俺がバンディで、そいつがガルベス、そいつがジンで、そのちっこいのがアルマだ」
「そうかそうか! 虎人族と素手でやりあうなんて無謀だが、凄まじかった! 楽しみだなぁ! して少年は魔導士か何かか? そなたも戦士なのであろう?」
「ああ。だが俺は生憎魔法がうまく扱えなくてな」
「魔導士ではないと申すか! それは結構! おぬしの実力も楽しみにしていよう! このリアムは誇りこそあれど、生まれた時がよくなかった惨めな男よ。全力でサポートしてやってくれ!」
 と、笑いながら席を立ったレオンは机に一枚の金貨を置いていく。
「むかつく言い方だな」
 バンディが漏らす。
「あいつをぶちのめせるんだろう? 楽しみじゃねえか」
 ガルベスは去っていくレオンの背中を睨み付けている。
「なんであんな絡まれ方をしたんです?」
 ジンは俯くリアムの方を見ながら尋ねた。
「もう狼として生きているのはお前だけなんだろ?」
 アルマのその言葉に、リアムは目を見開いてアルマを見たのち、また俯いた。机についた手の爪がぎりぎりと机に傷をつける。
 ハウスに入った時から違和感はあったのだ。狼犬族の本拠地でありながら、他の狼犬族の気配がしなかったことや、不自然なほどに綺麗な部屋であるというのに、全てに薄っすらと埃が被っていたりと。

「力の弱くなった狼犬族の人々は今、犬人族として生きています。犬人族の方は地位や名誉こそないですが、財もあるし、何より生きやすい」
「狼として生きるより?」
「はい。俺の狼の血はあの大戦で、魔人の最強の兵器たる|合成獣《キメラ》を倒した者のものが混ざっていると祖父から聞いていました。俺も所詮ウルフドッグ。犬です。何度も犬人族として生きようと思いました。しかしいつも狼の血にそれでいいのか? といわれるのです。人に味方して滅んだ哀れな部族かもしれません。でも俺はそれが間違っているとは思えない!」
 涙を目に浮かべながら言うリアムの孤独を四人はひしひしと感じる。他種族に嘲笑され、同族にも見捨てられた唯一の狼犬族のリアムの孤独を。
「だからもう一度狼犬族の手に王権がほしいから、俺たちを?」
 バンディが尋ねる。
「いえ、そう思ってたのも昔の話。王権や狼の誇りなどもうどうでもいいのです。ただ俺は王権を奪い合う戦いに酔狂している人々に訴えたいのです。狼人族が守ろうとした獣の誇りとは何たるかを」
「名誉は?」
「いりません」
「地位は?」
「いりません」
「金は?」
「いりません!」
 それを聞いたバンディ、ジン、ガルベスは微笑みながら目を合わせ、言う。
「任せろ。レオンの顔に一発ぶち込むまでの道は俺たちが切り開く。今日は決起会だ! 酒をもってこい!」
 そう叫んだバンディの声にリアムは体を震わしながら、「ありがとう」と言った。



 やらなければならないことは沢山ある。アルマはバンディが盗賊と戦うところを見ただけで、それ以外の者たちの戦い方を知らない。またレオンの顔に一発ぶち込むにしてもリアムの実力もわからない。だからこそ全員の全力を以て、仲間内で擬似決闘を行う。

 王位決定戦まであと五日。

「俺の戦い方は知ってるよな?」
「ああ。大剣と直剣の二刀流に、|魔法強化《エンチャント》を載せた強力な斬撃」
「|魔法強化《エンチャント》もバレてたか。まあここでアルマを真っ二つにしちまっても仕方ないから、|魔法強化《エンチャント》はなしだ」
「わかった。それでいこう」
 その言葉を合図に二人は戦闘態勢に入る。
 アルマは黒鋼のトレンチナイフを逆手で右手に持ち、銀の短剣を順手で左手に持つ。
 バンディは大剣を担ぐように右手で持ち、左手に直剣を持っている。
 動いたのはアルマだった。凄まじい勢いでバンディに肉薄し、黒鋼のトレンチナイフの拳鍔による殴打を狙うが、「よっこらせ」という言葉と共に放たれた大剣の斬撃により、その軌道をずらさざるを得ない。
 銀の短剣によって斬撃を横にいなし、その反動を体重移動によって左に流すことで、バンディの直剣が届かない死角へと移動する。直後、バンディの横っ腹目掛けて銀と黒鋼両方の短剣での斬撃を狙うが、どこからか現れた直剣によって両方とも弾かれてしまう。
 二刀流で片方が大剣となれば、バンディの動きは制限される。両方とも常に所持している場合には。しかし、バンディはその、こう来るだろうという予想を上回る為に大剣を呆気なく捨てる。
 それが故に描く直剣の軌道は、一本であれば当然であるのに、その状況によって変則的な起動を描いているように錯覚させる。
 初めてあった時からそうであるが、その手で丸太を折ってしまいそうなほどの太い腕の力は尋常ではなく、その腕から放たれた鍛え上げられている斬撃は武器でいなしたとしても、アルマの腕を痺れさせた。
 腕の痺れが治るまでと咄嗟に距離を取ろうとするが、直剣の突きと拾い上げた大剣の大振りをスレスレで回避する程度しか、距離を取ることしか出来ない。
力でも技術でも叶わない。思えばこれがアルマのある記憶の中で初めての対人戦であった。
 初めてとしては良く戦っているだろうと、思われるかもしれないが、そんな低レベルな褒め言葉が欲しい訳では無い。だからこそアルマは突破口を探す。十年近く傭兵として生きてきたバンディに勝つための突破口を。

「はぁ、やっとだ。手古摺らせやがって」
 そう呟くのはアルマの喉元に直剣を突きつけたバンディだった。
「どうだった?」
 そう尋ねるアルマにバンディは座り、息を整えながら、アルマの戦闘の癖などを分析し伝える。
「まず力がないな。子供だから仕方ないっていうのはもう傭兵都市には通じない。だから技術を鍛えるべきだな。今既に技術も結構あるが戦闘のやり方が正統だ。こうしたらこう来るだろうって言う在り来りな予測がある。もっと相手がこう来たら嫌だとかあまり考えてないだろ?」
「そうかもしれない。バンディの剣先を追うのが精一杯だった」
「もちろん剣が武器だが、タックルだったり蹴りだったりどこから攻撃がくるかはわからない。それは自分でもそうだ」
「武器に怯えすぎてるし、武器に頼りすぎてる?」
「そうだな。小さいからこそもっと柔軟に動けるはずだ、と思う」
「わかった。それを意識して次やってみようと思う」

 とアルマはバンディとの反省を終えると、すぐさまガルベスとの戦い臨んだ。
「おいおいどんだけ体力あるんだよ」
 バンディはそう呟いたあと、もう一度深く息を吐いた。



「やっとその生意気な面を叩き潰せると思ったらわくわくするぜ」
「俺もその減らず口を静かに出来ると思うとせいせいするな」
 いつも通りな口論をはじめ、アルマがそう吐き捨てた瞬間ガルベスはその手に持った鉄球を一直線に放った。
 それを横っ飛びで軽く避けたアルマは、まず鉄球を扱いにくいであろう近距離へ近づくために、走る。
 しかし鎖に繋がれた鉄球を振り回すガルベスにとって、そんな戦法を相手がとってくるのは百も承知。その鉄球の勢いのまま巧みな鎖捌きで、鉄球の軌道を変え、アルマを狙う。

――当たる!

 そう思ったアルマは敢えて跳躍により、自らの体を宙へと浮かせ、腕で胴を庇うような形で、鉄球を食らった。
 凄まじい程の衝撃だ。胴を攻撃されているというのに、脳を揺らされているような感覚に陥る。いや揺らされたのだろうか。少なからず数十キロにもなる鉄の塊による殴打は所詮子供であるアルマの体では耐え難い。
 どさっと地面に倒れ臥すアルマを見ながらガッハッハと笑うガルベスは油断している。膝をついているアルマに対し、鎖につながっている鉄球を扱うガルベスへの距離は遠い。
——どうすればガルベスが嫌だと思う攻撃が行える?
 普通に考えればこの距離を走って、なんとか埋めようとするだろう。そう考えるし、それが妥当だと考えるが、それではバンディの言っていた正統というやつだ。だからこそアルマはそこで銀の短剣を投げた。
 油断していたガルベスの喉元に勢いよく突きつけられる銀の短剣は、呆気なくその手に握られた鎖によって弾かれるが、その後ろにはアルマがいる。
 銀の短剣を投げた直後、それを追う形でアルマは動いていた。もちろんアルマを鉄球で吹き飛ばすことも可能であったが、それでは飛んできている銀の短剣を防ぎことはできない。アルマに接近されることを享受し、敢えてガルベスは銀の短剣を防いだ。
 しかし短剣を持つアルマを接近させることはそれなりのリスクを伴う。しかもガルベスの武器は中距離武器である。
 アルマは黒鋼のトレンチナイフで、ガルベスの首筋を狙った斬撃をお見舞いした後に、すぐさま銀の短剣を拾い上げる。一回目の斬撃は銀の短剣を拾うためのフェイクだが、ラッキーなことに防ぎに来たガルベスの左腕に一太刀喰らわせることに成功した。
「ちっ」
 と聞こえた舌打ちに、不敵な笑みを浮かべアルマは体重を乗せた銀の短剣による斬撃を放つ。しかしそれは鎖によって防がれるが、そのまま銀の短剣を地面へと振り下ろし、体を捻らせ、ガルベスの顎を蹴り上げた。
 予想外な形で脳を揺らされたガルベスだが、大の大人であり、屈強な体を持つ彼がそれで動じるはずもなく、勢いよく引き寄せた鉄球を背中に食らってしまった。
ミシッと嫌な音が聞こえたと同時に、鎖を巻いた腕による殴打によって、アルマはその意識を手放すことになる。



 さすがに気絶をした状態で戦うわけにもいかず、アルマはジンとリアムとの疑似戦闘を後日に回すことにした。ガルベスやバンディも思いの外アルマとの戦闘に体力を使ったらしく、今日は終わりだと言って、ハウスへと戻っていく。
「さあ俺たちはどうしましょうかねえ」
 と苦笑いを浮かべるジンはそうリアムに尋ねる。
「そうですね。ジンさんは魔術師ですもんね」
 リアムは自らの得物が槍であることを見せる。
「魔法と槍で戦ってもねぇ」
「ねぇ」
「何もしてないけど」
「帰りますか」
 二人はその会話の後、三人を追った。

 相も変わらない静かなハウスで四人はリアムの作る料理を待っていた。先日は酒につまみと不摂生な食事であったために、リアムが自分が作るからと台所に立っていた。
 スープ、サラダ、肉料理にパンと無難であるが、色鮮やかな食卓に四人は目を丸くする。感想は言ってしまえば美味かった。
 スープはあっさりしているのにちゃんと香りが立っているし、サラダに使われている野菜も瑞々しく、ドレッシングも何かわからないが、しつこくなくそれでいて薄くもない。肉料理だって肉のうまみを引き出しているし、それに合わせて食べるパンの小麦の匂いも豊潤だ。
「これ全部リアムが?」
「そうですよ。生憎ここを一人で切り盛りしているのでね。生活力は自ずと」
 このリアムという男は一人になっても狼の血筋のために、一人でこの狼の残り香を守ってきたのだろう。それがどれだけの孤独か。
 自ら一人で森で暮らしていたアルマとは大きな違いだ。本当は犬族として仲間と笑顔で暮らす未来があっただろう。でもそれを誇りとか歴史とか伝統とか言ってしまえばくだらないそれらのために自らを犠牲にしてきた。
 美味い飯を共感できないことがどれだけ寂しいことか。高めあう仲間がいないことがどれだけ惨めなことか。軽い洗濯籠がどれだけちっぽけなことか。
 だからリアムは五人という少ない人数で囲う食卓であっても、その温かさに包まれ、呑まれ、涙を流しているのだ。
「あれ。どうして」
 と涙を拭いながら食事を見つめるリアムのことを、隣に座っていたガルベスが肩を抱き寄せ、言った。
「自分の飯が美味すぎて泣くなんて、とんだうぬぼれがいたもんだ! だが美味いぞ! 今夜の飯は美味い飯だ!」
 がっはっはと笑うガルベスを見て、アルマは少し彼を見直した。彼とて不器用なだけで仲間思いなことには変わりないのだと。
 そう、この時であっただろう。アルマと、バンディと、ガルベスと、ジンと、リアムが。この五人が仲間になったのは。



「さあ今日は私が相手ですよ!」
 そう言うのは手に赤い宝玉を付けた杖を持つジンだ。烈火の杖と呼ばれるその杖はジン曰くかなり希少な杖らしく、炎の魔術の威力を何倍にも跳ね上がらせるという。少なからず何倍にもは嘘であろうが、強化された炎魔法を扱ってくるだろう。
 アルマは短剣を構え、ジンの元へ走る。

 右手に持った杖に左手を添え何かを唱えたジンの目の前には赤い魔方陣が浮かび上がり、そこから拳大の炎の玉が発現し、アルマへ迫る。
 アルマはそれを側転で避け、再度ジンの元へ走る。
「|炎よ《フラム》・|無数の火の粉を《ラピッド》・|舞い散らせ《ショック》!」
 ジンがそう唱えた瞬間、彼の左手には赤い炎が灯る。そして人差し指と中指を立てた状態で、その手をアルマの方向に向けると、先ほどの炎の球より小さな炎が一直線にアルマへと迫った。
 その速さは先ほどのものとは大違いで、避け切れないと思ったアルマは、それを銀の短剣によって弾く。
 するとガラスが砕け散ったような音が鳴ると同時に、その炎弾は跡形もなく消え去る。
「なにっ!? 魔封石が使われている短剣ですかぁ。非常に興味深い。それでは捌き切れないくらいの量だったらどうでしょう!」
 ジンは杖を背負い、もう一度同じ詠唱を行うことで、両手に炎が灯る。
「さあ少しは耐えてくださいね?」
 と不敵に笑うジンは両手を構え、同じ魔法を放つ。凄まじい勢いで迫る炎の弾丸は、最初こそ何とか防げていたが、その量がジンの言う通り捌き切れない量だ。なんとか回避と防御を使い分けながら炎弾を防ぐが一発くらってしまえば、痛みにより姿勢を崩され、その後無数の弾丸を浴びせられた。
 それこそ威力を弱めた炎であったがために、大けがには至らなかったが、もしこれが本来の威力であったらと考えたら恐ろしい。
 後でジンに本気の炎弾を放ってもらったら、小さな岩であれば簡単に貫いてしまっていた。



「さあ最後は俺ですね。お手柔らかにお願いします」
 ぺこりとお辞儀をするリアムは、その獣に似た姿も相まって似合わない。そしてリアムは背中に背負っていた二つの槍を手に持った。片方はアルマの身長、一.五メートルほどで、もう片方はその半分くらいしかない。短いほうは槍というより刃の短い剣のような印象を受ける。
 アルマはその武器を見て、どんな戦い方をするのかとわくわくしながら自らの得物を手に取った。
「いくぞ!」
 アルマのその言葉と同時にリアムの元へ走る。アルマの得物は短剣。近づかない限り始まらない。それに合わせリアムは長槍の突きを放つ。アルマはそれを先ほどのジンの炎弾を弾く要領で、打ちリアムの右半身をがら空きにさせる。そこ目がけて短剣を迫らせるが、伸ばした腕を短槍の柄によって打たれ、持っていた銀の短剣を落としてしまう。
 アルマもその短槍を落とさせようと、リアムの腕を狙うが、それをわかっていたかのように、再度短槍の柄によって顎を打たれる。顔が上に向いた直後、がら空きの腹部目がけて、殴打を食らい、後ずさりした。
 しかし休む暇を与えてくれるわけもなく、長槍の乱撃によって上半身を執拗に狙われた。それを黒鋼のトレンチナイフによって弾き、弾き、避け、弾き、何とか躱し、距離を取った。
 リアムは足元に転がる銀の短剣を自らの後方へと蹴飛ばし、アルマの手の届かないところへやってしまう。
「さてどうするか……」
 アルマは違和感を覚えていた。流石に自分の攻撃が正統であるにしても、リアムの反応が早すぎる。じりじりと見つめ合った状態で一度アルマは|紅魔眼《マジックセンス》によってリアムのことを見た。
 すると微弱なリアムの魔力が、リアムの目に集まっていることがわかる。解除し、再度リアムのことを見ると、彼の黄金の瞳が薄らと輝いているようにも見えた。
 アルマの|紅魔眼《マジックセンス》を見て、リアムが言っていた狼人族の先見。なぜリアムは狼の血を引いているというのに、それができないと思ったのだろうか。恐らくリアムは無意識のうちに先見を使い、アルマの行動を先読みしているのだろう。
 だがそれは予知や未来視などのそれとは違い、相手の体に宿る魔力の増減を見ることで行う予測。だから防ぐとかではなく、そのリアムの予測を超えなければ、彼に攻撃を与えることはできない。

――相手がこう来たら嫌だとか――

 そうこう来るだろうという最大の予測があるということは、トリッキーな動きであれば予測できても対応はできない。考えろ、リアムの予測を超えられる戦い方を。

 アルマは咄嗟に足元の土を掴み、それを持ったままリアムの元へ走った。そのままリアムが次の攻撃に転じる前に、その土を投げる。
 その砂一粒一粒に微量な魔力が込められているため、アルマの身体に宿る魔力をリアムが認識することは恐らく出来ないはずだ。その土煙から伸びる短剣を持った手は、リアムにとって視認は出来るが予測をするには至らない。だからこそこれを狙い、アルマは片手一本でありながら連撃を繰り出した。
 右から左へと薙ぎ、身体を回転させ、その勢いのままもう一度薙ぐ。直後左から右へ薙ぎ、身体を回転させ、もう一度斬撃を放つ。これをすさまじい速度で繰り返し繰り返し、何度も何度も。
 その姿はまるで竜巻、いや身体の小ささも相まって旋風か。
 砂塵の中で響き渡る金属音と火花は、絶えず続いている。だが新しい戦法だからか。まだ体が上手く扱えず、疲労が大きいために、そのキレはだんだんと遅くなっていく。
 そこを突かれアルマは盛大に後方へと吹っ飛ばされる。息切れしたアルマはその場から立つことはできない。



「全敗じゃねえか。くっそ。だめだ。俺がこれじゃあだめだ」
 顔を腕で隠しながら、そう呟いたアルマの顔は涙で濡れているのだろうか。
「その年でそれだけ動ければ十分じゃないですか?」
 リアムが肩で呼吸しながら、アルマの横に座り込み言った。
「土を放ったのは良かったですよ。バンディさんの言っていた嫌な事だった」
「そうじゃない。あれはリアムの先見を防ぐためにやったんだ。俺が全員に勝てないことが分かったのもそうだが、一番はリアム、お前には狼人族の先見の明が引き継がれている」
「え?」
 驚いたような仕草をするリアムを見る限り、自分では気づいていなかったのだろう。それこそ他の面々もそれに気付いていなかったらしく、驚き近づいてくる。
「まじかよ!」
「ああ、まじだ。もしリアムがレオンに一発ぶち込みたいのならそれをあと四日で育てたらいいだろう。恐らくバンディみたいな、身体を多く動かす相手に、武器無しでひたすらよけ続ける訓練をすれば良くなるはずだ。俺はガルベスとジンに訓練を手伝ってもらいたい。出来ればガルベスと戦いながら、ジンの魔法を定期的に俺へと放つ形で」
「二対一でか?」
 ガルベスはニヤニヤとしながらアルマに尋ねる。
「そうだ。一対一でもいいが、それだと四日じゃあ間に合わないかもしれない」
 戦いながらそう冷静に分析したアルマに驚きを隠せない面々であるが、アルマは寝転がりながら淡々と続ける。
「恐らくリアムは二本も槍を持たなくていい。長槍を一つ。午前中にバンディと先見の訓練をして、午後は俺と実践訓練だ。俺は午前中にジンとガルベスと訓練をする。どうだ?」
「異議はないな」
 バンディは静かにそう言った。ガルベスも頷き、ジンも。リアムは嬉しそうに微笑み「はい!」と言った。

次話


コメントを投稿するには画像の文字を半角数字で入力してください。


画像認証

  • 最終更新:2020-04-16 01:12:50

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード