人間種最大交易都市

エピソード一覧


前話


本編

 あれから数日。食料の備蓄も増えてきて、だんだんと生活に安定が出てきた。だがそれと共に欲しいものもいくつか出てくる。
 例えば食料庫。今は少ないため台所周りの棚で間に合っているが、これから大型の魔物などを仕留めた際、食料庫だけでなく、その戦利品を置いておくための倉庫が欲しい。生憎周囲には無限とも言える樹木が存在するため、木材には困らないだろう。だからこそその樹を切り倒すための斧が欲しい。
 また最近は短剣の扱いにも慣れてきてはいるが、戦闘も解体も全てこの銀の短剣で行うのはどこか気が引けるため、狩猟道具を一式と、戦闘に際し、ただの布の服では心もとないので、いくつかの鎧など身を守れる防具が欲しかった。

 机の上に並んだ干し肉と燻製肉と、何かに使えそうだと思い、とっておいた無数の鎌鼬の鎌を見ながら、アルマはこの離れ森から一番近い街へ向かおうと決めた。しかし一週間ほどサバイバルじみたことをしていたアルマの身なりは酷い物だった。
 この森で出会うのは鎌鼬やゴブリンばかり。人と接する機会のないアルマがこのような形になるのは致し方なかった。穴の開いた衣服に、脂っぽくまとまった髪の毛。それこそこのような身なりの十一歳の少年を見れば、大人は挙って心配するだろうが、彼を気に掛ける大人という存在すらこの離れ森中層には存在しなかった。
「嫌だなあこんな恰好で街に行くの」
 とため息をつきつつ、戸棚の粗布を取り、取り敢えず行水を行うことにした。

 小屋を出てすぐにある湖は、深層の奥に水源があるらしく、またその反対側から森の表層へ向かって小さく水が流れ出していた。一度、ここが誰かに辿られることを恐れたアルマはこの小川を下って行ってみたが地下に続いているらしく、湿地のようになっている地帯から水を追うことはできなくなっていた。

 そして湖の水を、飲み水としても利用していることから、その流れが出来ている小川の近くで水浴びを行うことにした。街に出ていないことから適当な身体を清めるための石鹸などもない。粗布で気になるところを強めに擦り、なるべく見た目が良く見えるように努めた。といっても、待っているのはぼろぼろの服であるために、あまり意味のない努力かもしれない。

 行水を終えたアルマは、服を着て、銀の短剣と金になるかもしれない鎌鼬の鎌を麻の大袋に詰め、人からはわからないように作った小道を辿り、森の外を目指す。
 何日も森を探索している間に、息をひそめるという術を獲得したアルマは鎌鼬の急襲を受けることなく、森を抜けることが出来た。
 離れ森を抜けて、広がるは色鮮やかな緑が広がる大平原であった。人間はこのような豊かな土地に領土を持っているために裕福な暮らしを送ることが出来た。それこそこの平原にも魔物は出るものの、森の中の者たちよりも貧弱で、取るに足らないものばかりだ。
 開いた口が塞がらないほど雄大な平原にはちらほらと人の姿が見えた。他の街への物資を運ぶキャラバンであったり、徒歩圏内にある|迷宮《ダンジョン》に向かう者たちなど。それぞれがそれぞれの目的を持ち、この平原を闊歩している。

 今でこそ昼時であるために真上に太陽が聳えているが、夕暮れ時になれば地平線に沈んでいく日を臨むことが出来た。
 平原という立地だからこそ、街道もそこそこ整備されており、そこを歩いて行けば、ほとんど魔物に襲われる心配もなかった。魔力の通った魔力管を地中に埋め、魔物の嫌う質のものに変換した魔力を流すことで、効率的な魔物除けを行っていた。
 しかし全てを石畳にするほどの物資や力があるわけではないため、アルマはたまに転びそうになる砂利道を歩いていた。



 商業都市に着いて最初に目につくのはこの立派にそびえ立つ|門《ゲート》だろう。アイデンを門番に差し出し身分を証明できれば開けてもらえるが、この|門《ゲート》はただの都市を塞ぐ扉ではない。開くと同時に不可侵結界という特殊な結界が開く仕組みになっている。
 不可侵結界と言うのは生物、無生物、敵、味方問わず中に入ろうとした全てを消滅させる結界だった。門番を通さず無理に都市に入ろうすればそこで一生を終えることになるだろう。
 この|門《ゲート》や街道に敷かれた魔力管は魔物から採れる魔晶石から還元した魔力で動いている。先の戦争と呼ばれる大戦が起きてから主要都市には|門《ゲート》と不可侵結界の配備が義務付けられた。
 特にこの都市、商業都市パレルは食料、武器、建材、その他様々な物資が流通するため人間種にとって王都の次に重要な都市である。ここが陥落すれば物資の移動が滞り、人間は危機的状況に陥るだろう。
 そのため不可侵結界と光属性の結界の二重で守られている。また光属性の結界を透過する魔砲台も数基設置されている重装備な城壁を備えていた。

 |門《ゲート》に近づいたアルマは門番にアイデンの提出を求められる。十一の少年が大きな麻袋とボロボロの服を着て立っているのだ。門番がアルマに送る視線は決していいものとは言えない。それこそこの大都市の裕福さに憧れた物乞いの少年か何かだと思われているのだろう。生憎アルマのアイデンに描かれている職業は放浪者であった。
「放浪者の通行には銀貨一枚が必要だが?」
 知らなかった。同じ人間なのだから街には自由に出入りできる者だと思っていたアルマは、金というものを持っていないことに気付く。
「あ、金は持ってない……。鎌鼬の鎌なら売ればいくらかになるんじゃないか?」
「物々交換が罷り通る文化レベルではないんだ。金が払えないのなら入場は許せない。すまないな少年」
 この門番は良い奴だ、と思った。良くも悪くもアルマを子ども扱いしない。それこそ子ども扱いできない程に大人びているということもあるのかもしれないが、少なくとも、この門番はアルマ以外の金を払えない放浪者にもこのような対応をするだろう。
 だから致し方ない。どうにかして金を手に入れなければならない
「おい、その坊主の分、俺が持つから入れてやってくれ」
 とアルマの後ろから声が聞こえた。

 振り向くとそこには髭を蓄え、丸太のような腕で、アルマと同じように大きな麻袋を持った男が立っていた。少し厚手のブーツに、煤だらけの服に、これまた煤だらけの前掛けを見る限り、この男が鍛冶師だと容易に分かった。
「銀貨一枚だったか?」
「はい。しかしベイルさん」
「いいんだよ」
 おっさんと呼ぶのが丁度良いベイルと呼ばれた男は、まさに気前のいいおっさんであった。アルマはベイルの先導に従い、後ろを歩き、商業都市に入場する。

 都会だった。綺麗に舗装された石畳の道に、気分が悪くなるほどの人の量。商業都市と言われるだけあって、|門《ゲート》からすぐあるメインストリートには露店から三階建てにも及ぶレストランまで、店と付くものなら何でもが立ち並んでいた。
 独特なスパイス、まろやかなスープ、焼ける肉など特に食べ物の匂いに町全体が包まれている。
 きらきらした目で街を見渡すアルマに、ベイルは笑いながら尋ねる。
「この街は初めてか?」
「ああ。ずっと森で住んでたから」
 と、アルマの物怖じしない受け応えに一笑いしたベイルは、自らの仕事場にアルマを案内しようと話を続ける。
「まあ見た目からわかるだろうが、俺は鍛冶師をやってる。ベイルって言うんだ。坊主は?」
「アルマ」
「そうか、アルマ。金がないのなら取り敢えず俺の店に来るか?」
「鍛冶屋か。是非行きたい!」

 そんなやり取りの後、アルマはベイルに案内され、メインストリート沿いにある結構良い見た目をした鍛冶屋についた。扉についた錠に腰から下げていた鍵束の一つを差し込み、ベイルは扉を開ける。
「いらっしゃい。これが俺の仕事場だ」
 壁掛けのランタンに火を灯していき、その店の全貌を露わにさせた。別に鮮やかではない雑貨などに立てかけられた武器や、鎧立てに飾られた鎧など。商品たる武具たちが店の内装に見劣りしないように意識されているような印象を受ける店内だった。
 カウンターのようなところの奥に扉があり、石造りの壁や床が見えることからそこが本来の仕事場であるということを察せる。
「適当に腰掛けてくれや」
 と、店内に置かれた椅子を指差した。ベイルはカウンター越しにあった椅子に腰かけ、一息ついた後、近くにあった戸棚を開け、いくらかの飲み物をコップに注ぎ、そのうちの一つをカウンターの上に置き、アルマに促した。
「どうも」
「なんで一人でこの街に? 親はどうした? ちゃんとしているが見たところそこまでいってないだろう?」
 怪訝そうな態度で尋ねるベイルにアルマは真実をありのまま話す。
「年齢は十一歳。ここ一週間のことしか記憶が無くて。でも生きなきゃならないから、取り敢えず離れ森の中で鎌鼬を狩って生きていたんだ」
「おいおい。ツッコミどころ満載じゃねえか。十一で、記憶喪失で、一人暮らし。しかもサバイバルか? すげえな……」
 言葉が出てこないことを見ると、呆気に取られているといった感じだろう。
「ある程度鎌鼬を狩って、食に余裕が出てきたから色々買おうと思って。服もボロボロだし。でも金が無くて困っていたところを助けてもらったってわけ」
 アルマは鎌鼬の鎌を入れた麻袋をベイルの前に置いた。袋を開け、ベイルは驚く。
「おいおい、これ何本入っているんだ。これを一人で?」
「ああ」
「まじかよ。得物はその腰に提げている短剣一本か?」
「まあ。でも木の枝の先に括り付けて槍みたいに使ったりもするけど」
「罠とかではなく?」
「これ一つで」
 はぁとため息をつき、ベイルは椅子に腰かけ、手で頭を支えつつ、その姿勢のまま話す。
「規格外っつーか、なんていうか。恐らくお前が住むべきは商業都市じゃなくてこの街から北西に三日ほどのところにある傭兵都市の方がお勧めだな」
「傭兵都市?」
 一応小屋にあった本で読んだことはある。商業都市とは違い、もっと大雑把で汚く、脂に塗れたような男たちの街。魔物を狩り、盗賊を狩り、賭け事を行い、力と運のみでのし上がる街だという。
「生きていくには今のままで十分だ」
「そうかもしれないが、少なくともお前の才能をそのままにしておくのはなんだか惜しい気がしてな」
「才能? ただ生きていただけだけどな」
「いやいや少なくとも、十一のガキが物怖じしない口調で、大人と話し、自らが狩った十二体もの鎌鼬の鎌を売りに来るなんて普通じゃない話だ」
「強いて言えば普段は皆どうやって金を稼いでいるかを知りたいかな。それ以外は武器に鎧。間違えてる?」
 アルマは店に飾られた剣や斧やら槍やら鎧やらを指差していった。それについてベイルは笑いながら、どうしたものかと手を挙げた。
「ていうかお前、これだけ鎌鼬を狩っていたのに魔晶石はどうしたんだ?」
 魔晶石という言葉には聞き覚え、いや見覚えがあった。死した魔物に宿っていた魔力が結晶化して生成される宝石のようなモノ、それが魔晶石だ。本来なら死んだ魔物の心臓の近くに死後数秒で生成されるはずであるが、完全に忘れていた。
「そうだ、魔晶石。全部内臓と一緒に埋めちまってた」
「まじかよ。鎌鼬だとそこまでの金額にはならないだろうが、十二匹にもなりゃそれなりの食料やらなにやらが手に入ったろうに」
「そうはいってももうどうしようもないからまた狩るとするしかないなぁ」
「ないなぁってそりゃのん気な。取り敢えず話してても仕方ないし、良さそうな物を持ってみろよ」
 ベイルに促され、アルマは片っ端から飾られたものに手にしてみたが、齢十一歳のアドバンテージがここに来てやっと現れた。アルマを離れ森に置いて行った誰かはこれを見越して銀の短剣を置いて行ったのだろう。
 重いのだ。斧も槍も鎧も。特に剣は何か呪いがかけられているのではないかと言うほど、他に比べて圧倒的に重さを感じた。当たり前といえば当たり前。十一歳の筋肉なんてものはほとんど動きのためについているだけで、力というものに直結する源ではない。それに気付いたアルマは一言。
「重い」
 とだけ呟いた。
 その言葉にベイルは拍子抜けしたような表情でアルマの歳相応な子供っぽさを笑った。
「あっはっは! そりゃ短剣で戦うわけだ! だが今銀の短剣それだけで戦ってるんだろう? それならもう一本位持っておいても損じゃないはずだ。どうだろう坊主提案があるんだが」
 ベイルの表情が鍛冶師や気前のいいおっさんといった顔から、商売人の顔に変わった気がしたアルマは少々身構えつつもその提案を聞く。
「鎌鼬の鎌なんてもんは、刃はすぐ折れるし、鎌って性質上武器にはあまり向かない。だがな、この鎌の中心には一本芯が通っていてな、その部分を黒鋼って言うんだ。一匹の鎌から数グラムも取れるかとれないかの鋼だ。もしそれを坊主が短剣分持ってくることが出来たら、ただでもう一本短剣を作ってやる。代わりと言っては何だが、肉は要らない。骨や毛皮は全てこっちに寄越してもらう。どうだ?」
 ただでもう一本新たな武器という提案。もちろんこんな美味しい話受けないわけがない。アルマはほぼ即答に近い形で、その条件を快諾し、鎌鼬の鎌を取ってくることをベイルに約束する。
「それでその鎌は何本必要なんだ?」
「そうだな。さっきも言ったが黒鋼は一本からめちゃくちゃ少量しか取れない。坊主が持ってきたのが十二本か。短剣を一つ作るなら少なくとも百八十、いや二百だな」
「二百!? そうか二百か」
 一日当たりの鎌鼬の討伐量は二から三匹。良くて四匹だった。もし二百を今のペースで集めるとなると一か月以上かかる計算になる。しかしそれは遭遇率の低い安全な表層で狩りを行っていたからであり、怪我を承知で中層へと進み、今より鎌鼬の遭遇率を上げることが出来れば一か月以内、上手くいけば二週間ほどで集まるかもしれない。
 希望的観測に過ぎないが、どれだけ時間がかかろうとも受けないという選択肢はない。
「無理そうか?」
 十一歳の子供に鎌鼬を約二百匹狩って来いと言ったことに、今現実を見たベイルは心配そうに声を掛けてくるが、もちろんアルマは快諾した。
「二百持ってきたら絶対に作ってくれるんだな? 金は払わないぞ?」
「もちろんだ。任せろ、鍛冶師ベイル。この腕に誓って嘘はねえ!」
 鍛冶仕事で培ったであろう丸太のような腕でガッツポーズを作り、ベイルは笑い黄ばんだ歯を煌めかせた。
「何日かかるか正確にはわからない。だが、普段のペースでいけば一か月以内にはここに戻って来られるはずだ。だから一か月、それ以上俺がここに姿を現さなければ死んだと思って、その鎌鼬の鎌は別のことに使ってほしい」
 淡々と述べるアルマの威圧感に気圧されたベイルは「あ、ああ」としか言いようがない。死というものを死ぬ前からわかっているかのように扱う者は、アルマを除き誰一人として存在しないだろう。なぜアルマが死に対してここまでの智を持っているのかはわからないが、確かにアルマは自分の死に対する恐れの無さへの自信があった。

 そうと言われたら行動に移さない手はない。当初こそ新しい服などの調達に来たアルマであったが、ベイルに次の入都のための金としての通行料を借金という形で貰い受けた後、そのまま商業都市を出て、離れ森へと向かった。
 未だ携える武器は、短剣一振りのみ。これからこの短剣のみで百八十を超える鎌鼬を狩らなければならないのだから大変な苦労をするだろう。しかしこの世界で生きるため。いやどこか心の奥底で戦いを渇望しているアルマがいた。



 それからアルマは表層にて待つ戦いから攻める戦いへと戦法を変え、|紅魔眼《マジックセンス》による索敵によって、鎌鼬を狩っていった。しかし地道な狩り方ということもあり、結局討伐数はいつもとあまり大差ない。
 そこで改めて攻める戦いに行くのではなく、待つ戦いに戦法を変えることにした。しかしただ待つのではなく誘い、待つ。何か鎌鼬の獲物となるものを用意し、それを囮に鎌鼬を集める。その囮を作るためにはまず鎌鼬の食料となるものを突き止めなければならない。
 アルマは一旦鎌鼬を狩ることを辞め、はぐれていた一匹にあたりを付け、そいつがどのようなものを食料としているのかを遠くから観察し、統計を取っていく。
 結果出たのはほとんどにおいてこの森の木から採ることのできる果実だった。それこそ死んだ魔物の肉を捕食することもあったのだが、鎌鼬はこの森の食物連鎖の最下層に位置する魔物らしく、彼らを捕食する者があっても、彼らが捕食する者はほとんどいないに等しかった。

 そしてその鎌鼬が食す樹の実は、|紅魔眼《マジックセンス》で見る限り、多く魔力を有している樹に多く実っていた。アルマは自らの魔力をマーキングする要領で、目印となる樹に自らの魔力を流し込んでみる。
 もちろん鎌鼬が樹の実の匂いを感知しているのであれば、この罠は失敗に終わるだろう。しかし彼らは腐っても魔物だ。魔力を感知して食料を探しているとすれば、確実にこの樹の元へ集まってくるだろう。そしてそこに集まってきた鎌鼬を狩る、狩る、狩る。そうすれば自然と鎌鼬の鎌は集まっていくはずだ。

 アルマの予想は当たった。先ほどの狩り方より、明らかに効率よく鎌鼬はアルマの元へと誘われている。しかしここは離れ森の表層だ。いくら効率が良いと言っても単純な鎌鼬の数の元、二百という爆発的な数字が直ぐに取れるわけでない。だからこそ十匹を狩り終えたアルマは、一度家に戻り、明日は中層へと足を運ぶことを決めた。
 狩った鎌鼬はいつもの狩りの時のように、首の血管を切った後、樹と樹の間に張ったロープに括りつけ血抜きを行っておいた。その鎌鼬をいっぺんに担ぎ、家の近くの湖を起点とする沢へと運ぶ。十匹だ。普段のペースだとだいぶ時間がかかると予想したこともあり、今日は早めに切り上げた。それこそこいつらは新たな武器を手に入れるための材料に過ぎないのだが、ただ食わずに捨てるというのももったいない。
 一番大切な鎌鼬の鎌を先に取り外した後、腹を割り、内臓を外へ出す。今回は心臓の脇にある魔晶石を捨てないように、ちゃんと取り出し、それを腰に付けていたポーチへと入れた。青紫色の中がじんわりと光っている綺麗な石であった。

 鎌、毛皮、肉、内臓、魔晶石と分けた鎌鼬を籠の中に入れ、今日食べる分以外は上手く骨を取り外し、家の中の日の当たる場所で干し肉にする。十匹中今日食すのは二匹。それ以外の肉は全て乾燥させ、保存食にする。
 目標数は二百で、現状は二十二匹。一日で十匹と考えると二百は不可能な数ではないだろう。月光が差し込む窓に青く輝く魔晶石をかざし、鎌鼬の魔力の鼓動を感じつつ、目を閉じた。



 表層と中層の違いは凄まじいものであった。直線距離で考えれば数百メートルにも満たない距離であるはずなのに、明らかに匂いが違った。もちろん|紅魔眼《マジックセンス》から感じ取れる魔力の大きさも違うのだが、そうではない。視覚や聴覚などで分かる危険ではなく、薄っすらとここはやばいと直感させるような空気が中層には漂っていた。
 そして現れる一匹目。この一匹の姿で、なぜこの中層で不穏な空気が漂っているのかを理解する。

 明らかに大きさが違うのだ。表層で狩っていた鎌鼬は子供なのではないかと思う程の大きさを持った彼らの鎌は明らかにアルマの持っている短剣かそれ以上であった。これからこいつらと戦っていかなければならないと考えると、一抹の不安に駆られるが、所詮大きさが変わっても鎌鼬だ。使ってくる戦法は同じ。飛び上がり首を狙ってくるだけだ。
 迫り来る鎌を短剣で弾き、空中で体勢を崩した鎌鼬の頭を短剣で貫く。
 数が多く、身体が大きくても、やることは一緒だ。ただ迫り来る鎌鼬の軍勢を短剣で捌き、死体の海を作る。それを淡々と毎日毎日繰り返した。油断して傷を負うこともあったが、それも包帯を巻いて、欠かさず毎日鎌鼬を狩っていく。いつの間にか腰のポーチは魔晶石でいっぱいになり、干し肉も一生食いきれないのではないかと思う程の量になっていた。

 そしてそんな日々を繰り返して二十二日目。とうとう討伐数は二百に上り、改めてアルマは商業都市へ向かう。服は商業都市を出たあれから明らかにもっと古臭くなっているし、ポーチなどの所持品も穴が空き始めていた。それこそ金となる魔晶石は沢山あるというのに、物を買えないという皮肉な状況があった。
 しかし一か月弱使い続けた銀の短剣は一切の刃こぼれどころか、切れ味が落ちることはなく、その輝きを未だに誇っている。それについて疑問を抱いたアルマはそれについてもベイルに尋ねようと思っていた。

「坊主! 来たか」
 笑顔でアルマを迎えたベイルに対し、アルマは鎌鼬の鎌二百本の入った袋をベイルに差し出した。
「よっしゃ早速これで作ってやるから待ってな!」
「よろしく頼む」
 ベイルはそう言うと、その袋を手に、仕事場に入っていく。少しするとその中からカンカンと金属を叩く音が聞こえてきた。その音を聞きながら、アルマはゆっくりと店内の武具を見て回る。

 何時間経っただろうか。一つ一つの武器防具を手の取り、じっくり見て回った後椅子に座り、うとうとしてきた辺りでベイルが姿を現した。
「アルマ出来たぞ」
 その手には持ち手から刃まで全てが黒に染まった短剣が握られている。美しい白銀に装飾の施された銀の短剣に対し、無骨で戦闘に必要なもの以外は全て取り払われた黒鋼の短剣。対になるように作ってくれたのであろう、とベイルの粋な計らいを感じられる。
「黒鋼のトレンチナイフだ。持ち手を刃から伸びるフィンガーガードで保護しながら、ナックルダスターのような打撃も行えるような形で設計した。逆手に持つことで拳の勢いに乗せた斬撃を放つことが出来るだろう」
 ベイルに渡されたその短剣を右手に装備し、素振りを行ってみると、鮮やかに空気を切る音がした。
「心地良い音だ。ありがとう、ありがとう!」

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:12:09

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