仲間との別れ方

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 話の間、常に皆アルマのことを静かに見ていた。その目に映っているのは悲しみ、憐み、驚き、怒り、それぞれであったが誰もアルマのその話に対し、慰めという言葉をかけてやることはできなかった。

 ランスは俯き、サリナは涙を流し、バロンは目を瞑り、リーシュは机の上の食器を弄っている。

「これが覚えている限りの俺の過去の記憶だ。これでも俺を仲間と認められるか? 俺の手に掛かった最初の血は仲間の血だ。ランスの敵討ちとは全く違う。ただの自己満足のために、苦しみから逃れるために水から仲間を手に賭けることを決めた俺を」

 その言葉に対し、少しの静寂が流れるが、その静寂に耐えられなくなったバロンは最初に口を開いた。

「まあ俺は|迷宮《ダンジョン》攻略だって、戦線だって共にしたわけじゃない。だがお前は俺の大切な仲間を腹にどでかい穴を開けてまで助けてくれた。なんで最近会ったばかりのランスにそこまでした? あの狼に乗って嬢ちゃんだけ連れて帰ることだってできたはずだ」
「簡単に言えば、サリナのついでだ。恰好つけていいなら同じパーティの仲間だからだ」
「それだよ。それがお前の本質なんじゃないのか? いくら殺人を苦にしない人間だとしてもだ、誰かに貰った大切なコップは壊したくはないだろう? それと大切な人を失いたくないって言うのはコップと人の価値に差があるだけで、大した差はないんだよ」
「何が言いたい?」
「お前がさっき病室で言ってたことと変わらない。お前は俺たちにとって、仲間殺しのレイヴンでも、魔物のアルマでもねえ。仲間のアルマ=レイヴンだ。お前はランスの命を救ってくれた。しかも人間種領で暗躍していた魔人を一人退けちまった。個人的にも役職的にもお前には感謝してもしきれねえ。この際だから言っちまうが、上からの命令でお前を魔人の手先かと疑った。だがここまでした奴を魔人の手先だと思うか? 俺たちの仲間だと認めないなんて言ったら、一生お天道様を拝むことはできないだろうな。だよな? リーシュ、ランス?」
「はい、隊長の言う通り。あなたはランスの命の恩人です。感謝を。聖教騎士団のリーシュとして部下を救ってくれたという感謝ではなく、個人であるリーシュとして私の大事な仲間を助けてくれたあなたに私ができる最大の感謝を捧げます」

 リーシュがそう言った後、ランスはアルマに向かって手を差し伸べる。握手を求めた手であることはアルマにもすぐわかった。

「アルマ、お前は俺の恩人だ。俺の命の恩人だ。もし君に危機が訪れるものなら、俺はこの命を懸けて君と共にここに誓おう。聖教騎士団の象徴、太陽に誓って」

 アルマはリーシュの後にランスの手を取り、いつもの通りの皮肉を述べて見せる。

「もし、俺の危機だとしたら、お前は役に立たないだろうからその時はちゃんと今より強くなっていてくれよ?」
「はは、ははは。それでこそアルマだ。ああ、任せろ。俺は君より強く鳴って見せるさ」

 そしてバロンは立ち上がり、声を大にして言う。

「おい! 飯を持ってこい! 一番良い食事を! 最大級のもてなしを! 今日は新たな仲間への歓迎会と、仲間を救ってくれた感謝を込めて宴会だ!」

 扉が勢い良く開けられ、そこから多くの豪勢な食事が運ばれてくる。



「今、団長が不在だから俺が代わりにやらせてもらうぞ」

 食事を並べ終わった後、バロンはアルマの肩を叩き、そう言い、壇上へと昇った。

「全員整列!」

 バロンのその言葉に、聖教騎士たちはランスやリーシュを含め全員、アルマとサリナの前に整列した。

「我等、王国軍精鋭部隊聖教騎士団は我が同胞を救いし英雄アルマ=レイヴン、サリナ=エースに感謝を捧げる! 全員敬礼!」

 その言葉に全員寸分違わぬ鮮やかな動きで、腕を振り敬礼を行った。そしてその動きは勢いよく、風を切り、綺麗に合わせ、とてつもない音を鳴らした。

「おいおいおい! すげえな! これを全部食っていいのか!?」
「腹が減っているだろう? 今日は宴会だ!」

 アルマは目の前にある貴族が口にするものであろう食事を片っ端から口に放り込んでいく。

「うまい! 美味い! どれもうまいぞー!」

 香り高い酒、歯触りの良い肉、上質な脂の魚、深い甘みを持った芋。どれもが上手いの一言に限る料理である理由も頷ける。なぜならこれらは戦地に赴く彼らが英気を養うために特別に支給されている食料であり、それこそ貴族と兵士のみが食すことが許された食材で一等の料理人がそれらを作っているのだから。

「おい、ランス」

 アルマは共に食事を食べているランスに話しかけた。

「どうした?」
「お前はもう大丈夫なのか? 俺の話で色々持ってかれちまったろ?」
「ああ、そういうことか。俺の魔人の血を封じていた盾を装備していなかったことはもちろん注意されたが、人として生きる道をくれた隊長の期待に応えられるように頑張るよ」
「堅えし、そういうことじゃねえよ。メンタル的なこと言ってんだ」
「多分、君と俺の過去を比べてもどっちが辛いとか、どっちがマシとか区別は付けられないだろう。でも君と同じだよ。共に辛い過去を持っている友を得た。辛い過去より俺は未来を見たい。そしてその未来にはダインスレイフをコントロールし、君に勝っている未来が見える」
「はは、その様子なら大丈夫だろう」
「それより、君は大丈夫なのか? それこそ俺が言うのもなんだが、君は辛い過去を背負っているだろう」
「俺はもうこれをずっと抱えて生きてきたわけだし、もうどうするとかっていう話じゃないんだよ。それこそお前と同じで仲間殺しだってことに変わりはない。もしこの過去を払拭できるとしたらそれは俺が冒険者を皆殺しにした時、ガルベスとの約束を果たした時だ。敢えて、政府組織の一員であるお前に言う。俺はいつか本当にガルベスと同じ道を辿るだろう。その時、俺と共に冒険者を殺して回るか、俺のように人殺しに身を落とした俺を殺しに来るか、どちらにするか考えておいてくれ。それまでは確かにお前の友であり、仲間であることを誓おう」

 ランスはアルマの瞳の奥に映る黒を感じざるを得なかった。ランスの未来はアルマやサリナと共にこの残酷な世界をなんとしても笑顔で生き延びていく未来であった。

 ランスはその未来をアルマと共に共有したかった。しかしアルマの未来はそんなに生易しいものではなく、最初から最後まで確実に仲間の復讐を遂げるためのものであったらしい。

 それだけを言うと、アルマは一人宴会場を抜け出し、本部の中庭へ向かった。

 中庭に備え付けられたベンチに座り、アルマは銀の短剣の切っ先を指に押し付け、かつて商業都市の鍛冶師に銀の短剣を見てもらった時のことを思い出した。魔封石のみで作られた短剣。それがこの銀の短剣であった。

 ランスの魔人の血の封印が解かれた時、何かが砕け散るような音が響いた。ガルベスの短剣を防いだ時、何かが砕け散るような音が響いた。

 もしこれが昔、記憶の無い時期、十二歳より前に、自分に誰かが授けたものだとしたら。

――自分の身体には何が封じ込まれていた? 

 恐らくはこの大喰手という能力。魔人の使徒の力も、かつての英雄の力も、恐れられた魔物の力も全て。そう全て、この世界の全ての力を手に入れる能力。

――俺は絶対に手に入れる。勇者の力も、魔王の力も。そして一人で終わらせる。冒険者を全て殺す。邪魔をするならバロンも殺す。リーシュも殺す。ランスも殺す。サリナも殺す。

――俺はガルベスと同じ轍は踏まない。



「ランス! あれ、アルは?」

 サリナは一人静かに食を進めていたランスに声を掛けた。ランスは返す言葉に迷うが、それを悟られない様、早めに言葉を返す。

「この喧騒に少し疲れてしまったそうだ。アルマは特に病み上がりだったしな」
「そっかー。こんなに美味しい料理が沢山あるのに残念だね」
「まあ俺たちを助けるために奮闘してくれたんだ。隊長も言ってた。戦士には休息が第一だって」
「そうだね。酷い傷だったみたいだし、髪の毛だってあんなに白くなっちゃったし」
「大丈夫だろう。アルマが弱くないというのはサリナが一番知ってるだろう?」
「うん! そういえばね……」

 サリナは一旦言葉を切ってランスの顔を見つめる。

「どうした?」
「いや、ね。アルが言ってたんだけど、ランスが怒って剣を使ったのは私を助けようとしたからだって。……ありがとう」

 サリナは優しい笑顔で、ランスの手を取り静かに言った。その頬は赤く染めあがり、サリナの瞳は薄っすらと潤んでいる。

「いや、まあそれは……」

 と言いかけた時、サリナはランスの手を咄嗟に握っていたことに気付き、手を放した。

「あ、いやごめん――。あーあっちのご飯の方も美味しそう! ちょっと私行くね!」

 そういうとサリナは恥ずかしそうに別のテーブルへと走って行ってしまった。ランスはサリナの手のぬくもりが消えない手を見つめていた。



 アルマとサリナとランスは中庭に集まり、|三首狗《ケルベロス》の迷宮での報酬の山分けをすることにした。

 クロノスの懐から魔石から換金された金の入った袋を取り出し、それを三人の前に置いた。

「金は均等に三分割。余ったいくらかはどっちかが貰ってって良いぞ」
「物資は本部に頼めば、多少は貰えるから俺もいいぞ」
「えへへぇ。じゃあ私が貰っちゃお」

 サリナは嬉しそうに余った金を財布に入れ、もう一度嬉しそうに笑った。

「よし、これで金の分配は終わりだ。本来ならこれで終わりなんだが、今回はもう一つだけある」

 アルマは赤く輝く魔石を取り出して二人に見せる。

「それは……」
「ああ、ケルベロスの武具晶石。魔人が置いて行ったものだ」
「武具晶石!? 迷宮主の武具晶石なんてとんでもない程希少なものだぞ!?」
「武具晶石ってあれだよね! |狼の迷宮《ダンジョンウルフ》で皆で集めた奴!」
「ああ、そうだ。今からこれがなにになるか皆で調べて誰が受け取るか決めることにしよう」

 そう言うとアルマは|三首狗《ケルベロス》の武具晶石に魔力を流し込んでいく。するとその武具晶石は赤い魔力を放ち始め、|三首狗《ケルベロス》の首輪のようなチョーカーへと変化した。|三首狗《ケルベロス》の毛のような禍々しい黒いベルトには点々と等間隔に銀色の棘か外側に向けてついている。

「これが|三首狗《ケルベロス》の武器だというのか?」
「チョーカーだよね? 投げてでも使うのかな?」
「いや、恐らくこれは魔法導具だろう」
「魔法導具?」

 サリナの質問に対し、ランスが補足する。

「場合によるんだが、主にその魔物が使う固有魔法を獲得出来たり、その魔物を使役することのできる召喚の術を得たりするんだ」
「なにそれ! 凄いじゃん!」
「まあ俺は普通の魔法は使えないから使っても無意味だ。これもどちらかに任せる」
「|三首狗《ケルベロス》ってことは炎の魔法だよね?」
「ああ、多分な」
「それなら私に頂戴」

 真剣に、いつもの可愛らしいサリナとは違い、それこそ炎の覇気が籠ったような声で、茶色の瞳を強く熱く煌めかせながらそう言った。ランスは続ける。

「俺は、基本的に光属性しか使ってないからな」
「ありがとう」

 アルマは笑いながらサリナに聞いた。

「なんだ、なんだ? 今日はやけに真剣じゃないか?」
「二人の過去の方が全然辛いものだって言うのはわかってる。でも私にも目標はある。私は行方不明になってるお父さんを探したい。それには力が欲しい。でも私は弱い。魔人を前にして、場の状況を理解もできず、ただただ甚振られただけ。ランスには悪いけど、ランスには光と闇の二極の力がある。アルには魔人と渡り合える力がある。でも私には何もない。それどころか炎の魔法しか使えなくなった」

 アルマはその話を遮り、サリナに問う。

「サリナ、お前が炎属性の魔法しか使えなくなったのはいつからなんだ?」
「それは……二年位前だったけど、あれ。アルに炎以外の魔法を使える時期があったのを教えたことあったっけ?」
「あ、ああ」

 アルマはサリナの炎しか使えない理由について確信するが、その真相についてはまだ言うべきではないと悟り、そっと胸の奥にそれを押しこんだ。

「そうか。それはこの魔法導具に出会う運命だったのかもな……」

 と、適当にその質問を誤魔化して見せた。

「そう、魔人に圧倒されるのも運命だったのかもしれない。だから私は少しでも強くなりたい。特にその魔法導具でアルやランスみたいな確かな個性を手に入れることが出来るなら尚更」
「お前がそこまで言うなら、いいよなランス?」
「ああ、もちろんだ」
「魔法導具は装備した状態で魔力を流し込めば何か起きるらしいぞ」

 ランスが不安な顔をしながら言う。

「何かって。何か不安要素があるのか?」

 サリナとランスが不安そうな顔をしているので面白くなったアルマは見え見えの嘘をついて見せる。

「まあ後遺症とかで頭が三つになったりするんでねえの?」

 とけらけら笑いながら言った。

「三つ首……。それでも、私は大丈夫……」

 もの凄い形相でサリナはチョーカーを見つめる。ランスもそれこそもう言い合わらせないような顔でアルマとサリナの顔を交互に見る。

「いやいや、嘘だよ。安心して使え。見ててやるから」

 サリナはチョーカーを首に嵌めた後、髪を結ってきた髪留めを取り、笑いながら魔力をチョーカーへと流し込んだ。

 するとそのチョーカーは赤く光り輝き始め、その光は見る見るうちに膨らんでいき、たちまちサリナを呑み込むほどの大きさになっていた。

 その光が、シャボン玉が割れるようにはじけると、炎を全身に纏ったサリナがそこには佇んでいた。瞳も綺麗な茶色から、全てを呑み込んでしまいそうな深紅に染まっている。また髪の毛もふわふわと揺らめき、サリナ自体が炎のようなそんな印象を受ける見た目に変わっていた。

「うわ、なにこれ。すごい……」

 通常、魔力の膨張はぴりぴりと神経を逆撫でするような、警戒心を高めるようなものだがこのサリナの魔法は静かに周りを温めるような。

 そう、アルマの家の近くにあった湖から上がった後、焚火を眺めているようなそんな温かみを感じる。しかしこの安心感は同時に巨大な不信感を抱かせる。

 相手に安心感を与えるということは油断を誘うということ。アルマは確かにこの魔法の凶暴性を、全神経を通じて感じていた。

「すごいよ、力が溢れてくるってのが実感できる」
「他にもなにかやってみろよ。何ができるのか知っておいた方が実戦での汎用性は高い」
「それもそうだね」

 サリナはアルマの指示を受け、様々なことを試していく。その中で発見したこの魔法最大の強みは自動防御であった。

「ランスは回復魔法の準備を。サリナ、本当に風刃でいいんだな?」
「サリナ、やっぱもっと弱い魔法が良いんじゃないのか?」
「ありがとう、ランス。でも大丈夫。強くなるためなら何でも試したいの」
「そうか、それなら俺は全力でバックアップする」
「うん、ありがとう。お願いね」

 サリナの顔はやはり少し強張っていた。それもそうであろう。魔人を退けたアルマの魔法を今から自動防御の実験のために食らうというのだから。

「よっしゃ。じゃあランス準備は良いか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「よし、サリナ行くぞ。最初は一番弱めのやつだ」
「う、うん」

 炎を纏った状態のサリナに風刃を放つ。すると足元から炎が噴き出、アルマの風刃を掻き消してしまった。

「おいおい、なんだよ。その便利魔法は……」

 流石のアルマも苦笑いをしてしまった。防御実験を続けていったが、まさか最大出力の風刃をも防いでしまったのだから。

「まあもとは鎌鼬の固有魔法だが、そりゃないぜ?」
「えへへぇ。強いのは嬉しいけど、まだまだ。もっとつかいこなせるようにならなきゃ」
「自動防御……。能力はそれ以外にないのか? 三首狼はその三つ首での強力な連撃で多くの冒険者を屠ってきたと聞いたことがあるが」

 ランスのその呟きにアルマは一つサリナに提案をする。

「連撃か。サリナ、手に魔力を集めてみて?」

 サリナは自らの手をじっと見つめる。するとその手から勢いよく炎が噴き上がり、その手には炎が灯った。そこから放たれる近距離での炎の攻撃はすさまじいものであった。また魔力を尚溜めると、かなり強力な火球を際限なく放つことが出来るようである。

「魔素を直接炎の燃料としているのか……。だから手に灯ってる炎や火球はサリナ自身の魔力を介していない。真の炎、サリナが死なない限りこの炎は永遠に灯り続けるってことか。凄い魔法を手に入れたな、サリナ」
「うん、本当にすごい。なんだろ自分じゃないみたいだよ」

 基礎となるあの巨躯を持ったうえで、これほどまでに強力な魔法を扱う|三首狗《ケルベロス》がどれだけ強かったか。そしてその|三首狗《ケルベロス》を一人で倒した後に、アルマと互角に戦ったアスレハも。

 多分その二人もその事実に感づいたのだろう。アルマたちはその事実を静かに噛み締める。



 その空気を変えたのはランスだった。

「一ついいか?」
「どうしたの?」

 サリナが応える。

「迷宮の攻略も色々あったものの終わってしまった。君たちはこれからどうするんだ? 目的は達成したからもう帰ってしまうのか?」

 サリナは寂しそうな顔で、アルマに答えを求める。

「そうだな。ここにいても宿代がかさむ。聖騎士たちが泊めてくれるって言っているがそれも申し訳ないしな。明日か明後日、俺の体力がしっかり回復したら帰ろうと思ってる」

 ランスは寂しそうな顔をしながら返事をした。

「そう、か……」
「なに湿気た面してんだ、騎士様よ。会った時の威勢はどうした? ビビっちゃってますか?」
「馬鹿言え。俺が君なんかにビビるわけないだろう。だが少しの間にでも共に過ごした仲間だ。やはり別れるのは……」

 騎士であるだけに義理堅く仲間思いだということがはっきりと伝わってくる。だからこそアルマはランスの様子を見て笑った。

「別に今生の別れってわけじゃないんだ。まあ騎士様はいつ死ぬかわからないんだろうけど、まだ死ぬ予定はないんだろ?」
「ははっ。予定って。どこからどこまでも皮肉を言うんだな、君は」
「死にそうになってたら俺が止めを刺しに来てやるから安心しな」
「はっ、もう二度と君に負けることはない。とは言えないが、あまり騎士を甘く見るもんじゃない。負けるとしたら君にだけだ。君以外に負けるつもりは無い! そしていつかは君すらもだ!」
「そうだ、それでいいんだよ。はあ、俺は病み上がりだから疲れた。宿に戻ってゆっくりするとするよ。じゃあな、ランス。サリナはまだうろうろしていていいぞ」
「ああ、また明日」
「わかった!」

 アルマはランスのサリナに対する、サリナのランスに対する行為には薄々気付いていた。だが、アルマはそういうことに関しては手助けのしようがない。だがら少なくとも二人になる時間をと、この場を後にした。



「はぁ、なんかすっごい大変な一週間だったなぁ。でもなんだかんだ楽しかったね!」

 サリナはベンチに座り、足をぶらぶらと振りながらそう言った。

「そうだな、騎士としてやってると何かと同年代が少ないんだ。だから俺も君たちと少しでも一緒に冒険ができて楽しかった。ありがとう」
「ううん、私こそありがとうね。ランスの活躍は見れなかったけど。さっき言ったように護ってくれようとしてたのは知ってるから」
「ははっ。アルマは本当に気に食わない奴だよ。俺はただ暴走してボコボコにされちまっただけなのにさ」
「でもあの時のランスの顔は本気だったって」

 サリナは静かにランスに微笑んだ。ランスの心臓が高鳴り、手が震える。頭の芯がじんと熱くなり、軽いめまいのようなモノがランスを襲う。
 風がランスとサリナの間を吹き抜け、木々がランスに打ち明けろと騒ぎ立てる。

「さ、サリナ……」
「なに?」
「俺は騎士だ。だからいつ死ぬかわからない……」
「え、うん」
「だから、言えるうちに言っておきたい。俺は君と一緒にいたい」
「え? 一緒にいるじゃない?」
「いや、そうじゃなくて。男女として、恋人として……」

 サリナは嬉しいような、いやそれより驚いた表情の方が大きかったと思う。

「俺は君が好きだ」

 サリナは静かにランスの後ろに回り、ランスの髪を結ってきた紐を静かに外し、自らが付けていた装飾のついた髪留めで、ランスの髪を結う。

「これはね、お父さんが私にくれたお守りなの。これをランスに預けるよ。次に会うときまで持っていて。私はまだランスみたいに強くない。知っていると思うけど私とあるは学校で王国軍選抜部隊の推薦を目指してる。私が王国軍の選抜部隊に入れればまた会えると思うの。それまであなたが持っていて。その時が来たら……」

 サリナは恥ずかしそうに顔を赤らめながら言う。

「よろしくお願いします」

 手を腿に沿えて、深く頭を下げ、もう一度顔を上げた時、サリナの顔は真っ赤に染めあがり、満面の笑みを浮かべていた。

 ランスは嬉しくて嬉しくて堪らなかったが、その感情をぐっと押し込み一言だけ告げる。

「次に君に会うときまで絶対に生き残って見せる!」
「うん!」

 サリナは思い切りランスに飛びつき、ランスにハグをした。



「かぁー、ランス君もお年頃のようですなあ。リーシュ副隊長!」
「そうですね! 胸がキュンキュンしますね。バロン隊長!」
「なっ、見てたんですか!? からかわないでください」

 バロンとリーシュは大きな声で笑った。



 朝日が聖教都市を照らし、気温も心地よく、とてもすがすがしい朝だった。しかし同じような時間であるのに迷宮出かけた時より少し騒がしい。町の門に近づくと、なぜそれほど騒がしいかわかった。

「おーい!」 

 ゲートの近くにはランス、バロン、リーシュ。他にも多くの聖教騎士たちが集まっている。

「見送ってくれるみたいよ! アル!」
「そうだな」

 多くの聖教騎士がアルマの功績を讃え、迎えてくれた。

「皆、見送りありがとう」

 アルマがそう言うと皆寂しそうに一言くれた。サリナはアルマの横で少し泣き出しそうになっている。
 そして一番世話になった三人の中で最初に声をかけたのはバロンだった。

「坊主! お前は見込みがある。絶対に王国軍に来るんだ。俺らと一緒に世に平穏を齎そう。待ってるぞ」
「はっ、おっさんはかてえかてえ。いい給料だから目指してるだけだ。そんな大義名分はいらねえよ」

 アルマは笑いながら応える。そして固く強い握手をする。次はリーシュであった。

「君がいるとランスが静かなの。早く戻ってきてくださいね」
「副隊長! それはないですよお」
「はっはっは。また来るよ」

 リーシュは静かに微笑む。
 そして最後にランスが。

「アルマ、次は君に勝つと言ったが、次は共にあの魔人に勝とう。それまでに俺は君の足手纏いにならないレベルまで強くなる!」
「ああ、もう俺もあんな屈辱は味わいたくない。絶対だ」

 アルマとランスは拳をぶつけ固く誓う。そしてアルマとサリナはシロンヌに乗る。

「じゃあ、行くとするよ」
「おう! またな!」
「また」
「じゃあな!」

 アルマとサリナは皆に手を振り、門を潜り、商業都市を目指した。






 時はアルマが聖教都市ファリスに帰ってきた直後の時間に巻き戻る。

 聖教騎士専用対魔人会議室。厚さ二メートルの鉄板で囲われ周りには防音の魔法が施されている会議室だ。これによって外部への情報漏出を防ぐ。

「バロン! 真夜中に呼び起こして、大事でなければ許さないぞ!」
「申し訳ありません。しかし大至急お伝えしなければならないことがありましてっ」

 薄暗い会議室の机には団長含め、各部隊の隊長、副隊長が集まっていた。

「先日、いや昨日私の部下が|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》にて魔人と遭遇。しかし突然と言うこともあり、パーティはほぼ壊滅。魔人は取り逃しました……」
「なに!?」
「|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》だと!?」
「この街から半日と掛からない場所にある迷宮ではないか! 目的はなんだ!?」
「パーティ三人の内、二人は早期に魔人に戦闘不能にさせられ、ほぼ記憶がない状況にあります。そのうちの一人が私の部下でして、そのような状況と言うこともあり、ダインスレイフの封印も解かれてしまいました。しかしそれは既に対処済みです」
「もう一人はあの『合成獣の後継』として調査を進めていた少年です」
「なに!?」
「『合成獣の後継』が魔人と接触したというのか!?」
「はい。今回のことにより、少年が『合成獣の後継』だということははっきりいたしました」
「やはり、そうであったか」

 そこで団長が初めて口を開いた。

「その少年は私が、数週間ほど前からマークをしていました。しかし……。命に別状は?」
「はい、腹部に大きな損傷が見られましたが、現在特治癒術士に治療をさせています。しかし能力の酷使による反動が、凄まじい速度での筋繊維などの損傷が見られます」
「それでは心配だ。治癒術士の数を倍にし、必ず三人以上の者が彼を診ているようにしろ」

 その言葉に他の隊長が反対する。

「団長、それはいくらなんでもやりすぎでは?」
「いや、彼は我等人間種の光になり得る存在だ。その彼をちょっとした怠りで失くすのは惜しい。我、聖教騎士団団長イレイス=バレットの命として、絶対に彼の命を失わせるな!」

次章


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  • 最終更新:2020-04-16 01:14:43

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