古と今と、炎と光と

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前話


本編

「ロード! エルノ! 試合開始!」

 地方部期待の星、都市部からも注目を浴びているこの時代の勇者の出番であった。イギル、アルマの次に戦闘を行い始めるロードは連勝というプレッシャーを抱えていたが、それすらもはねのけることが出来るという自信が彼にも地方部の皆にもあった。

 そんなロードに対し、エルノと呼ばれる少年は余裕そうに右腰に差してあった直剣を取り出した。しかしエルノの腰に下がっている剣は二本。先ほどのガルムラスのように都市部の近接系は何かしらの不安要素を残してくる。

 それに対しロードは「全力で来なくてよいのか?」と尋ねることで意を悟られないようにエルノを誘う。

「まさか初戦で勇者様と戦うことになるとは思わなかったけど、僕は絶対に負けないよ。特に君にはね」

 エルノはロードの顔を見ながら戦闘中とは思えない程、優しく微笑んで見せた。

「浅はかなことを……」

 ロードは腰に提げている剣の柄を触りながら、エルノの目をきつく睨みつける。

「勇者様とは思えない目つきだ。それに落ち着きもない。何か焦ることでもあるのかい? それとも僕に負けるのが不安なのかな?」

 小さく乾いた笑いを送った。

「馬鹿にして!」

 ロードはすさまじい速さでエルノの元に飛び込み、抜刀の勢いにより直剣を振るう。その切っ先は鮮やかな銀弧を描き、エルノの首筋に迫る。

 しかしエルノはそれを華麗な直剣捌きで受け止め、弾き返してみせる。ロードこそ攻撃を弾かれたとしても、大きな隙を生みはせず、確実に二段目、三段目の斬撃へ繋げていった。

「いいよ、ただの剣技なんてさ。僕は勇者の剣と魔法の混合技、魔剣がみたいんだ」

 魔剣、剣術と魔術を混合させた勇者のみが許された技。|魔法強化《エンチャント》など、武器に魔法を付与する魔術は全てにおいて、この勇者の魔剣の下位互換であった。

 それを自ら誘うエルノは、このロードの連撃に耐えているだけあって、余裕、自信があるようだった。それに未だ二本目の刃を抜こうとしない。

 ただの自信家か、それとも絶対的な勝利への確信があるのか。

「それなら、お望みどおりに! |炎《フラム》・|風《ヴァン》・|水《オー》!」

 魔術詠唱における、炎、風、水の三種の属性を唱えただけで、ロードの剣は白く光り輝き始める。常軌を逸した魔術とも分類されないそれは、明らかに勇者のみが扱える技であった。

「三光斬……。初歩中の初歩じゃないか。そんな技――」

 エルノの直剣が突然炎を吹き上げる。魔法強化だ。
 その出来事にロードは驚くが、そのまま一段目の攻撃に入る。

「紅の閃光!」

 ロードが剣を振るうと、白く輝いていた剣は紅く輝き、炎を纏った斬撃が飛び出した。しかしそれがわかっていたかのようにエルノは炎という圧倒的攻撃力に強化された剣によってその斬撃を打ち消してしまう。

「まだあるんだろ!」

 エルノがそう叫ぶと、ロードの剣は薄っすらと緑色のベールのようなものを発現し、それを放つ。

「緑の極光!」

 エルノに巻き付いたそれは身動きをとれなくさせるが、それをわかっていたかのようにエルノの直剣は風を纏う。そしてその剣を振っていないというのに、そのベールを切り裂き、エルノはあっさりと拘束を逃れる。

「風の魔法強化は出力の調整によって、飛ぶ斬撃となるのは知ってた?」

 エルノは剣をもう一度|魔法強化《エンチャント》する。最後は水の魔法強化。受け流しに重きを置いた魔法強化だ。

「くそっ! だが! 青の月光!」

 ロードが剣を振るうと、剣は青白く輝く。そうするとロードは一瞬でエルノに肉薄し、先ほどより早く剣を振るう。しかし水の|魔法強化《エンチャント》が施されているエルノはその乱打をいとも簡単に弾き、弾き、弾いていく。

 剣先は鮮やかな青白い円弧を描くが、それを水飛沫が遮る。

「なんで君の|魔法強化《エンチャント》と、僕の|魔法強化《エンチャント》が同じ属性であるのに、違う恩恵を齎すか知っているかい?」

 息を切らしたロードを横目に、エルノはそう呟いた。

「最初は全て憧憬の念だったんだよ。勇者が使った剣に魔法を宿す力がかっこいいって。でもただマネするにはつまらないだろ? だからかつての人は勇者の三光斬に相性の良い形で魔法強化を発現したんだ。勇者の弱点になるところは全て知ってる。だから君は僕に勝てない」

 炎による飛ぶ斬撃を、炎の圧倒的攻撃力で防ぎ、風による拘束を、風の飛ぶ斬撃によって逃れ、水の連撃を、水の受け流しによって返す。

「お前は何者なんだ……」

 ロードのその問いに、エルノは淡々と述べる。

「僕はエルノ、ただのエルノだよ。強いて言えば、先祖が魔剣を使っていたらしいけどね」

 そう言った瞬間、エルノはロードに向かって強打を放つ。ただの直剣から繰り出されたはずの斬撃の勢いは凄まじく、ロードの剣を持つ腕を痺れさせる。

 ロードの中では二つの選択肢が渦巻いていた。

 魔剣の最大の技を使うか、使うまいか。それこそ先祖が魔剣を使っていたということは、エルノは勇者が扱う魔剣の技の多くを知り尽くしている可能性がある。ということは、ここで下手に技を使ってもエルノには敵わないということだ。

 だからこそロードは純粋な自らの力のみで。アルマと出会い、鍛え上げた自らの力のみで、彼に勝つことを誓う。

 三光斬を納め、ロードは魔力を体内で循環させていく。その速さをだんだんと上げていき、心臓の鼓動を加速させていく。

「|力無き我に全てを救済できる力を《サン・ハルト・ブースト》!」
「|限界突破《オーバーソウル》……。劣勢状況で使う|限界突破《オーバーソウル》は、もう自分にやれることはありませんって言ってるようなものだ。脳死で力を上げればいいと考えている、愚かな考えだ」
「それは俺と剣を交えてから言え!」

 瞬間、ロードはエルノに肉薄し、直剣を振るう。大振りでエルノに襲い掛かった直剣は、凄まじい勢いでエルノの直剣に打ち付けられる。
 |限界突破《オーバーソウル》した身体から放たれる斬撃は、その身一つで岩を砕くと言われるほど。

 しかしエルノは華麗な剣捌きで、ロードの剣を受け止め、受け流し、後方へとロードを促した。
 そのがら空きな背中目掛けて、斬撃を放つが、ロードは振り抜いた剣を背中まで回し、エルノからの斬撃をノールックで防いで見せた。

「だから窮鼠は怖いんだ」

 未だ背を向けているロード目掛けて、エルノは連撃を叩き込んでいこうとする。しかしロードは|限界突破《オーバーソウル》で溢れ出した|覇気《オーラ》を放つことで、エルノを怯ませる。
 そしてその|覇気《オーラ》を剣に纏わせることで、剣から放たれる風圧によってエルノをその場に押さえつけた。

「流石勇者様だ。魔力量が他の人と桁違いだ」
「べらべらと。これで終わりだ」

 そう剣を振り上げたロードに一筋に斬撃が見舞われた。
 直剣とは違い、ただ突きにだけ特化した素早い剣戟を想定した剣。レイピアによる斬撃だ。

 エルノがもう一本を抜いた。

 直剣の大振りと、レイピアによる細かな連撃。それを嫌なタイミングで繰り出して行くエルノの練度はかなり高い。
 ロードは成す術もなく、その連撃を受けることしかできず、その上|限界突破《オーバーソウル》の疲労により、その喉元に剣を突きつけられることとなった。

 ロードの喉元に突きつけられた直剣をみた審判は簡単に、その試合を止めた。

 勝者はエルノ。エルノの手の上で踊らされていたと思う程に、簡単な決着だった。

「くそ!」

 負けたロードは控室の壁を鋭い拳で殴打する。ゴブリンの村での一件から改めて修練しなおしたというのに、結果は敗北。それこそ合格どうこうより、ロードはエルノに対して、一矢報いることが出来なかったことがどうしても悔しかった。

 しかしそんな悔しみに耽る暇もなく、間もなく第四試合の火蓋が切って落とされようとしていた。



 都市部の流れになるかと思った第四試合。わかってはいたことであるが、この対戦カードは双方に大きな衝撃を与えた。

「サリナ! セラ! 試合開始!」

 地方部同士の試合。もちろん勝ち負けで選抜組を決めるわけではないと言ってはいたが、同じ部での蹴落とし合いを見なければならないのは心に来るものがある。しかしサリナは違った。

「|地の中で燃ゆる炎よ、全てを焼き尽せ《フラム・オラージュ・バレット》」

 開幕直後から炎属性最大火力を放つサリナに、観客は呆気にとられ、爆発の砂埃をもろに食らう。どよめきが走る中、まだ砂塵の中ではいくつかの炎の爆発が見えていた。

 砂煙が晴れた時、そこには光るドームに囲われたセラがいた。

「攻撃力では、サリナちゃんに勝てないかもしれないけど、防御は凄いのよ!」

 金髪をはためかせながらセラは魔法の詠唱に映る。それをさせまいとサリナは自分の得意魔法である炎弾をセラに放つ。

 サリナの手から放たれる炎弾は詠唱中で、無防備なセラの身体を痛々しく焼いて行った。しかしセラが言ったようにセラは防御は凄かった。

 魔法自体のタフさではなく、セラ自身もタフで、炎により肌が焼かれていたとしても物怖じせずに詠唱を続ける。

「|聖なる光へ導くための道を《ルミエール・ハルト・パーセル》」

 セラがそう唱えると手に、黄金の球体が形成されていく。見る見るうちに大きくなるそれはいつのまにかセラを包み込み、一瞬のうちに弾ける。

 本来であれば人にはないであろうその純白の羽根。黄金の光を身に纏い、身体の半身を覆う程に大きな翼を備えたセラはまさに天からの使い。

 愛の女神からの使いは、その魔法によって、全ての傷を癒してしまう。

 サリナの三位一体のように、この天翼と呼ばれる魔法は、一定の攻撃からの傷であれば瞬時に自動で治してしまうという効果があった。

 そんな上級魔法の出し合いに、観客は開いた口が塞がらない。サリナもそうだが、愛の女神の加護を受けているセラの光魔法は文字通り脅威でしかなかった。しかし魔術師の問われるべきところはどれだけ強力な魔法を使えるかではなく、どのように扱うか。

 セラは翼を羽ばたかせ、戦場を地上から空中へと移す。そしてサリナの隙を見ては輝く羽根を矢のように無数に降り注がせる。その羽根は神が自らを守らせるために遣いへ授けたもの。

 飛翔だけでなく、凄まじい攻撃力をもつ羽根は、地面に着弾すると数秒後に光属性の小爆発を起こしていく。結果地面は抉れ、サリナの足場はどんどん悪くなった。

「空を飛ぶなんて魔法、ぶっ飛び過ぎてる! これじゃあ炎弾でも届かない!」

 サリナは無我夢中で炎弾を打ち切るが、直撃したものは一つもなかった。簡単な魔法で攻撃を与えることを諦め、サリナは両手に魔力を集中させる。

「でも、空を舞えるのが一人だと、勘違いしないで! |天を舞う紅き神の使いよ、我が手の元に《フラム・オラージュ・ショック》」

 サリナが唱えると、無数の爆発と共に目の前に巨大な炎の塊が形成されていき、塊からは細長く炎が迸る。そしてその炎が象るのは、ドラゴンとの対を成す、伝説の空の覇者、龍。

 そしてその龍は生きているような動きで、サリナの周りをぐるりと一周した後に、サリナの背後に佇み、咆哮を行った。

 アルマがその龍を|紅魔眼《マジックセンス》で視認すると身体のいくつかは燃えている岩で形成されており、それこそ龍の正体であった。

「炎と岩で作られた龍……。あんな技、ファリスにいた時では」

 そう、サリナはファリスにいた時、こんな強力な魔術は使うことが出来なかった。しかし自分の無力さをしったあの日から血の滲むような努力を続けやっと二つ目の上級魔法を獲得するに至ったのだった。

 その龍は全てサリナの魔力で支えられており、それこそ多くの集中力を要するであろうが、サリナはそれを今涼しい顔で発現させている。

 本来は全て炎で構成される炎龍であるが、その体の中に岩があることを考えると、サリナなりに見つけた打開策であったのだろう。流石としか言いようがなかった。

 そしてサリナは腕をタクトのように撓らせ、その龍を操る。龍は空を駆けるセラを追い、セラを食ってやらんとその大きな口をさらに大きく開く。

 セラは華麗に空を舞い、龍の猛攻を鮮やかに避けていく。時に龍に向かって羽根を飛ばし、サリナの攻撃へのけん制を行い、時にサリナに羽を飛ばし攻撃の隙を伺う。

 このままではいつしかサリナに羽が当たるだろうと思った直後、サリナはタクトのように振るう腕を片手から両手に変えた。

 すると龍は二匹に分裂し、別々の動きでセラを追いかける。そのパフォーマンス性に観客は歓声を上げ、多くはサリナの応援を始めた。

 一匹の龍でセラを追い、二匹目の龍で挟み撃ちを狙う。

 そして天使は龍に食われ、上空では大爆発が巻き起こる。羽根が焼け落ちたセラは上空から地面へと向かってすさまじい勢いで落下し始める。しかしサリナはそれを爆炎の爆風によって落下速度を弱め、受け止めて見せた。

「大丈夫?」
「サリナちゃんが助けてくれたから大丈夫」

 と、二人は笑いながら立ち上がる。結果としてセラが降参を宣言し、サリナの勝利としてこの戦いは幕を閉じた。

「なんだよ、今の戦い……」

 そんな言葉が都市部の生徒たちから聞こえてくる。実際サリナとセラの戦いは都市部の生徒に凄まじい衝撃を与えた。空を舞台にした戦闘、飛び交う上級魔法。そしてサリナが発現させた龍。教育の環境が生徒の強さを決めるわけではないと、強く生徒に認識させた、この試合は既に多くの都市部の生徒の士気を下げることとなる。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:21:02

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