復讐の炎はまだ燃える

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前話


本編

 アルマは紅砲剣をサイレンスへと変化させた後、竜ノ爪ではなく、銀の短剣と黒鋼のトレンチナイフを装備し、警戒した。

「やりな!」

 という声と同時に、周りから青の狼の鎧を纏った戦士が三人ほど現れた。女を含め敵は四人。サイレンスに魔力供給を行い、戦闘に入る。

「サイレンス! バックアップ!」

 飛びあがりククリナイフを振り下ろそうとする一人の腹部を黒鋼のトレンチナイフで殴打し、鎧を砕き、そのまま回し蹴りでサイレンスの前へとそいつを蹴り飛ばす。サイレンスは最高のタイミングで魔弾を放つ。ランスが扱う光ノ矢とは違い、暗黒の矢が鎧を透過し、戦士の精神を崩壊させる。戦士は武器を持つ力さえ失い、その場に倒れこむ。

「闇魔法だ。人間に修復する手はないぞ! これ以上被害を出したくなければ姿を現せ」

 その言葉を無視し、周囲の戦士は未だ矛を収めようとしない。

「人がモンスターに勝てると思っているのか?」

 アルマは竜ノ爪を取り出し咆哮を行う。

【ギャォオオオン!】

 地を轟かせる雷鳴の如く、咆哮は空気を震わせ、周囲にいた戦士の戦意を喪失させた。

 そして暗闇の奥から手を叩きながら銀の狼の鎧に身を包んだ男が現れた。

「さすが|強戦士達《モンスターズ》最強の戦士、アルマ=レイヴンだ。素性を確かめるためにあなたを試させていただきました。部下共のご無礼をお許しください。私の名前はパブロ=ギルゲイル」

 そこには魔特会の長、パブロがいた。戦士たちと同じように狼の刻印が施された鎧に身を包みながら、狼の様な灰色が混じった髪の毛をオールバックにしている若い男。恐らくあの髪の毛は染料を利用して狼の毛並みを再現しているのだろう。魔特会の表の性質が故に、本を読みすぎたのか、そのワイルドなオールバックとは裏腹に、眼鏡が不釣り合いに、彼の顔にはあった。

「やっと本隊のお出ましか? やる準備はできてるぞ」

 アルマのその言葉にパブロは誤解を解くような素振りで弁明する。

「いえ、私はあなたに危害を加えるつもりはありません。しかし|強戦士達《モンスターズ》、最強の戦士は刀剣などという奇妙な剣を扱うと聞いていたのですが」
「暗鬼組はかなりのモノだと聞いていたからな。刀剣は未だ練度が低い。しかしこの感じだと刀剣でも余裕だったかもしれないな」

 パブロは笑いながら、アルマの方に近づいていく。

「あれは我らの戦闘部隊、暗鬼組の訓練生。未だ戦力として扱うには心許ない。暗鬼組の精鋭として戦っている者たちはかなりのものですよ?」
「そうか、魔特会の長にそう言わせる奴等とは戦いたくはないなあ。そういえば俺の仲間はどうなってるんだ? 奴らになにかあったら今ここで、お前を殺すぞ」

 アルマは圧力をのせ、パブロに言い放つ。しかしパブロは動揺する素振りを見せず、魔特会の本拠地を案内し始めた。

「大丈夫ですよ、お仲間は全員、客間に当たる部屋で御持て成しさせてもらってますので。危害は一切加えていません」
「それならいい。しかし陰気なところだな。日の光が一切見えない」

 辺りを見回すと、黒か灰かどちらとも言い難い壁と天井、床が伸び点々と灯りが付けられていた。

「ここは地下にあるのです。私の仲間には優秀な錬金術師がいましてね。多くの金属を複合させた合金と呼ばれる物で所謂シェルターを制作したのですよ」
「それを地下に埋めたのか。しかもこれだけ大きな建造物を地下に、か。優秀な魔術師も揃っているんだな」
「ご名答。どこの地下かは言うことができませんがね」

 そう話していると、少し開けた場所に辿り着いた。祭壇のような物があり、その壁面には魔特会の旗印が掲げられている。今まで見なかった魔特会の人間もちらほらと見え始め、パブロと共に歩いているアルマの姿を警戒しているのが見て取れた。

 遠くでモンスターだとか魔物とかいう声が聞こえたが、慣れたものだった。もう自らの名前だと錯覚するほどには。

「ここが、大広間になります。あそこで任務を受け、あそこで報告する。あの道を真っ直ぐ行けば食堂に繋がり、そちらの道を行けば居住区に」

 と、パブロは指を差しながら設備を丁寧に説明してくれた。

「基本は冒険者ギルドと同じなんだな」
「まあ、そうですね。仕事は冒険者狩りですが」
「おいおい、長がそんなこと言ってもいいのか?」

 アルマは笑いながら応える。

「もしトレジャーハンターだのなんだのと言っても皮肉を言われるだけでしょう? 貴方とは仕事の話をするつもりだったのですからね。さあこちらへ」

 パブロは大広間から小さな道へと案内し、アルマを一つの部屋へと促した。

「一応お仲間の安全も確認しておいた方が良いでしょう?」

 部屋の小窓からはランスやサリナ、仲間たちの姿が見えた。机の上には料理や娯楽が並び、魔特会の人間と楽し気に話している。

「あそこまでしてもらって悪いな」
「いえ、大事なお客様ですからね」

 そこからアルマは別の部屋に通された。一対の椅子と、金属の机。部屋の真ん中で小さく揺らめく灯り。それはファリスで通された防音部屋を彷彿させた。

「防音はバッチリなんだろ?」
「さすが、良くご存じで。それと同時に双方の会話の音を収集し、後々その会話の内容を再生できる仕組みになっていますので、後で嘘をつくことは不可能になっています」
「そっちの方が有難いよ。交渉に関してはいい思い出がなくてね」
「それならば」

 パブロは手前の椅子に座り、アルマを奥の椅子へと促した。

「さあ早速交渉に入りたいのですが」

 パブロは深く椅子に座り直し、机の汚れを布巾で拭いつつアルマの表情を伺う。

「もちろんだ。あんたの部下にきつく言ったにしても、俺だって魔特会程の巨大組織を最初から敵に回すつもりはないさ。都合の良いタイミングで貸しを作れるなって思ってな」

 先ほどから微笑んでいたパブロは大きく笑い始める。

「正直者は馬鹿を見ますよ?」
「今回の敵は冒険者ギルドだ。そいつらを告発できればなんでもいいが、意外なところに鴨がいたってわけだな。普通にあんたらを告発し、取り締まり処刑したって良いんだ。だが、それじゃあ勿体ない。事実俺はあんたらの実力は認めてるんだ。これだけの巨大組織の長なら知ってるだろうが、魔人との戦争が近いうちに勃発するかもしれないと言われている。俺は既に二人の魔人と対峙しているしな。俺はあんたらを俺たちの陣営に引き入れたいと思ってるんだ」

 パブロの笑顔も魔人という言葉が出るとその表情を硬くする。

「魔人の行動は最近目に余る。もちろん王国軍と正式に提携できるなら――」

 アルマはその言葉を遮り応える。

「王国軍とじゃない、俺個人とだ。俺たちの部隊は王国軍だと言ったが、どちらかというと聖教騎士団寄りだ。しかし俺たちは独立部隊として任されているからどこの軍にも所属していないと言える。ここからは軍人としてではなく、個人の意見として聞いて欲しい。今の人間種の王は所謂愚王に値する王だ。戒厳令が敷かれた際に王が指揮する王国正規軍は多分王都の防衛に回され、前線に出ることはしないだろう。聖教騎士団は最前線として魔人と戦うことになる。王国正規軍の状態を考えると、少数精鋭と言われている聖教騎士団が魔人軍の全軍を一身に受けたら、結果はわかるだろう?」

 パブロはアルマの話を真剣に聞きながら、それを少しずつでも理解しながら、そして生まれた疑問をアルマに投げかける。

「それなら冒険者ギルドに力を借りればいいのでは?」
「盗賊に力を貸すような奴らが信用できるとでも?」

 パブロは顎に手を添えながら、とぼけて聞く。

「先程からあなたは冒険者ギルドが盗賊と繋がっていると主張していますが、その根拠はどこから?」

 白を切りとおそうとするパブロに怒りを覚え、アルマは机を殴りつけ、パブロに顔を近づける。

「何度も言うが、俺が優勢だということを忘れるな? しかしそれを甘んじて受け入れ、まだ貴様たちに王族の財産に寄生する猶予を与えてやると言ってるんだ。貴様らが冒険者ギルドと盗賊の仲介を行ったのはわかってるんだ」

 怒号の後の静けさに漏れる一つのため息。それはパブロの妥協を表していた。

「力だけでなく、知略にも長けた戦士とは聞いていませんでしたよ」

 と言いつつ、パブロは冒険者ギルドと盗賊の契約書をその鎧の裏のポケットから取り出し、机の上に置いた。

「さあ、私たちは何を行えばよいのでしょうか?」

 アルマはもし戦争が起きた際の対応と、冒険者ギルドと盗賊の告発について話した。

「契約書ってのはな、契約を守らせるためにあるんじゃないってのは知ってるか?」

 パブロは元の微笑みの表情に戻り応える。

「さて、それはどういう?」
「自分たちの嘘を真実にするために存在してるんだよ」
「ははっ。恐ろしいお方だ。そういえば、貴方はなぜ私たちと冒険者ギルドとが繋がってると確信したのですか?」
「流れと勘だ」
「恐ろしいお方だ」

 そして、アルマとパブロは部屋を後にし、仲間を引き連れ冒険者ギルドが存在する傭兵都市ドルエムへとその足先、いや矛先を向けた。

「ふざけるなあ! き、貴様裏切ったな!」

 冒険者の本拠地、傭兵都市ドルエムに存在する冒険者ギルドの会議室では一人の男の怒号が鳴り響いている。

「裏切るも何も、私の部下が彼らと討伐した盗賊から押収した契約書を元に話をさせていただいているだけですが?」

 つくづくこの男の白を切る態度は賞賛に値する。自らがついている嘘を嘘としてではなく、一つの話術、話題として扱っているのだろう。嘘に対するこの動揺の無さはこのアルマですら異常性を感じざるを得ない。

 白を切りとおそうとしているこの男が魔特会の長、パブロ=ギルゲイル。交渉の場においては最大と言っても過言ではない助っ人だ。それに対し、アルマとパブロの策に嵌っている男こそ冒険者ギルドのギルドマスター、かつてアルマが所属していたパーティ|燃え盛る戦士達《フレイムウォリアーズ》を嵌め、ガルべスを盗賊へと貶めた張本人ライラスだった。
 
 パブロが持つ契約書には、冒険者ギルドと盗賊の関係は記されているが、魔特会がその仲介を行ったという表記どころか、魔特会の魔の文字すら見つからなかった。

 ライラスが何度圧力を載せた言葉を放ったとしてもアルマたちの中に動じる者は誰一人としていない。アルマはこれが冒険者の長かと、この男に翻弄された自分に心底腹が立った。そしてこの茶番をさっさと終わらせようと淡々と言葉を続けた。

「俺たちは王国軍です。この件について王都まで同行願います。貴方に拒否する権利はありませんので悪しからず」

 そう告げたアルマのことをライラスは覚えていたようで、きつくアルマのことを睨んだうえでアルマに対する誹謗中傷を始める。

「仲間殺しの分際で何をほざいている! 貴様のような人間に私を捕まえていいはずがないだろう!」

 剣を引き抜き、アルマに襲い掛かろうとするライラスに向かって、ランスは|盾突き《シールドバッシュ》を応用した打撃攻撃で、ライラスの脳を揺らし膝を付かせ華麗な手捌きで手足を縛ってみせた。冷徹な目で蔑むアルマに対し、「そんな目で見るな!」と叫ぶライラスの言葉はもうアルマの耳には届いていない。



 パブロとはアルマの頼みをもう一度確認した後、別れ、アルマたちは拘束したライラスを馬車に押し込み、王都への帰路に就いた。

 任務を与えられてからかかった日数は四日。今までで一番長い任務となったのだが部隊全体の雰囲気から見て、疲れというものは感じられなかった。パブロがちゃんとした宿を用意してくれたことが功を奏し、周囲の警戒などしっかりと行いながら王都への道を歩むことができた。

 結果背後から忍び寄る影に気付くことも容易であり、その盗賊を対処することも容易いことであった。そしてそいつらはライラスが仕掛けた刺客だということももちろんお見通しである。

 だが、襲ってきたのはたったの四名であり、明らかにアルマたちの力を見誤った判断であった。それもあの焦っていた状況で下したものと考えると仕方がないのだろうか。

 三人はアルマとランスで殺してしまったが、一人は敢えて殺さずに残しておく。正確には残していたのではなく、ランスが殺しかけたところをアルマが止めたという形であった。

 命を救ってもらったと勘違いし、瞳に光を取り戻した盗賊に対しアルマは現実を突きつける。

「貴様の死は確定している。忘れるな」

 盗賊はその砕かれた腕と足を力なくただ、体からぶら下げる。


 そして自分の拡張道具袋から鉄の短剣を取り出し、柄の方をランス以外の仲間に突きつけた。

「誰でもいい。こいつを殺せ」

 仲間の中に緊張が走っているのが、仲間たちの視線や鼓動からわかる。それもそうだろう。今ここで隊の副長であるアルマが人を殺せと命じているのだから。
 この言葉について反論したのはロードではなく、サリナであった。

「え、どうして。今ここで捕まえて帰ればいい話でしょ? なんでわざわざ人の命を……」

 親友だからといって、アルマは容赦するわけない。

「昨日、お前たちの戦いを見ていた。盗賊と戦っていた時だ。お前たちは戦いを何だと思ってる? 命のやり取り、それが戦いだ。俺とランスが殺してくれるから、自分たちは無力化でいい。そう思ってるんじゃないのか?」

 この問いに対し、答えを口から出せる者はいなかった。

「いいんだ。そうだっていう答えで。簡単に人を殺せる奴なんて狂ってるか、それほどの過去があるか、だ」

 ランスはアルマの言葉によって、表情に影を落とし俯く。そのランスの手をサリナが取る。

「俺は前者だ。ランスは後者。だがそんなことはどうでもいい。俺が狂ってようがランスにどんな過去があろうが、お前たちに人を殺すだけの度胸がなかろうが。俺たちは王国軍選抜部隊だ。独立部隊|強戦士達《モンスターズ》だ。選抜試験で見ただろう。魔人のあの膨大な魔力を。多分あれでも下の下だ。もしお前らが対峙した時、万が一そいつを無力化できたとする。しかしその時殺せないなんて言ってみろ。その次にはお前は二度とその口を開けなくなってるだろう。今から俺が教えるのは人の殺し方じゃない。自分の身の守り方だ。さあ、誰がやる」

 アルマはもう一度、鉄の短剣を皆に向かって突きつける。

 そしてまた長い沈黙が流れた。手足を縛られている盗賊はその間も常に、身を震わせ続ける。セラもナディアもリリィもエルノもガルムもロードでさえ、アルマの考えが変わってくれたらと何度も考えただろうが、アルマは一切この考えを変えるつもりはなかった。アルマは仲間を守るために、仲間を強くしなければならない。

 声を上げたのは、サリナだった。

「私が……私がやる」

 その言葉は今にも崩れそうな声で紡がれ、今にもサリナの目からは涙があふれだしそうになっている。だがその瞳の奥には確かな決意の炎が灯っていた。

 アルマはサリナに鉄の短剣を渡し、跪いている盗賊の後ろに立たせた。盗賊の髪の毛を掴み、未だ抵抗を続けようとする盗賊の身体を起こす。そして盗賊の首元に指を添え、「ここに」と短剣の位置を促す。

「一度自分の方に力を入れ、刃が肉に入るのを確認したらそこから思い切り短剣を引くだけだ。小さなアドバイスとしては終わったらすぐ離れるんだ。血に汚れたくないだろ?」

 そんなアルマの皮肉もサリナには聞こえていない。ただ淡々と、「入れて、引く。入れて、引く」と荒い呼吸と共にそう吐き出していた。

 大きく揺れるサリナの肩を抑え、心を落ち着かせる。

「サリナ、落ち着け。殺すという事実を受け入れるんだ。感情に任せて殺したら、すぐに忘れる。刃に肉が入り込む感覚、手ごたえ、殺される者の声。殺すという感触を覚えるんだ。そしてこれからそれをずっとやり続けなければならないという事実を受け入れろ。それがお前の選んだ道だ」

 サリナは大きく深呼吸を行い、今一度強く鉄の短剣を握りしめた。

 そして一つ、水の中で絶叫したような音が鳴り響き、少女の手は血に濡れた。



 サリナは口元を抑えつつ、近くの茂みへと駆け込み、こみ上げた不快感を吐き出した。

 緊張の糸が張り詰めた空気の中で彼女の嗚咽と地面に吐瀉物がぶつかる音が響いていた。その姿を見た仲間は共に、サリナの背中を見守るしかなかった。その中で一人ランスがサリナの元へ寄ろうとするが、アルマはそれを止める。

「今はまだ受け入れる時間だ。受け入れ終わって今より落ちたらお前の出番だよ。それはお前にしかできないことだ」
「そうか、そうか……」

 ランスは差し伸べたい手を抑え、サリナに背を向けた。

 常に共に居て支えるということが、仲間を強くするということに直結しているわけではない。もちろん突き放すことも必要だ。不快感に音を上げるサリナを見て、このようなやり方でしか何かを教えることができない自分が憎らしかった。心の中でサリナに謝罪をしつつ、自分自身仲間たちと共にサリナの背中を見守るしかなかった。

 少し経つと、顔を白く染めたサリナがこちらへと歩いてくる。

「最悪な気分ね。むかむかする。でももうだい――」

 そしてまた茂みへと走っていき、それを吐き出した。息を整えた後、またアルマたちの元へと歩いてきた。

「これから約一週間、長ければ一か月食事は喉を通らない、もしくは全部血の味がするだろう。夜中枕元では亡霊の声が聞こえるだろう。飯も睡眠もまともにできない日々だ。だからこそ、それを乗り越えれば強くなる。人の命の重さを知り、これから摘み取る命の多さを知るんだ」

 サリナはアルマの手を強く握る。

「わかってる。私はアルマとランスに早く追いつきたい。すぐに追いつくから、少しだけ少しだけ……」



 王都に着くまではセラとナディアがサリナを支えて歩いた。アルマとランスがバロンに任務の報告をしている間、聖教騎士の者たちにライラスを任した。バロンは最初からわかっていたためこの事実にそこまで驚くような素振りを見せることはなかった。しかし王国軍という立場のアルマたちから確実な証拠が出されたため、王国にてライラスを始めとした冒険者ギルドの面々を裁く必要があった。

 大抵の盗賊は首に賞金が懸けられているため、手間を考えるとその場で殺してしまうことが多いのだが、このような多少の身分を持つ者を裁く場合、正式な裁判が必要となる。

 アルマやランスはバロンに裁判を傍聴するかどうかを尋ねられたが、断った。裁判の結果だけ伝えてくれと頼み、アルマは自室へと戻る。ただの盗賊を討伐する任務だったのだが、今日は酷く疲れたような気がする。傷などから感じる痛みは感じられない。魔物へと体が堕ちて行っているからだろうか。だがその分、痛みによる制限がなくなるということは戦闘をスムーズに行えるということだ。
 でも、最近は特に胸の辺りに強い痛みを感じるようになった。それをサリナやランスに話した時、フランを失ったゆえの心の痛みからではと言われたが、心なんてものは人が縋る宗教的な神となんら変わらない。
 しかも心なんてものが人に存在するとしたら、アルマはあのガルべスと雌雄を決した時に失われているだろう。

 そんなことを考えるようになってしまった自分にほとほと呆れる。
「今日は疲れた」

 ライラス、冒険者ギルドの奴等に課された罰は一億四千万リルの賠償金。聖教都市ファリスに対し八千万リル。商業都市パランポロンに六千万リルという内訳である。
 アルマが願っていたのは冒険者ギルドという組織の解体、再構成であったのだが、魔人との戦争が一触即発である今戦力を解体するようなことはできないと上は判断したらしい。この怠惰が不幸を生み出さなければいいのだがとアルマはただ、願うことしかできない。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:24:11

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