水を征する者は試験を征する

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前話


本編

「み、水を探さないと……」

 学校で戦いの訓練は受けていたが、サバイバルの訓練なんてものは受けたことがなかった彼は今までに食料となる魔物を狩ったとしてもうまく捌くことが出来ず、いくつもの食料を自らの手で取り逃がしてしまっていた。

 一日が経って確保できた水も、運よく見つけた濁った水溜まりだけ。

 夜は少し冷えたが、日中はかなり暑い。こんなに喉がカラカラだというのにそれを嘲笑うかのように汗は絶えず流れ出ていた。
 
 しかも都市部であろう生徒がいくつも襲い掛かってくる。なんとか長期休みの修練で身につけた能力と武器として携帯している斧で追い払いはしたが、体力は既に限界を迎えている。次襲撃を受けたら危うい状況であることは確かだった。

 だがそんな人の気も知らず、強大な気配がこちらに迫ってくる。

「白い狼……に黒のローブ……」

 彼はその風貌からアルマが助けに来てくれたのかもしれないという淡い期待を胸に抱くが、その期待は投げられた短剣での返事によって悉く打ち破られた。

「危ねえ! 何をするんだ!」

 彼は投げられた短剣を確認すると、それは鎌鼬の鎌に似ていることに気付いたのだが、その間にアルマは狼と共に森の奥に消えていった。

「くっそ、アルマすらも敵対か!?」

 王国軍選抜試験はそれこそ極少数とも言える枠をかけた争いだった。それを考えるとアルマの性格で今のうちに全滅を狙ってきてもおかしくはない。

 もう諦めて腕輪の宝玉を壊してしまおうかと思った時、もう一度鎌鼬の鎌を確認して、先ほど見つけた違和感について思案する。それは朝起きて活動し始めてすぐ位に見つけた木についた傷。

 普通だったら目にも止まらないものなのだが、何故だろうか酷く強く頭に残っていた。

 鋭く、細く、深く樹の幹に付けられた傷。それがなぜ違和感を抱かせたか。

 この傷は誰が付けたのか、そう言うことである。生徒があの場を目印として付けたのだろうか。いや、だがどれだけ上質な武器であればあの傷が付けられるだろうか。直剣だとあの細さは無理だろう。斧なら樹の幹に刃が食い込みあんな鋭い傷にはならない。この傷は確かに斬撃による傷だろう。それならば短剣か。

 非力な魔術師がこれを付けられるだろうか。もし何度も何度も短剣を切りつけたら傷はつけられるだろうが、この一太刀で付けられたような綺麗な傷にはならないだろう。

 それなら魔法で樹に傷をつけるか? だがこんな極限状態でわざわざ体力を使うような真似をするだろうか。

 もう一つ考えられるのは魔物が付けたということ。昨日から遭遇した魔物は主に鎌鼬だ。鎌鼬の鎌で着いた傷なら納得であるのだが、これもやはり一つ気になることがある。

 それは傷の高さだ。鎌鼬は後ろ脚で二足状態になったとしても高さは三十センチになるかならないか。傷の位置は一.五メートルから二メートル程。少なくとも鎌鼬がただで付けるには無理な高さだ。もし樹を駆けのぼったなら可能だろうがそんなことをする理由が見つからない。

 しかも偶然か、投げられた鎌鼬の鎌は同じような高さに突き刺さっている。もしかするとあの傷はアルマからのサインか何かか? そう考えた彼は、本当に突拍子もない話だと自らの考えに呆れるが、一度諦めかけた身、ダメもとでその傷がついた樹へ向かうことにした。



「ああ、やっと見つけた……」

 彼は傷のついた樹のそばにへたり込む。が、まだだ。絶望的だった合格への道を微かに照らし始めたこの光を逃すわけにはいかない。

「これ、よく見たら矢印になってるじゃねえか」

 樹の皮やもとからあるような傷。そこにあの傷が重なり矢印のようになっている。
 でも、状況が状況だ。わかる奴にしかわからないだろうその傷は本当にアルマからのサインだと彼に確信させた。
 そして彼は樹のサインに従い、道を歩いていく。



 一瞬耳にした水のせせらぎは、乾ききった身体をその音だけで潤していくようであった。その音を捉えた瞬間、彼の奥底に眠る闘争本能がむき出しになった様に疲れが一気に吹き飛び、彼は水場に向かって猛烈に足を動かした。

 そして見つけた泉に顔を突っ込み、大きく喉を鳴らしながら水を飲んだ。汗でべたついた肌や泥にまみれた手、そして渇きに渇いた喉。それに水を与えていく感覚は至福、その一言であった。

「辛うじて、生きてたな……」

 彼は濡れた前髪を掻き揚げ、再度清涼な水を手にすくいあげ、それを飲み干す。身体の細胞一つ一つに水分が染み渡っていくようだった。

「まさか、お前が一番かよ」

 後ろから聞き覚えのある声がして、咄嗟に彼は振り向いた。

 アルマは驚いた様子でいる少年に、もう一度声を掛ける。

「よう、イギル。どうした? そんな変な顔をして」

 イギルは勢いよく立ち上がり、アルマの胸倉を掴んだ。

「お前なんで俺を攻撃して来たんだ!」
「おい、やめておけよ。一発でも殴られたら強制送還される可能性だってあるんだぜ? だけどこの泉を見つけられたのは誰のおかげだ?」
「だからって!」
「まあ落ち着けって。あとお前に鎌鼬の鎌を投げたのは俺じゃないからな。投げろとは指示したけど」
「え?」
「あれはサリナだからな?」
「どういうことだ? 説明してくれよ……」

 アルマは頭に血が上ったイギルに対し、何度も今の状況とこれからの作戦を伝えた。イギルはやっと落ち着きアルマに対し、きつく当たったことを今更恐怖し始める。

「お、お前どうしてそんなに穏やかなんだ?」
「は?」

 拠点へと歩いていくアルマの後ろからイギルはそう問いかけた。

「胸倉掴んだのに何もしてこなかったから」
「いや、さっきも言ったが状況が状況だ。今ここでお前を失格にしてやるより、少しでも駒になるならそっちのが良いってことだよ」
「駒、駒か……」
「まあ一番乗りってことは褒められるけどな」



 それからアルマはイギルにここまで辿り着いた者たちへの説明を任せ、周囲の警備及び、拠点の増設に戻った。



 日が落ち始めた頃、我ら地方部の拠点には総数二十人近くの生徒が集まっていた。数は想定より少ないが十分やれる人数ではあると思われる。ほとんどが顔を知らない者たちであったが、なぜ来たかと聞くと、アルマの姿を見たからだという。アルマは自分自身が思いの外、有名人になっていたことを知り、驚いていた。

 その二十人の中には勇者御一行も居り、勇者様は拠点でなにかと騒がしくしておられた。そして人の波が途切れたことを確認し、皆を集め、これからの予定について話始める。

「よし、良く集まってくれたな。まずはありがとうと言いたい。まあわかっていると思うが、ここは俺がこの期間で作り上げた拠点だ。今、君たちは俺の縄張りを侵しているという状況にあることを自覚してほしい」

 このサバイバル試験という状況で放たれたアルマの無慈悲な言葉にどよめく。

「俺は一人の生徒と協力してある作戦を立てた。もう一人の生徒は今――」

 そう言いかけると森の中からサイレンスに乗ったサリナが皆の輪の中に飛び込んできた。

「紹介しよう。サリナ=エースだ。彼女には俺の象徴の武器の一つ白い狼のサイレンスと共にある工作をしてもらった。その工作ってのは言わずともわかるだろう。鎌鼬の鎌を樹に突き刺すということだ」

 皆はそうだったのか、と再度ざわつき始める。

「ここから一つ、君たちと取引をしようと思う」

 皆は息を飲み、アルマの顔をじっと見つめる。

「先ほど言ったように、君たちは俺の縄張りを侵している。もしここをこれからも使用したいというならば、最終日俺の駒として都市部との『戦争』に参加してもらう!」

 一瞬の静寂の後、生徒たちの中で驚きと怒りの声が上がり始める。

「ふざけるな!」
「何が戦争だ!」

 アルマはその怒号の中、告げる。

「もう一度言うがここは俺の縄張りだ。縄張りであって隠れ家でもある。もし君たちが賛同しないというのなら無事に外に出すわけにはいかない。わかるか? 戦争して一次試験を共に切り抜けるか。今ここで失格するかだ」

 その言葉に対し、怒りに任せ剣を抜いた男子生徒は一瞬にしてサイレンスに結界を破壊され転移していった。

「俺の結界を破壊したとしても、こいつはここに残るぞ?」

 この時点でアルマは不正をされても怒りすら覚えない、勝つことへの執着の無さに呆れ半数以上が戦力にならないと思い、見限っていた。だが思いがけない男が声を上げた。

「僕はやるぞ。ずるをされて、やられっぱなしでは腹の虫がおさまらない。アルマ、君と意見が一致するときがくるとは、な」

 ロードは一歩前に出て、アルマと同じように皆の方を見る。流石勇者様と言ったところか。ロードにつられて何人かの生徒がこちら側についた。そして未だ戦争を渋る集団の中でまた一つ声が上がる。

「勝てる根拠は?」
「都市部の奴等がここに来る算段は?」

 その問いに対してアルマは応える。

「奴らの仲間にこの場所を知らせればいい」
「は?」

 アルマの唱えた作戦はこうだった。

 罠を張った時にいくつか落とし穴を作っていた。かなり深く掘り、声も漏れないように設計されたそれには何人かの都市部の生徒が嵌っているだろう。その中で一番正義感の強そうな生徒を連れて帰ってくる。そこでアルマたちが演じるのだ。その者にアルマたち男子生徒が女子生徒を荒く扱っているという状況を信じ込ませる。幸運なことにここにはセラとサリナという容姿の整った女子生徒が二人いる。その二人が優しく接することでその者の信頼を勝ちとり、四日目の夜にその者を拠点から二人が逃がす。どうか私たちを助けに来て、と。

 アルマは続ける。

「くだらねえ、三文芝居だが相手はどういう状況かわかるか?」

 明らかに頭の上にハテナマークが浮かんでいるような表情をしたためアルマは説明する。

「向こうは下手すりゃ二日、三日飲まず食わず。そして穴の中に入ってる奴は尚更だ。外に出て何かを取りに行くことすらできないからな。しかも都市部が優勢であるとされているこの状況。根拠のない自信と鈍った判断力は、そんなくだらない芝居にも引っ掛かる」

 恰好つけていったアルマであったが、アルマ自身成功するか否かは五分五分と考えていた。ただサイレンスをけしかけ皆殺しにするのも良いのだが、アルマはこの地方部の奴等の力を都市部の奴等に見せつけてやりたかった。屑の教師陣たちに。

 そう言っていると、まさかロードは皆の説得を試みるという暴挙に出始めた。ロードには反対されるだろうと思っていたアルマはロードがここまで使える男だとは思っておらず、想定外な形で場が動いて行った。

 それはとても良い流れとして、場の空気を動かし始め、アルマはロードにこの場を任せ、都市部の生徒を誘い出す餌を収穫しに行く。
 
 落とし穴一つ目。落ちた形跡はあるが、人影はない。もちろん落とし穴に嵌り、出られないことがわかって自主的に失格する者だっているだろう。だがそのような者の根性では仲間を呼んできて、自らを助けてくれた者に恩返しを使用という気にはならないだろう。そう、例えるなら少し前のロードのような正義感だけで突っ走るような者がちょうどよいのだ。

 二つ目、落ちた形跡すら無し。そして三つ目。穴の奥の方から何かの物音が聞こえる。

――かかっているか?

 アルマは長期休み中に作っていた煙玉を落とし穴の中に放り込む。少しすると穴の中から咳き込む音と人の声が聞こえ始めた。

「誰か! 誰かいるのか!?」

――こんな森の中で大声を出すなんてやっぱり生徒は生徒だな。だが諦めなかった根性は認めてやろう。

「大丈夫か!?」

 アルマはわざとらしく駆け寄る。なぜ、アルマが煙玉を投げたと思わないのか。それだけ疲労で思考が落ちていることも確認できたため、アルマは餌を決定した。

「ああ、よかった。罠に嵌っちまって。助けてくれないか?」
「ちょっと待っててくれ」

 アルマはロープを下ろし、餌を地上に引き上げる。

「助かったよ。ありがと――」

 アルマは餌の腕を後ろから締め上げ、トレンチナイフを首元に宛がう。

「なっ、なにするんだ!?」
「出身校は……」

 もう一度きつく締めあげ、尋ねる。

「と、都市部……」
「残念だな、性格の悪い教師陣を恨め」

 アルマは餌の腕を巧みな手捌きで縛り上げ、抵抗できないようにした後、口の中にぼろの布切れを突っ込み、口を封じ、歩かせた。



 拠点につくや否やアルマは木製の檻の中にその男子生徒を放り込んだ。

「くそ! 縄を解けよ! こんなことをして何になる!」

――五月蠅い都市部の坊ちゃんは正義感たっぷりだな。少し前の勇者様みたいだ。

 当のロードは無様に叫ぶ男子生徒を見て、汚物を見るような視線を送っている。

――本当に、長期休みの間に何があったって言うんだ……。

 アルマは五月蠅く騒ぐ男子生徒の檻を蹴り、脅した後、静かに告げる。

「結界破壊による転移が行われる前に殺せるって知ってたか? 俺は知ってるぞ、試したからな」

 もちろんこの試験で殺しはしていないが、可能ではあった。真実に嘘を、嘘に真実を混ぜ込むことで信憑性を増す。その言葉にサリナがアルマの元へと駆け寄ってきた。

「アル! もうやめて! こんなことしたって何にもならないよ!」
「うるさい! お前は俺の言う通りにしていればいいんだ!」

 アルマは結界が壊れない程度にサリナの肩を小突いたのだが、サリナは激しく派手に転んで見せた。

――くだらない三文芝居って言わなかったか?

 熱演とも言えるような転び方をしたサリナに対し、アルマは自らの作戦に引いた。

「お、おい、ロード。こいつを連れていけ」

 アルマは近くにいたロードを呼び、サリナを撤収させる。ロードも結界が壊れない程度の荒さで、しかしちゃんと女性を扱っているという気遣いを持ちながら、できるだけ荒っぽく見えるようにサリナを拠点の奥へと連れて行った。

「お前は都市部の奴等への見せしめだ! 地方部をあんまり舐めてると痛い目を見るってな!」

 アルマは地面を蹴り、その男子生徒に向かって土を飛ばした。土が目や口に入ったようで、男子生徒は酷く咳き込んだ。

「くそ、くそっ! お前覚えてろよ! 絶対に後悔させてやる!」

 アルマはその言葉を無視して、拠点の奥へ向かっていった。



「サリナ、流石にあの演技はわざとらしすぎないか?」

 笑いながらサリナに言う。

「あんくらいが丁度いいんじゃないかな? 良い感じに引っ掛かってくれてそうだし?」
「まあ、そうか。当たりを引いたっぽいし、ラッキーだよ。そうだ、ロード。いくら正義感に反するとしてもお前があいつを逃がすようなことをするなよ?」

 俯き加減のロードを心配し、アルマは釘をさしておくがその返事は意外であった。

「わかっている。ズルをした者への当然の報いだ。徹底的にやろう」
「お、おう」

 一か月でアルマは黒い髪の毛を失った。
 それに対し、ロードは明らかにあの鬱陶しいまでの正義感を失っていた。

 結果、この返事にアルマは驚きが隠せなかった。しかしこれが普通か。自らの仲間に対して不利な状況が突き付けられた今、正義感の塊であるロードの判断は正しい。正しいのだが、引っ掛かる。



 そして夜が更け、二回目。次のメインはセラとイギルであった。セラが飯を運んでいくと思いきや、その飯の入った皿をイギルが蹴り飛ばすという芝居。

 セラが水の入った器と燻製肉の入った皿を静かに檻へと運んでいく。そして檻越しに腕についた縄を外しつつ男子生徒へと優しく声を掛ける。

「あの……大丈夫ですか?」

 男子生徒はゆっくりと顔を上げ、セラの顔を見ると大きく目を見開いた。そう思春期の男でセラに優しく声を掛けられたら、当然あの反応になる。何といってもセラはやはり可愛かった。

「あの、お水とご飯を持ってきたんです。多分あの時から何も口にしてないでしょ?」
「ああ、今日でほぼ丸二日何も口にしてないかも……ありがとう」

 セラは静かに器を檻の前に置くが、そこにイギルが通りかかる。

「おい! 何やってるんだ!」

 男子生徒が水の器を手にしようとした瞬間、イギルが思い切り器を蹴飛ばした。水は男子生徒の顔に思い切りかかり、その他は地面へと染み込んでいく。セラが食料だけはという体で燻製肉の入った皿を抱え込むが、それを無理矢理奪い地面に叩きつけ、燻製肉を脚の裏でぐりぐりと踏みつけた。

 それを見ていたアルマは、少し不安になり笑いながらサリナやロードに尋ねる。

「少しやりすぎたかな?」

 ロードの返事が早かった。

「いや、あれでいい」
「あ、そう、です、かあ」

 アルマはロードの顔を数秒見つめた後、イギル達の方へ目線を戻すと、既にイギルはセラを連れこちらに歩いてきていた。

「少し、可哀想になっちゃった……」

 セラは涙ぐみながらそう話した。

「何を言ってるんだセラ! 僕たちは不正されたんだぞ!? あのくらいの仕打ちを受けても仕方ない」

 ロードの激昂に皆が驚くが、アルマはそれを無視してセラの肩を抱き慰める。

「大丈夫、もう酷いことはしない。後はあいつを外に逃がすだけだ」



 地方部の皆は寝静まり、今ここにいるのはアルマ、サリナ、イギル、ロード、セラ、ナディアの六人であった。ナディアの出番は、ナディアが人見知り過ぎるという理由で組み込んでいなかった。

 そしてその中のサリナとセラが男子生徒の檻に駆けていく。

「起きて!」

 サリナが男子生徒のことを起こす。セラが檻の木を外し、檻から出す。

「今、男の子たちは皆寝てる! 今のうちに逃げて!」
「それなら君たちも!」
「それは……できないの……。これ、罠を避けて通れるからこれを持って行って!」

 セラを涙を浮かべつつ、地図を男子生徒に押し付け走らせた。

「行って! 速く!」

 男子生徒はサリナに急かされ、その歩を早め、地図を持ち森へ駆けて行った。

「必ず、必ず戻ってくる!」

 その言葉を手繰り寄せることのできたアルマは戦争を確信し、明日の準備のため皆には早く寝るようにと伝えた。



「はぁ、はぁ。さっき水も飲めたし、体力は何とか持ちそうだ――」

 アルマたちの拠点から逃げ出した男子生徒は、かなり距離を取ってから睡眠をとった。そしてまず人を集めなければならないと考えた男子生徒はそこらにある薪を拾い集め、火球で火を付ける。煙が空に上がり、数秒経った後、焚火の上にぬらした布を被せる。そして火が消えないうちにその布を取る。それを繰り返し行っていくと、遠くの方に別の煙が立ち上がっているのが見えた。その煙も男子生徒がやったように、ところどころ途切れ途切れで空に昇っていく。

「よし、向こうの方向だな」

 男子生徒は布を被せるのをやめ、煙の経つ方向へ走って行く。この方法も都市部の教師に教わった長距離連絡方法であった。サバイバル試験では仲間との位置の確認が重要になってくるためと、この試験のために教わった技術であった。



「よかった! エルノ、ガルム、リリィ……」

 煙が上がっていた場所には三人の生徒が座り、その焚火を囲んでいた。その姿は三日もサバイバルをしていたとは思えない程綺麗な恰好をしており、その顔に疲労の一つも見えなかった。

「そうか、ラガン。君が緊急の狼煙を挙げたんだね?」

 茶色の癖のある髪の毛をしたエルノと呼ばれた男子生徒が優しくラガンと呼ばれたアルマの拠点から逃げてきた男子生徒に尋ねた。

「馬鹿よ! わざわざあたしたちの場所なんて教える必要ないって言ったのに! エルノは馬鹿なの? 愚か者なの!?」

 甲高く声を上げるショートカットの女子生徒は先ほどリリィと呼ばれていた。

「ガルムも黙ってないで何か言いなさいよ!」

 耳がキンキンしそうな程な声で言うリリィの言葉に何も反応しない男子生徒はガルムという名で呼ばれる。

 ガルムは都市部で近接戦闘の成績がトップ、エルノはそれに次ぐ二位。そしてリリィもそれに負けず劣らずの魔術の才を持っていた。

 力強い増援を得たラガンはその都市部の生徒たちに今まであったことを何から何まで伝え、地方部の討伐を手伝ってほしいと告げた。

 それについて最初に口を開いたのはリリィであった。

「馬鹿ね。明日、明後日を過ぎればこの試験には合格なのよ? それなのにそんなリスクを冒してまでなんで、地方部の討伐なんか。どうせ二次、三次で落ちていく連中よ?」
「同意だ」

 ガルムが添える。

「まあ過半数がそういう意見だからねラガン。でも声かけ位はしてあげても良いんじゃないかな? ね、リリィ」

 皆突き放したようなことを言う中、エルノはまた優しく応えた。そのエルノの言葉にリリィは渋々と詠唱を始め、風に音を乗せて一方的な連絡を取る風魔法|精神感応《テレパス》によって、ラガンの声を代弁した。

『リリィよ。今あたしの友人が助けを求めるの。もしよければ彼に会ってあげて? 今からは大変だろうから明日、私の友人が緊急の狼煙を上げ続ける。そこに行ってあげて。話は彼から聞いて欲しいの。どうか、皆彼の願いを聞いてあげて……』

 リリィはその可愛らしい声が演技だったかのように咳ばらいをすると、ラガンに目を向ける。その目は確かに「これでいいんでしょ?」と言っていた。

「ありがとう! 恩にきるよ」
「まあラガン。僕たちはこれくらいしかできないけど、もしよければ今日は僕たちと一緒にここで過ごしていきなよ。体中もぼろぼろだ」

 と言って、水筒に入った水をエルノはラガンに差し出した。

「エルノぉ。ありがとう……。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうとするよ」




 新たな日が昇り、エルノたちと別れてから二時間ほど。ラガンはずっと緊急の狼煙を上げ続けていた。王国軍太鼓判のエルノたちの影響力はすさまじいものであった。それこそまだ二時間ほどであったのだがかなりの都市部の生徒が集まってきていた。そしてある程度集まったところでラガンは手を止め、彼らに対して演説する。一昨日、昨日の顛末について。地方部の男子生徒の悪行について。

 リリィの誘いもあってか、多くの生徒がラガンの意見に賛同し、戦いに賛成したようだった。戦いは最終日の五日目だと伝え、今は彼らと共にキャンプを楽しむことにした。



「ラガン、あいつ大丈夫かしらね?」

 リリィはエルノに尋ねる。

「どうして? 人を助けようとしているわけだからそれなりに良い結果は戻ってくると思うよ?」
「人助けと言っても、地方部の子を助けようとしている訳でしょ? あの正義感野郎、いつかそれで後悔すると思ってたけど、そのいつかってのはこの試験かもね」

 リリィはくすくすと笑う。

「リリィ、その笑い方。性格悪いよ?」
「まあいいじゃないの! 最終日の結果発表が楽しみだわ……」

 リリィはまだ立ち上がる緊急の狼煙を見上げ不敵に笑った。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:20:15

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