決戦、獣の国

エピソード一覧


前話


本編

「すげえ戦い方だったな」

 そう声を漏らすのはガルベスだ。

 四日目の訓練を終えて、獣都を歩いていた時、獣都の王城近くにあるコロシアムにてなにか催しが行われると聞き、一行はそこへ足を運んだ。

 そこでは獅人族が、多くの部族相手にエキシビジョンマッチとして模擬戦を行なっていた。熊人族や牛人族、象人族など多くの相手を前に大立ち回りする獅人族の者たちはまるでアルマたちに向けて宣戦布告しているような、挑戦的な戦いを行なっている。

 圧倒的な獅人族の中でやはり獅子王レオンは自らの腰に帯びた剣のみで、凄まじい戦いを行なっていた。本来|獣型《ビーストイド》より運動能力が劣る|人型《ヒューマノイド》のレオンが|獣型《ビーストイド》の獣人相手に互角以上の戦いをしているのは、有り得ないことではないにしても驚くべきこと。

 魔術を有さない代わりに、他種族より圧倒的な近接戦闘能力を持つ獣人は、獣に近い体を持つ|獣型《ビーストイド》を王位決定戦に選出した。その数九割。レオンとアルマたち以外は全て|獣型《ビーストイド》の獣人が出場していた。
 

 獣人ではないアルマたちはさることながら、レオンこそ唯一の|人型《ヒューマノイド》での出場者であった。もちろん差別とまではいかないが、違いが生まれる現状、就くことのできる職だって変わってくるだろう。レオンはその体で師子王とまで呼ばれるまでに実績を残してきている。

 彼をそこまで突き動かすのは何なのか。少なくとも模擬戦の中で彼を見たアルマは、今一度王位決定戦についてを話し合うために皆をハウスへと集めた。


 出会って数日の彼らであるが、何度も訓練を続けていた中、息を切らしながらも冷静な戦闘の分析を行って見せるアルマの話をいつの間にか真剣に聞くようになっていた。

 訓練の改良もアルマが行ったし、その通りに訓練を行えば、より効率よく力がのばせたのも事実だ。

 そんなアルマが重い面持ちで口を開く。

「レオンはバンディとジンで叩く。俺とガルベスとリアムは三人で相手の四人をやる。申し訳ないがリアムとレオンを戦わせたら確実に負ける」

 その言葉に食って掛かったのはリアムではなくガルベスだった。

「おいおい、今更何言ってんだ? 人間の俺たちがレオンを倒しても意味ねえだろうが。リアムがレオンの顔に一発入れてやるから意味があるんだろ!? 負ける? 俺はお前がそんな腑抜けだとは思わなかったよ!」
「腑抜けでも臆病者でも何でもいい。合理的に一番勝てる確率を狙いに行くのが戦いだろうが。見なかったのか? あのレオンの戦い方を。大雑把に武器を振るう|獣型《ビーストイド》と違って、繊細に武器を扱うレオンは戦士というより剣士だ。でも、その技術でも勝てないとわかったら、自らの獣に従う。剣を|人型《ヒューマノイド》が故に持ちえなかった牙や爪のように振るう姿は、まるで獣だ。生半可な戦闘能力じゃあ一瞬で陥ちる」
「てめえ! 最近は有用だと思って話を聞いてら蒸し返すようなことを言いやがって! あと二日リアムが強くなればいいだけじゃねえか!」
「わからねえのか! リアムの力は相手の動きを先読みする力だ! 攻撃をよけられたとしても、相手に攻撃を与えられるような代物じゃねえんだ! リアムがレオンの顔をぶん殴るのもそうだが、まずは俺たちが勝って獣人の目を覚まさなきゃならねえんじゃねえのか!? そういう依頼だろうが!」

 言葉で勝てないとわかったらガルベスは手を出す。それをわかっていたアルマは敢えて手を出させるように促したのだった。

 座っていた椅子ごと後方に吹き飛ばされたアルマは、ずきずきと痛む左頬を構わず、切れた口内から出た血を吐き出した。

「気に入らねえなら、何でも暴力で解決。来いよチンピラ。軽くあしらってやる」

 そう吐き捨てたアルマに向かってガルベスはもう一度殴りかかる。迫りくるガルベスの殴打を、自らの前腕でいなし、そのまま手首を捉え、後方へ引っ張る。勢い余ったガルベスの軸足に、自らの足を引っかけ盛大に転ばせた。幸か不幸かそこには先ほどアルマが座っていた椅子が転がっており、それに強く上半身を打ち付けたガルベスは、額から血を流している。

「てめえがそうやって文句言ってる間に俺だって強くなってる。だがそれでも勝てるか危ういって言ってんだ。わかんねえか?」
「それじゃあ一人で生きてきたリアムが浮かばれねえだろうが!」

 投げられた椅子がアルマに当たり、一瞬怯む。その隙を突き、ガルベスはアルマの腹目掛けて前蹴りを放つ。内臓をつかまれたような鋭く重い痛みが体を駆け巡り、アルマは先ほど食べた食事を吐き出す。

「ごほっ、ごほっ。依頼だろうがぁ。獣人の頭を冷やさせるのが俺たちの仕事だろうが! 感情論にやられててめえの頭を熱くしてどうすんだ!」

 机の上に乗っていたグラスをガルベスの顔に投げつける。砕けたガラスの破片とグラスに入っていた水が顔にかかり、目を瞑ったガルベスの頭に飛びつき、ガルベスを倒させたアルマは、馬乗りになり、ガルベスの顔を二度殴った。

 両手には顔に付着していたグラスの破片が突き刺さり、血が滲む。それはガルベスも同じだった。

「やめてください!」

 絶叫にも近い声に驚いた二人は、戦意を喪失し、その声の主を見守る。そこには怒りに体を震わせるリアムがいた。

「私が獅子王に勝てるなんて思ってません。アルマさんが正しい。そうですよ、依頼は勝利です。もし個人的な感情に流されて勝利出来ずに終わったら元も子もない」
「だからこそ勝って、レオンもぶん殴れる方法を探そうって言ってんだ!」
「猶予はほぼ一日。もし来年に向けてであれば望みはあったでしょう。でもこの現状であればそれは難しい」

 自分で立ち上がり、次はリアムに迫るガルベスの肩を掴み、バンディが静止させる。

 ガルベスに殴られ、脳を揺らされたアルマのことはジンが支えた。

「アルマとリアムの言う通りだ。俺たちは仲間だし友達だが、それよりも依頼主と傭兵だ」

 バンディが言う。

「そんなことはわかってるんだよ!」

 助け舟を求めようと、ジンに目線を送るガルベスだが、ふらふらになったアルマのことを気にかけ、やり過ぎだと感じたジンは視線を落とし首を横に振る。

「なんだよ、長年やってきたってのにここ数日あったばかりのガキの言いなりかよ。見損なったぜ」

 そう言ってガルベスはハウスを出て行った。

「ガルベスさん!」

 後を追おうとするリアムをバンディが止める。

「頭が冷えたら帰ってくるさ。大丈夫だよ」

 アルマはジンの持ってきた氷嚢を殴られた顔に当て、傷を冷やした。

「俺が見てくる」

 傷を冷やしながらアルマはバンディの静止を振り切ってハウスを飛び出した。


 そんなに時間は経っていないので見つけるのも簡単だった。そこから後をつけ、ガルベスが酒場に入っていくのを見たアルマは、少しした後に酒場へ入った。

 するとそこには樽かと見紛う巨大なジョッキで酒を煽るガルベスがいた。

 アルマはそのガルベスの正面に座り、ガルベスの顔を見た。

 アルマの殴り付けたことによる青あざに、椅子で切った額、頬にはガラスが刺さってできた小さな傷がいくつか出来ている。

「ひでえ顔じゃねえか」
「てめえこそ」

 アルマもガルベスに殴られた顔の左半分が青く腫れ上がっている。

「飲めよ」

 ガルベスはアルマの前に静かに酒を出す。

「まだ俺の歳では――」
「仲間なら同じものを飲むべきだ。もし飲めねえなら仲間じゃねえ」

 別に仲良しごっこをするつもりはなかったが、その言葉にムカついた。

「それにここは獣人の町だ。人間の法は適用されねえ」

 小声で言ったガルベスの言葉に後押しされ、アルマは差し出された酒を手に持ち、ごくごくと喉を鳴らした。

 ジョッキはでかい。だが飲むのを辞めたら二口目は行けなくなると思ったアルマは口からジョッキを離すことなく、一度に飲み干して見せた。

「いい飲みっぷりじゃねえか」
「お前には負けたくない」
「ガッハッハッ。うるせえクソガキ。ひょっこり現れたかと思ったら俺たちのパーティリーダー気取りか? ふざけんじゃねえぞ! 俺たちはなあ土壇場でしか考えられる奴がいねえから勝つしかねえんだ! 勝つためになんでもすんだよ! 壊れた武器で殴ってな、その武器すらもダメになったら、拳で。拳がダメになれば、歯で! 何としてでも勝利を勝ち取るんだ。奪うんだ! 食らうんだ! だからお前も勝つためになんでもしろ。お前が俺たちの|頭脳《ブレーン》になれ。寝る間を惜しんで、血反吐吐いて、死に物狂いでリアムが殴った上で、俺たちが勝利する方法を考えろ。もしそれでレオンに勝てたらお前は俺たちのパーティリーダーだ……」

 そう言ったガルベスに何も言わず、アルマはもう一度酒を頼む。そして同じ大きさのジョッキで酒を飲み干した後、酔っ払った声で。

「俺がお前たちを勝たせてやる!」

 と怒鳴り散らかした。



 次の日ハウスでは、朝から頭痛いと顔色が真っ青なアルマとガルベスがいた。

「お前らなんだよ・・・・・・。くっさ。酒くせえってかアルマも酒くせえ! おい、ガルベス。お前アルマに酒飲ませたのか!?」

 胸倉を掴み、ガルベスを揺らすバンディに「揺らすな、吐きそうだ」と言う。

「今日訓練最後の日だぞ? 二人がその様子でどうすんだよ」

 と嘆くバンディにアルマが答える。

「今日は全員体を休める日だ。レオンに対しては俺が作戦を立ててどうにかする。だから一日考えさせてくれ」
「それがお前の選択か?」

 ガルベスが尋ねた。

「ああ」
「じゃあ休むとしよう」

 と言ってガルベスは自らのベッドへ戻っていく。

「なんだよ、すんなり言うこと聞いて」
「昨日何があったんですかねえ」

 バンディとジンは目を丸くして、互いを見つめ、首を傾げた。


 アルマはリアムに部屋を用意してもらい、現状の打開策を考えていた。
 生憎アルマたちは獣人として戦わなければならない。ということはジンは戦力にならないということだ。それこそレオンがアルマに「魔術師か?」と尋ねたことを考えると、レオンはアルマたちを獣人でないと気づいている可能性がある。しかしそんな不確定な要素を考慮して、わざわざジンを魔術師として運用することはリスクが大きすぎた。

 だから四人で獅人族の五人を相手にしなければならない。しかもそのうちの一人はあの獅子王レオンだ。


 まず考えるに当たってアルマは一度王位決定戦の状況をまとめることにした。

 王位決定戦に出場するのは、王権の宣言をした獅子王レオン率いる獅人族、密林の主ベルガー率いる虎人族、そして孤独な英雄の後継リアム率いる狼犬族。

 酒場で揉めた時の感じからして虎人族は取るに足らない存在だ。だが獣人の目を覚まさせるということを考慮すると、獅人族と虎人族の相打ちを狙うのではなく、両方の部族をアルマたちが討たなければならないだろう。

 ということは、獅人族の精鋭を五人相手にしながら虎人族の邪魔をあしらわなければならない。


 アルマは全員の訓練の成果を考慮したまま、長考した。そして、これしかないという結論の元、アルマはガルベスが眠る部屋の扉を叩いた。

「思いついたか?」
「ああ、一つだけ」
「なんだよその陰気な顔は」
「絶対に勝てるとは言えない。ガルベス次第だ。まだ|頭脳《ブレーン》として全然良い作戦が思いつかない。でもこの状況で勝つ兆しが見えるのはこれだけだ」
「なんだ? 話してみろよ」

 そしてアルマはガルベスに作戦を伝えた。


「おもしれえじゃねえか・・・・・・」



 王位決定戦の開始を合図する花火が空に上がる。

 獣都の王城内にあるコロシアムの名を冠した訓練場には総勢十五名の戦士が集まっていた。アルマたちもその中にいる。ほぼ全員普段と同じ格好であるが、ジンのみ急ごしらえの鎧に、リアムの持たない方の槍を持たされている。訓練の終わりに防御のみを教えてもらい、なんとか槍をある程度、扱えるところまでに達した。

 まあ当初からジンは戦力の中に換算されていないため、問題はないだろう。

 意外にもぴりついてはいないこの訓練場で、アルマはまずレオンの元に歩いて行った。もしこのやり取りがうまくいけば、ほとんどの作戦は上手く行ったといっても過言ではないだろう。

「よう」
「おっとこれはこれは、狼犬族の戦士の少年ではないか! 戦いの前だがどうした?」

 いつものテンションで話しかけてくるレオンは、やはりどこかムカつく。

「俺たちが虎人族と因縁があるのは知ってるだろう? 俺やリアムはその因縁の決着を付けたいんだよ。だから俺らと虎人族の決着がつくまで手を出さないで欲しいんだ」
「なに?」

 レオンの言葉に|圧力《プレッシャー》が乗る。

「神聖なこの王戦決闘で、戦いを安全なところで見ていろと?」
「だから神聖な戦いだからこそ、このいざこざを治めてから戦いたいって言ってるんだ。今の俺たちなら王位を決めようという志ではなく、憎しみで戦ってしまう」

 レオンは考えるように、黙った後、口を開く。

「ふむそうか。それならばどうしたらいいのだ?」
「ただ狼犬族の俺たちと、虎人族の戦いを横で見ててくれればいい。それで勝った方と戦えば」
「わかった。仲間にもそう伝えておこう」
「ありがとう、助かる」

 そうこれで、虎人族と獅人族と同時に戦う必要がなくなった。後は何とか獅人族に勝つのみ。



 三度大きく鳴らされる太鼓の音。それがけたたましく空気を震わせ、耳の痛くなるような静寂を齎す。それに合わせリアムが武器を抜いたので、アルマたちもそれに合わせ武器を抜く。

「まずは虎人族の元へ走れ。話を付けて来たから獅人族は動かない」
「本当か?」

 バンディが尋ねる。

「ああ。あの酒場の時の話を引き合いに出したら、静かにしてくれるって。だが嘘の可能性があるから、背後には気を付けてくれ」
「レオンがそう言ったんでしょう?」
「ああそうだ」
「それなら大丈夫です。彼は嘘はつかない」

 リアムのその言葉にアルマたちは一斉に虎人族の元へと走る。案の定獅人族の者たちはレオンを筆頭に動こうとしない。それに驚き、虎人族はアルマたちに食って掛かった。

「てめえらレオンに何言ったんだ?」
「ただ酒場の蹴りを先に付けさせろって言っただけさ」
「そんなくだらねえことを王位決定戦に持ち込みやがって……。だが好都合だ。誰の邪魔も無しにレオンをぶちのめしたいと思ってたところだ!」

 そう叫んだ虎人族の戦士長は、得物である斧をアルマ目掛けて鋭く振り下ろした。もちろん刃がついた斧で、当たればひとたまりもないだろう。

 それが獣人種の王戦決闘であり、獣人の疲弊した理由。この王戦決闘によって多くの若き戦士の命が失われてきたのだ。

 だからリアムはこれを止めるために、今戦場に立っている。獣人のために自らの命を懸けて。

 その思いにアルマは応えるべく、気合いで虎人族の戦士長の斧を、二種の短剣で受け止めて見せた。

 傍から見れば体格差は一目瞭然だった。そんな狼犬族の見た目をしたアルマがこの虎人族の長の斧を受け止めることはこの戦いにおいて大きな意味がある。

 そうだ、この戦闘は多くの獣人が見守っている。そして小さな狼犬族の戦士が、大の虎人族の男の一撃を受け止めた。その事実は一瞬で観客の心を鷲掴みにし、巨大な感性を巻き起こす。

「あのガキ、すげえじゃねえか」
「今年は狼犬族が返り咲くんじゃねえか⁉」

 そんな声が沸き上がる会場は、まさにリアムの求めた戦場だった。

 その声に鼓舞された四人はアルマに続き、虎人族の戦士と対峙する。
 リアムの槍が貫き、バンディの剣が切り裂き、ガルベスの戦鎚が叩きつぶす。アルマの予想通り、虎人族の戦士はなぜこの王戦決闘に名乗ることが出来るのかと疑いたくなるほどに、彼らの敵ではなかった。

 そしてアルマも彼らの戦いに合わせ、戦士長の斧を弾き飛ばす。

 得物を失ったからといって、獣人は武器を失うわけではない。生まれながらに持つ、爪と牙が彼らの最たる武器だった。
 戦士長はその武器をふんだんに使い、アルマに猛追を仕掛ける。

 しかしアルマはこの五日間、ガルベスの猛撃を捌きながら、横槍として飛んでくるジンの火球を受け続けた。

 たった一人の、二本の腕から繰り出される攻撃なんてものは、躱すに容易い。鮮やかな短剣捌きで、攻撃を防いだアルマは、大振りをしゃがんで避けると同時に、足の甲目掛けて、黒鋼のトレンチナイフを突き立てた。

「がああ!」

 そんな声と同時に膝を屈した虎人族の顎目掛けて、アルマは鋭い膝蹴りを放った。大の大人だとしても戦士として訓練したアルマの膝は当然の如く気絶に値する。

 どさっと空虚に鳴り響く音は一瞬、コロシアム全体の静寂を齎した後に、大歓声を生んだ。

 小さな戦士が率いる狼犬族があっと言う間に、虎人族を倒してしまったと。

「本番はこっからだぞ」
「ああ」
「そうですね」
「凄い、あんなに簡単に……」

「ガルベス……」
「ああ、任せろ」

 そう言ったアルマたちは、レオン率いる獅人族の元へ走る。

「流石です、リアム! 狼人族の力は素晴らしい! もっと私に見せてください! あなたの中で眠る狼の力を!」

 そう叫ぶレオンを取り囲むのはアルマ、バンディ、ジン、リアムの四人。

 騒然とするコロシアムで、レオンを護ろうとする四人の獅人族の戦士を悉く、ガルベスが邪魔をした。

 そう、アルマの作戦はこれだった。
 ガルベス一人に獅人族の戦士四人を任せ、レオンをアルマたち四人で倒す。

「お前ら、あいつらの元に行けると思うなよ? もしレオンを守りてえなら、俺を倒してからいけ!」

 そう叫ぶガルベスは戦鎚を振り回し、獅人族の戦士四人に距離を取らせる。各々武器を取った戦士は一斉にガルベス目掛け、走り出す。

 振り下ろされる剣を寸でのところで除け、背後から迫る槍を戦鎚で弾き返し、斧を戦鎚の柄で受け止める。しかしもう一本の剣は呆気なくガルベスの右腕を切り裂いた。

「そうだ! そうじゃねえとなあ!」

 腕を切り裂かれたことに激昂したガルベスは、自分に一太刀浴びせた戦士にターゲッティングし、猛攻を始める。

 その重さからは考えられない程の速さで繰り出される薙ぎは、直剣一本で受け止めるには重すぎるため、戦士は回避に専念する。

 流石現獣人種最強の部族だ。
 本来なら何発か食らってもいいだろう攻撃を華麗に避け続け、その合間に攻撃に転じようとする。
 
 だがそれより凄いのはガルベスだった。
 一人に集中するが故に、他の三人への警戒がおろそかになる。だからもちろん彼らの攻撃はガルベスに襲い来るのだが、その攻撃を全て無視して、食らいながら攻撃を続けているのだ。

 頭のおかしい戦法かもしれない。しかし勝てるかどうかわからない相手を同時に四人相手するより、一人ずつ倒す。その方が確実だった。

 そんな戦いをするからか、他の三人はこの男をレオンにぶつけてはいけないと、何とかガルベスを討とうとしたが、遅い。既に疲弊を見せた直剣の戦士を今ガルベスはその戦鎚によって叩きつぶした。

 しかしそれと同時に、一本の槍がガルベスの右肩を貫いた。



 凄まじく強かった。四人を相手にしているというのに、剣は一本だというのに、それを全て一人で捌き切ってしまうレオンは凄まじく強かった。
 それもただアルマたちの攻撃を受けるだけではなく、四人の中で隙が出来た者に、攻撃を放つくらいに余裕を残している。
 身体とは別に、剣先に意識があり、レオンの意識下ではないところで動いているように錯覚するほどに、レオンの剣は自由だった。
 
 踊るように戦うレオンに対し、何か打開策を考えようとするアルマだが、考える暇もなく、その剣先が自らの思考を邪魔するように繰り出されるため、それも通用しない。

 その時だった。レオンは剣の柄によって、ジンの腹部に強烈な打撃を加える。「ぐぅ」という声と同時に倒れ込んだジンを見る限り、その一撃で気絶させたようだった。

「その者が、一番太刀筋が甘かった。違うか?」

 そう不敵に笑うレオンはまだまだ余裕だと言わんばかりに、手をひらひらと振る。ただの打撃、一発だった。ジンは魔術師だから殴られていなかった? いやそんな話ではない。ただ単純に、獣人の中で非力とされる|人型《ヒューマノイド》のレオンの一撃は、大の鎧を着た大人を気絶させるほどの威力があるということ。

 脅威的な力に恐れたレオンになるべく攻撃させてはいけないと思い、連撃を放つ。旋風と見紛うその乱撃によって、コロシアムにけたたましい金属音が連続で鳴り響く。金属音が鳴り響いているということは、アルマの最速でさえ全て防がれているということ。

「甘いなぁ。技術は良いが力が足りない」

 剣によって右足を切り裂き、立ち上がれなくなったところを、腹部に蹴りを入れ、レオンはアルマを遠くへと吹き飛ばした。
 腹部の痛みで気絶しそうになるが、なんとか堪え、レオンの元に戻ろうとした時だった。

「があああああああ!」

 そう叫んだガルベスの拳によって、槍を持っていたはずの戦士の身体が数メートル後方へ吹き飛ばされたのは。
 そのガルベスの右肩には折れた槍が突き刺さっている。それにより右腕はだらりと垂れ下がり、血も多く流れている。

 あれ以上血を流すと、命に関わってしまう。そう思ったアルマはガルベスの元へ向かおうとした瞬間だった。

「力無き我に全てを救済できる力を《サン・ハルト・ブースト》!」
「あいつっ! 魔法をっ!」

 ガルベスの口からは血煙のような蒸気が溢れ出し、それがガルベスの身体に纏わりつく。血属性最上級魔法、|限界突破《オーバーソウル》。

 一定の血液を昇華し、身体能力を強化するこの魔法は、使用後に身体の筋繊維がボロボロになってしまうことから、その存在が認知されていたとしても、使う者は少なかった。
 また力の上昇率もただの人間であるガルベスが獅人族の戦士の力をゆうに超えるほどには異常だった。

 |限界突破《オーバーソウル》を使ったガルベスは片手で戦鎚を軽々と持ち、斧と剣を持った戦士を一人で追い詰めていった。強化された身体で放たれる戦鎚は、まさに神の怒りと言わんばかりに、地面を砕き、戦士を砕いた。
 戦士の剣を叩き割り、斧をひしゃげ、その勢いのまま獅人族の戦士二人を打倒したと同時に、魔法のせいか、怪我のせいか、ガルベスは力尽き、その場に倒れ込んだ。

「ガルベス!」

 叫んだバンディ目掛けて剣が襲い掛かる。

「よそ見をしている場合ですか?」

 剣をまるで自らの身体の一部のように振るレオンの剣による猛攻は、直剣一本では捌き切れない。しかし力も技術もあるレオンに対し、大剣と直剣の二刀流で立ち向かうほど、バンディの技量は高くない。
 だからこそ自分も一本のみでレオンの攻撃を避け続けるしかない。なんとかリアムが文字通り横槍でレオンに一矢報いてくれるのを待つしか。

 横から真一文字に振るわれた剣を、後方に引き下がり避け、すぐスイッチし突きを放つ。しかしその剣先は軽々と、振りぬかれたはずの剣で弾かれる。

 弾かれたことによって空いた胴に、一撃加えようとしたところ、リアムが咄嗟にバンディの前に立ちはだかり、乱れ突きを放つ。

 何度も何度も、適当なようですべて急所を狙った突きは、悉く鮮やかな対さばきによって避けられた。寧ろリアムが八百長をしているのではないのかと疑いたくなるほどにレオンは、全ての突きを避けて見せた。

 最後の一撃こそ薙ぎ払いで、虚をつくように攻撃をしてみたが、やはりこれも簡単に剣でいなされる。

 揺れる黄金の鬣は、王者の風格か。対等であるはずのリアムに、その荘厳な姿は、下民の攻撃なぞ食らってたまるかという確かな覇気を感じる。

 しかしそんなことを気にせず、バンディは背負っていた大剣を振り下ろす。

 やっと一太刀を浴びせた。

 と言っても、ただレオンのその鬣をいくらか切り落としただけで、体に対する傷は生まれていない。
 技術ではかなわないと思ったバンディは、その直剣を捨て、大剣を振り回す。力の限り、振るわれる大剣は、まさに重い獣の一撃。
 流石のレオンですら直撃では、捌けないと思ったのか、避けに徹している。が、レオンが何かを言った。

「遊びはもう終わりにしよう。深める……」

 実際のところ何も変化はないのだろうが、バンディは確かに瞳に灯る何かを見た。瞬間、レオンの牙や爪が鋭く大きくなったように見えたと同時に、動きが一層早くなった。

「レオンが獣化を使いました! 気を付けて――!」

 そんなリアムの警告むなしく、バンディの肩口から脇腹にかけて鋭い閃光が一筋駆け抜けた。

 獣人種の唯一与えられた幻想の力、獣化。それは一定の理性を犠牲にすることで、自らの獣の力を上昇させる技。
 どれだけ上昇させるかを、彼らは深度と呼び、最高深度を超えると、自らの命を犠牲にする代わりに一定時間原初の獣の力を身に宿すと言われていた。

 そして今残るはリアムとレオンのみ。

 獅子王と成り損ないの一騎打ちだ。

次話


コメントを投稿するには画像の文字を半角数字で入力してください。


画像認証

  • 最終更新:2020-04-16 01:13:01

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード