燃えよ、冬山

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前話


本編

 アルマたちが王国軍の訓練を受け始めてから数日が経った。

 バロンが、今日は訓練を行わないと言って皆を一つの部屋に集め、一つの書類を手に持ち説明を始める。

「王都の北西部、カルチ山岳地帯にて魔物の活動が活発になっているとの報告が入った。報告された地域は本来極寒の氷雪地帯のはずだが、ある特定の地域のみ気温が上昇しているらしい。その結果ほぼ雪と氷で形成されていた大地が崩壊しかけている。その報告と同時に、紅蓮の魔物の姿も確認されているとのことなので、何らかの火を操る魔物が迷い込んだと考えられる。諸君はこれを即時討伐し氷雪地帯の異常気象の解決を図ってほしい。こちらとしては君らに多くの支援はできないが、一つだけ装備を支給する」

 バロンは目の前の机にポーチから出した指輪を置く。白銀の指輪であった。

「これを付けてれば多少の寒さは凌げるはずだ。だがあまり舐めてかかると凍死することになるから装備はちゃんとしてくるように。決行は明日、各自準備に励め」

 バロンはそう言うと、偵察部隊の報告書を人数分、机の上に置き自らの仕事場へと戻っていった。



「初任務はいきなり極寒か……」

 イギルは不安そうな面持ちで、自らの財布を確認しながら極寒に耐える装備をこの金額で買えるのかと一人思い悩む。
 各自がそのように思い思い話す中、リリアーノは指輪を手に取り鑑定を掛ける。

「これ耐寒じゃないじゃない! 寒さに対するなにかかと思ったらなによ!」

 怒り狂うとも言えるリリアーノをエルノは宥めながら、自らも鑑定を掛ける。

「本当だ、これただの不凍じゃないか。これならかなりちゃんと防寒対策しないと死ぬかもしれないね」

 その言葉を聞いたイギルは小声で不凍とは何だと尋ねてくるが、それを聞いたリリアーノが怒り口調でイギルに説明する。

「あんた、そんなことも知らないわけ!? 体を温めたり、温めながら寒いという感覚を鈍らせてくれるのが耐寒! だけどこの不凍は血液とか皮膚とかまつ毛とか、体を凍らせないようにするだけなの! めっちゃくちゃ寒いのよ! これだけじゃ!!」

 イギルはその言葉に圧倒されながらも理解したと、何度も頷く。リリアーノのその言葉に事態の重要さを知ったメンバーの面々は各自自らの財布を確認し、町へと繰り出して行った。

 アルマが向かうのはエイムル魔服店。商業都市パランポロンにある、アルマの黒いローブ、夜ノ帳を作った者がいる店に。
 
 魔力のよって自動で開く扉をくぐり店の中に入る。扉の開いた音に気付いたのか、アルマが店に入ると店の奥からエイミーが現れた。

「あら、アルマ君久しぶりじゃない?」

 エイミーの話し方や声は変わらず艶美で、その色っぽさから周囲の空気が甘い香りに変わった様に感じる。

「久しぶり。王国軍の選抜試験を受けててさ、結果的に受かったんだけど明日から任務でカルチ山岳の極寒地帯に行くことになっちゃって。それ用の防寒着が欲しいんだよね。適当なのでいいから何かないかな?」

 エイミーはその話を聞き、一言、「あらおめでと」と言いつつ、周囲にある防寒具のいくつかを取って、俺のところに持ってきた。

「まあ、無難なところからちょっと特殊なところまで用意してみたわ」

 エイミーが最初に手を取ったのは、分厚い毛皮のコートだった。

「これはアルマ君がこれから行くカルチ山岳地帯に生息するスノーベアの毛皮で作られてるの。スノーベアってのはもちろん厚い脂肪によって防寒してるんだけど、毛も防寒のための進化がなされてるの。毛の中が空洞になってて、それが断熱材みたいになってるのよ。まあその分重さがでちゃうんだけどね。あともう一つはこれね」

 エイミーが手に取った衣服は、滑らかな素材で顔以外の身体が覆える形になっていた。

「変な形でしょ? 衣服の下にこれを着るのよ。この繊維は私が、多くの魔物の耐寒の生態を研究して作り出したの」
「また自分で作ったシリーズか……。さすがだな」

 値段は不思議な形をしている衣服の方が、毛皮のコートより二倍近くするらしい。財布の中身を確認するとそれほど入ってないことに気付く。

 最近訓練訓練で、今までのようにダンジョンに潜るということがなかったからいつの間にか財産がなくなってきてしまっていたらしかった。ほとんどの財産は湖の小屋に置いてきてしまっていることも相まっているが。

「今日のところはこっちにしておくよ」

 と、毛皮のコートを買い、エイミーの店を後にした。



 各々昨日防寒用の装備を揃えたらしく、その手に多くの荷物を持った状態で王都へ集合していた。既に任務の内容は受けていたため、アルマたちは全員が集合し次第目的地へ向かい、王都を出た。

 それこそ初任務と言うこともあり、最初は楽しいハイキング気分であったが、道を進むにつれて雪が増えてくると、これは任務なのだということを強く感じた。

 さすがに最初からコートを着ていると暑いので、最初の内は脱いでいたのだが、もう今は脱いだら死んでしまうのではと思う程、辺りの気温は下がっていた。

 まつ毛などは不凍の指輪があるからこそ凍らないのだろうと思いながらも、バロンの気の利かなさを呪った。

「バロン隊長の話だと、もう少し行ったところに山小屋があるらしい。今日はそこで休憩しよう」

 ロードがそう言うと、地方部のアルマたちはその言葉に賛同するが、リリアーノはまた食って掛かる。

「そんなの最初から決めてたことでしょ! いちいち言わなくていいのよ! なんなの!? 仕切りたがりなの? ムカつくわ!」

 まさに大激流である。男ならまだしも女の子にそう言われたロードの表情はまさにお通夜状態だ。その肩をイギルが叩き慰めている姿はいかにもシュールであった。



 かなり高度が高くなったのか、呼吸が苦しいうえに吹雪も強くなってきて、泣きっ面に蜂状態であったが、かすかに見えた小屋がアルマたちの心に光を齎した。

 我先にと小屋に小走りで行き、皆服に着いた雪を落とした後、中に駆け込んだ。中はただの小屋、掘っ立て小屋で断熱材も何もないものだった。

 寒さを凌げるというより、吹雪と風をを凌ぐ程度であろう。強いて言えば火を起こせる場所があっただけましということだろうか。

 しかし雪と風が防げるだけで、体感の寒さはとても

 アルマは皆が荷物を置いたりしている中、拡張道具袋に入れていた少しの木材と布の切れ端を組み合わせ、火をつけようとする。

 しかし隙間風と寒さによって手が震えてしまうため、手古摺りはしたが、途中からサリナが手伝ってくれ、簡単に暖を取ることができた。



「でも寒いなあ、火を付けはしたが、隙間風も酷いし」

 そのアルマの言葉を聞いたエルノはリリアーノに何かを呟く。

「リリィ、何とかできないかな?」
「本来はそういう風に使うものじゃないんだけどね。どうしてもって言うならやってあげても構わないけど?」
「このままだと、寝たら死にそうだから頼むよ」

 リリアーノは少し悩んだような顔をした後、「仕方ないわね」と呟いた。

「神よ、弱き我らを守り給え」

 リリアーノが詠唱すると、彼女を中心に白金の魔法陣が構築され、小屋を覆うように結界が発現した。リリアーノはそこから手を放し、一つ呼吸を置いてから床に腰を下ろした。

「これで風も凌げるはずよ」

 リリアーノの言った通り、微かに感じられていた隙間風はピタッと止み、壁を打ち付けていた雪の音も聞こえなくなった。

「結界魔法なのに地面から手を放しても大丈夫なのか?」

 ロードがリリアーノの結界について質問を投げかける。
 それはアルマも気になっていた。本来結界魔法というのは術者が地面に手を付き、構築した結界に魔力を流し込み続けるからその結界を維持できるのだ。しかし今リリアーノは床に手を付いてはいない。

「まあ、下手に隠しても意味ないのよね。あんたたちとはこれから長くやっていくことになるんでしょうし。仕方ないけど教えてあげるわ。私の|特殊技能《スキル》について」

 とリリアーノは座り方を整えた後、話始める。

「私の|特殊技能《スキル》の名前は|無人要塞《ロンリネス》。結界魔法に適性があるのよ、私は。手を放してても結界が維持できるのはそのおかげ。あと、私の魔力の心配をしなくていいから。結界魔法で消費される魔力なんてこれっぽっちもないから。私も話したんだからあんたらも言いなさいよ。自分のこと」

 リリアーノがそう言うと、都市部の奴らの視線は全てアルマの方へ来た。

「あーはいはい。俺ね。俺の|特殊技能《スキル》は|大喰手《ビックイーター》。相手の魔力を吸収して自分の魔力に還元することができるんだ。その魔力が魔物の場合は、それを体内に留めておくことができる。原理はわからないけど、多分それを勝手に解析して、魔物の固有魔法を複製することができる。今まで覚えた魔物の固有魔法は……どのくらいか忘れたな」
「だから、試験の時魔人に対抗できたとでも言うの?」
「あれはちょっと違って。さっき魔力を溜め込めるって言ったじゃん? それを解放すると体が魔物に近づくんだよね。そうするとあんな感じになるんだよ」
「あんな感じって……」
「|固有特殊技能《ユニークスキル》ってことだね?」

 エルノがアルマに言った。

「まあそういうことかな」
 
 このように、アルマたちは快適な小屋の中で、もっと深い自己紹介や、雑談を交えながら過ごした。

 極寒地帯の掘っ立て小屋だというのに、まるで旅行の夜のように、九人は楽しげな夜を過ごしていた。そして一人、また一人と眠りにつき、起きているのはアルマとエルノだけになった。



「アルマ、君は戦うのは怖くないのかい?」

 エルノはふとそう呟いた。少し前からすかした奴だと思っていたアルマはここまでとはと小さく笑う。

「怖いか怖くないかって言われたら、怖くないね」
「はは、怖くないのか。その流れだと怖いって言うのかと思ったよ。僕も怖くないんだ」
「聞いてねえよ」
「はは、これから一緒にやってくんだから仲良くいこうよ。まあ言ってるだけじゃなくて自分から歩み寄らなきゃって誰かが言ってたから少し僕の話をしてもいいかい?」
「勝手にしろよ」

 そう言うと、エルノは「ありがとう」と呟き笑った。

「僕、勇者の子孫なんだ。驚くよね。でもそこに寝てるロード君とは関係ないよ。勇者ってのは神の気まぐれだからね。全能神が人間たちの住む世界に“お気に入り”がいたらそいつに加護を与える。それで勇者の完成だ。だから血は関係ない。でも僕の親は僕が勇者になることを望んだんだ。強くね」
「色々とめんどくさそうな感じだな」

 この話題から少し表情に影を落としていたエルノは、アルマのその言葉に小さく笑う。

「そうなんだよ。だから僕は家を逃げ出したくて、王国軍に入ったんだよ」
「逃げ道に選抜部隊って、さすが勇者様の家系だな。ロード相手にも圧倒的だったし」
「勇者の魔剣については多分誰よりも勉強させられたからね」
「自分のことじゃないけど、自分のことは自分が一番詳しいみたいなそんな感じか」
「まあそうだね。だからロード君には勝つ自信しかなかった」

 今までの温厚な雰囲気とは違って、エルノのその言葉はとても重く聞こえた。

「そういうの、嫌いじゃない」
「はは、ありがとう。だから勇者に勝って自分がやってきたことは間違えじゃないってことに気付けた。三光斬だって|聖剣《エクスカリバー》だって扱えないだけで、型はよく知ってる。僕は自分が強いと思ってたんだよ。でも違った。選抜試験の時魔人を目の前にして、目がくらんだ。怖くて何もできなかったんだよ。だけど君は魔人に立ち向かっていったよね。戦って勝って皆を救ったのに|特殊技能《スキル》のせいで不自然な視線を浴びざるを得なくなってる。僕だって最初|合成獣《キメラ》だと説明された時は君を恐れた。でも訓練して今一緒に任務をしてこんなに心強い味方はいないんじゃないかって思ったよ……」

 エルノはその茶髪の前髪がかかった目を火に向ける。少しの静寂が流れた後、エルノがまた口を開く。

「ごめん」
「突然なんだよ」
「リリアーノも、ガルムラスも、本当は君と仲良くしたいんだよ。でも実力とか、事実とかが少し壁になって近づけないんでいるんだよ。さっきの|特殊技能《スキル》の話だってなんとか話題を生もうとして言ったと思うんだ。だけどその能力によって君の身体を侵されていることを知って。今までの態度は最低だった。僕たちを救ってくれた恩人に対する礼儀としては最低で最悪だった。それを謝罪したうえで、忘れろとは言わない。それでも僕たちは君の仲間になることはできるかな」

 エルノの言葉にアルマは何も言えなかった。別に情けを掛けてほしくて話したわけではなかったが、直接言われると照れ臭さと怒りが同時に心の中に現れた。

「……知らねえよ。もう俺たちは兵士だ。上の言われた通りにやるだけだろ?」
「そうだね……。僕はもう眠ることにするよ。おやすみアルマ」
「ああ」

 エルノの話を聞いたアルマは、ぼんやりと火に照らされているリリアーノとガルムラスの顔を見た。彼らはただより良い教育を受けようと、王国軍選抜試験を勝ち抜いたというのに、魔人との戦争を前提とした訓練を強いられている。

 その境遇を考えれば、敵との争いの火種になりかねないアルマは、恐ろしいに決まっている。それでも彼らなりに距離を縮めようと努力しているのだろう。

 それに気付かされたアルマは自分も、それなりの努力はしてみようと決めた。



 そしてエルノすらも眠りについた深夜、アルマはまた自らの身体の異変に気付いた。先日から薄っすら感じていたのだが、今この状況になって明らかとなった。

 アルマの身体は眠ろうと思えば眠ることが出来るのだろうが、恐らく何日も眠らずに活動することが可能になってしまったようだった。

 自然と眠いと思うことはもう無いのだろうと悟ったアルマは、毛皮のコートを着て、小屋の外、雪山に出ることにした。

 扉を開けても、寒気を肌が感じることはなく、火の温かさが結界内を徐々に温めていたことに気付く。

 だとしてもこの結界を出てしまえば、極寒が自分の体を襲うこととなる。その時アルマはこのまま、防寒具を着ていないまま外に出れば自分はどうなってしまうのだろうか、この獣の腕が治るのではないかと考えた。

 その結界に触れようとした瞬間、目の前の叢が揺れる。叢の頭にある雪帽子が崩れ落ちたから、叢の中になにかがいるというのは間違いないだろう。アルマは腰に差した刀剣の柄を握りつつ、動向を伺う。

 するとそこから雪の塊かと見紛うほどの白い毛並みを持つ、魔物が現れた。

「雪の精、スノーウィ……」

 カルチ山岳の氷雪地帯のみに住むと言われる、白銀の魔物。その姿から氷雪地帯で発見するのは難しく、幻の獣と謳われている。

 姿は角鹿にそっくりだが角はない。角がないのは雄だからとか雌だからとかではなく、種全体で角というモノを有していない種族なのだ。

 まさかスノーウィをこんなところで見られるとは思わなかった。本来スノーウィは氷雪地帯に住む魔物。しかしここは氷雪地帯とは言い難い。雪が降ってはいるが、この辺りにはまだ植物がある。

 そう、考えているとスノーウィは魔力を高め、その姿を変質させた。

「|形態変化《メタモルフォーゼ》……。これを扱える魔物がまだいたのか」
 |形態変化《メタモルフォーゼ》。それは他の魔物とは違いある程度の知性を有した魔物が行うことができる、魔物用|特殊技能《スキル》のようなものだ。

 獣に近い魔物の姿ではなく、人のような姿に変化することを表す|形態変化《メタモルフォーゼ》だが、このスキルを有する魔物は今のところ突然変異種だと認定されている。

 魔物というモノはなぜか、人間と対面すると異様なほどの敵意を表すため研究もしようがなかったのだ。

【た、助けテ……】

 今、あのスノーウィは助けてと言ったのか。|形態変化《メタモルフォーゼ》により真っ白な肌を持つ小さな少年に変わったスノーウィはそう呟く。

「お前は俺に敵意を表さないのか?」
【人間、憎クない。でも目ノ前、現れル。殺したくナる。なぜ、ワからない】

 スノーウィは稚拙な人語で話をする。
 奇妙な話をするスノーウィだ。人は憎くないのに、目の前に現れると無性に殺したくなるか。

「でも俺は人間だぞ?」
【あなタから、人の匂い、シない】

 スノーウィのその言葉は、深い傷口を抉るような、そんな感覚を心に与える。

「そ、そうか。で、なんで助けてほしいって?」
【変ナ、魔物。熱イ】

 熱い……。氷雪地帯なのに熱い。アルマはすぐに理解した。彼が言っている変な魔物とはアルマたちの討伐対象だということを。彼なら討伐対象の元に連れて行ってくれるかもしれない。そう考えはしたが、不可能だと気付く。アルマの仲間は“人間”だ。

 なぜ魔物が人間を襲うのか、それを皆が起きるまでに解明しなければならない。アルマはまずスノーウィと仲良くなることを目的に彼に近づいた。

「俺の名前はアルマだ。アルマ、よろしくな」
【アリ……】
「ア、ル、マ」
【アルマ……?】
「そう、アルマ。お前は?」
【仲間ニは、フラン。呼ばレてる】

 フラン。魔物にも名前を付け合う文化があるんだ。名前があるということは少なからず、アルマたちに似た言語のようなもので意思疎通を行っているということ。そう考えると、ダンジョンの魔物たちが連携を取れているのも頷ける。人間が今までその文化に触れることができなかったのは、魔物が人間を見ると我を失うから。それならばなぜ失うのか。

「フラン、俺たちはその魔物を討伐しに来たんだ。だから少しだけお前のことを教えてほしい。人に対して殺意を抱くのは、人を見た時か? それとも匂いとか何かを感じた時か?」

 フランは悩むように、表情をゆがめた後、口を開く。

【遠く、見てル時、大丈夫。でモ近づクと襲いたくなる】

――近づくと、ってことは匂いか。いや、もしかして魔力……? いや魔力なら俺も襲われかねないか? 寧ろ独立魔力を有しているから人間の魔力を感知されていないのか?

「フラン、お前にあの魔物がいるところまでの道案内を頼みたいんだ。俺が仲間より先行してお前についていくから、お前は人の気配を感じない距離を取って案内してくれないか?」
【うん、いイよ。でモ最後まデ案内、でキない】
「なんでだ?」
【魔物周リ、熱い。僕、体とける】

 スノーウィは雪の精という別名が付けられている。それは体がの成分がほぼ雪のような性質で構成されているから。アルマに助けを求めたのはそういうことか。どうにかしようにも相性によって、手出しできない。氷雪地帯に住むものが暑さに対する策を持ち得ていない、持つわけがないのだ。

「それなら、それでも大丈夫だ。途中までで。半分遭難したみたいな感じだったから助かるよ」

 フランは小さく微笑む。それは町でたまに見る雪の粉のように、可愛らしく、はかなげなものに見えた。

 それからというもの、結界越しに話していたアルマは、小屋の中からコートを持ってきて、結界の外にいるフランの近くに座った。

 触れれば、フランの体が崩れてしまうため、少し距離を置いて。色々と話した。フランの家族の話、どのような暮らしをしているのか。フランが|形態変化《メタモルフォーゼ》していることもあって、本当に人間と話しているのではという錯覚に陥る程、穏やかな時間だった。

 もしフランの言う人間の嫌な香りをどうにかして、魔物の殺意を呼び起こさなければ共生もできるのではないのだろうか。アルマはそう考えていた。

 人間と魔物が友好的になれば、様々な分野での発展が進むだろう。魔晶石の供給率がどうなるかは不安であるが、魔人との戦いには勝てる。


 このフランとの出会いが、アルマの長年の野望の切っ掛けになり、それと同時にアルマの破滅への入り口になるのだが、その時のアルマはこの長い戦争への終止符が打てるのではという希望しか感じていなかった。


【人間ト、話したノ初めて。皆仲良クできればいいのニ】

 アルマはフランのこの言葉が心に酷く刺さった様に感じた。

 魔物より知能があると言われている人は未だ長い間、戦争を続けている。それどころか人間種内でも派閥が存在し、それらの争いは絶えない。

 魔物がこのような思想を持っているというのに、未だ人間は自らの利益のために、弱者から搾取するために、自らの領土を拡大する。その事実を重く受け止めながら、アルマは。

「魔物の方が生きやすい世の中かもな……」
【エ……?】
「いや、なんでもない。俺もこんなに魔物と仲良くできるとは思わなかった」

 隣で笑うフランの頭を撫でてやりたいと思いながらも、触れてしまえばたちまち溶けてしまうスノーウィという魔物の儚さをアルマは噛み締めていた。

次話


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  • 最終更新:2020-06-30 01:43:45

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