狼との会合

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前話


本編

 教室にいる生徒は使い込まれていない装備を腰に提げ、教師が入ってくるのを待っていた。初の迷宮ということもあるのか、生徒の表情には緊張が見えており、アルマはその姿を心の中で、鼻で笑っていた。複製のこともあるのだが、最近所持金が減ってきているため、金も稼いでおきたい。

 そんなことを考えていると、教室にエリスがいつものように入ってきて説明を始めた。

 目的地は狼の迷宮。準備出来次第クラス全員で事前に決めておいた隊列を組んで目的地へと向かう。基本外側に近接系、内側に魔術系を置きエリスが先頭、副担任であるアイロスが遊撃を行う、と。

 その言葉を聞くや否や、教室に白いローブに身を包み、小さな杖を腰に提げ、背中に太陽の紋章を背負った男が入ってきた。

「私の名前はアイロス、アイロス=ヘリ。ここに勤める前は聖教都市で冒険者をやっていました。私は基本的な魔法は一から十まで、特殊なものもいくつか使えますが、扱いが難しい空間の魔法が得意であったため、それを認められこの学校で教師として働くことになりました。これからよろしくお願いしますね」

 アイロスが話している間に、女子生徒が小さな声で話し合うくらいには良い見た目をしており、その話し方もなにか幼き獣を優しく包み込むようであった。しかし話の節々に感じる不安は、|圧力《プレッシャー》に似たものを感じる。

 自分を棚に上げるわけではないが、この男は未だ若さに溢れており、この歳で基本的な魔法の全て、特殊な魔法、そして最高難度の空間の魔法すらも扱うという技量はどこか拭いきれない疑心をアルマの中で渦巻かせていた。

 魔力により空間を捻じ曲げ、ある地点とある地点を一時的に同じ座標に置き換えることで、場所を一瞬で移動する転移を代表とする魔法属性が空間の魔法である。

 またこの魔法は世界を改変する力を持つとされる神概魔法以外に唯一世の中の理というものに干渉できる魔法でもあった。

 話が終わった後、エリスから支給用のいくつかの回復剤を受け取り、町の門へと向かった。そしてそこで隊列を組み狼の迷宮へと向かった。

 |紅魔眼《マジックセンス》を使いながら、周りを警戒していたところ背後からアイロスに話しかけられた。

「アルマ=レイヴン君で合ってるかな?」
「はい、そうですが。何か用ですか?」

 見た目か、話し方か、その読めない経歴からか。アルマはどうもこの男が好きになれなかった。それ故返答はどこか力の入っていない適当なものになってしまっていた。

「いやいや、勇者君をゴブリンの村から救い出し、かつては傭兵都市で――」
「おっと魔物が出たようですよ? 先生」

 と、アルマはアイロスの話を遮る。アルマにとって過去を詮索されるのは、非常に不愉快なことだった。好きになれそうもない副担任に、そんな話を振られかけたアルマは、そんな感じで隊に近づいた魔物のもとへ走り、討伐する。

 そんなこんな歩いていれば狼の迷宮に到着した。



 エリスの説明によると、今日は原則としてパーティを組まなければならないらしく、アルマはアルマの攻略のスピードについて来られる生徒を探す。

「アル……。私とやらない?」

 禍々しく紅い杖を装備している少女、サリナは静かな声でそう話す。

「俺も今、お前に声を掛けようとしたところだ」
「そっか。やった」

 サリナは小さく喜んで見せた。

「足手纏いにはなるなよ?」
「もちろんだよ!」
「じゃあ行くか」
「おい、ちょっと待ってくれ……」

 アルマたちが迷宮の扉に向かおうとしたところ一人の少年の声に引き止められた。そこにいたのは先日から無様な姿を晒しているイギル=オルグレンだ。

「おいおい、なんだか久しぶりじゃないか? 今日は一人か?」

 サリナの一歩前に出て、アルマはイギルに吐き捨てる。イギルはアルマの勢いに圧倒され、一歩後ずさる。

「いや、違うんだ――」
「違う? 何が違うんだよ。おい、いつも一緒にいた二人はどうした? いつも仲良くしてたじゃないか」

 イギルの言葉を遮り、イギルが一番気にしているだろう心に刺さる言葉を選び放っていく。イギルは悪ガキ三人組と言えるような付き人のような二人が必ず後ろにいたはずだった。

 しかしイギルは言い返さず、ただアルマの言葉を聞いている。その姿を惨めに感じたサリナはアルマに一言述べる。

「なにか訳アリな感じだし、話を聞いてあげたら……?」

 その言葉にアルマはため息をつきつつ、イギルに話すよう促した。

「二人は先に自分たちだけでやるって言ってもう迷宮に行っちゃったんだ。他の奴等ももういないし。だから俺とパーティ組んでくれないか?」
「はぁ? お前とパーティを組むことに何のメリットがある? 俺らは闘技区の最下層まで行くつもりだ。今までのお前の行為を無視したとしても絶対に連れて行かない。俺との模擬戦であんな醜態、使い物になるはずがない」
「アル……そんな……」

 サリナのその言葉になぜだか俺は頭に血が上った。

「じゃあ、お前が全部面倒を見るか? 火の魔法しか使えないお前が、そのうえで俺についてくるか?」

 事実上無理なことを理解させようと言葉を続けるが、恐らくサリナには通用しないということはどこかわかっていた。

「わかった。私が連れてく。だからいい?」

 サリナは真っ直ぐに純粋な目でこちらを見てくる。もうこうなってしまっては、説得は無理だろう。

「はぁ。イギル、てめえの使える魔法は?」
「一応、基本的な物なら……」
「なら、サリナの盾位には使ってやる。もう説得するのもめんどくせえ。感謝するならサリナにしろ」

 イギルとサリナは目を見合わせた後、表情を明るくし、アルマの後ろについた。

「はぁあ、ついてねえな」
 
 迷宮の門の前ではエリスがパーティの確認をしている。全員の確認ができたら名簿表を迷宮の管理所へと提出する。この名簿表は後々、帰ってきた者の名前にチェックを入れ、帰ってこなかった者、死者の確認に利用する。

「三人……。そう、アルマ君がいるのね。私は一階層の安全地帯にいるから何かがあったらすぐくるのよ」
「はい」



 迷宮は主に二種類の層に分かれている。広々とした空間に定期的に魔物が出現する闘技区と、入り組んだ迷路のような構造の迷宮区の二つ。

 大抵の冒険者は闘技区である程度の武器の試し切りやウォーミングアップを済ませ迷宮区に挑む。

 しかし学校の訓練という都合上、迷宮区への侵入は禁止とされていたため、闘技区で最大の利益を出すために、闘技区の最下層が目的になっていた。

 その中で特に、目的とする獲物はは三層以降に出現する狼型の魔物、|白狼《ホワイトウルフ》だ。

 その旨を告げたアルマは一度、準備運動と称して別行動を開始する。ある程度の時間が経ったら集合して、二層へ向かう。

 そんな形でアルマはこの迷宮に出現する、|岩豚人《ロックトロール》、マドスライム、ライトスライム、三種の魔物の魔力を吸収、複製した。

 |岩豚人《ロックトロール》では、左手が岩のように硬質化し、それを地面に突き立てることによって、地面を隆起させ攻撃する大地斬を複製することが出来た。

 マドスライム、ライトスライムは固有魔法のみで、マドスライムから泥弾、ライトスライムからなんと自己再生を得ることが出来た。

 この結果において気が付いたことだが、体の部位が左手に発現しなかった魔物の固有魔法は別に何かを意識せずとも、無詠唱という形で発現できるようだった。風刃、大地斬などは魔物の部位を発現しなければ魔法も発現できない。

 そしてこれら複製した魔法を見て考えると闘技区にいる魔物は全て支援系の魔法を持っているということだ。理由は言うまでもない。

 この迷宮の花形は|黒狼《ブラックウルフ》を筆頭とした狼たち。絶対的な前衛近接型である彼らに近接では敵わない魔物は支援を行うしかこの迷宮を生きていく術を持てなかったのだろう。

 一階層にいる奴等は特に溢れた支援のものたちだ。支援をメインで行ってきた者が一人で立たされたらそれは弱いに決まっている。狼が現れてくる三階層からが本番と言えるだろう。

 だが今回はサリナもいるため、イギルを背負ってでも五階層くらいは簡単であろう。

 解散前に指定していた時間になると、全員階段前に集合し階層を移した。二階層は魔物の種類は変わらず強さが変わっただけであったのでそのまま素通りし、三階層へと向かった。



 そして目当てであった階層には、奴がいた。

 白銀に輝く毛、その中に三つ、獲物を静かに狙い続ける黄金の眼。その眼と共に獲物を一度捉えれば、逃がすことのない嗅覚を持つ鼻。時々剥きだす牙は豪快で噛まれれば、肉だけでなく骨すらも断たれることだろう。

 地面に着いている四肢は勇ましく、鋭い爪は地面を抉り、一歩一歩歩くごとに雷光が迸る。

「|白《ホワイト》……|狼《ウルフ》……」
 
 この迷宮の狼は皆電気を体内に蓄積しており、それを利用して運動能力を劇的に高めるという技を使う。そのため初心者で構成されたパーティなら六人の最大パーティでもかなり手古摺るであろう。下っ端の狼と言えど、弱いとは言えない。

「また十分後に階段前に集合だ。白狼をやる場合は危ないから、手を出さないでおけ」
「うん」
「わかった」

 またサリナたちと別れるとアルマは|白狼《ホワイトウルフ》の元へ歩いていく。|白狼《ホワイトウルフ》もアルマに気付いたようで歯茎をむき出しにして威嚇をしている。

 アルマは|紅魔眼《マジックセンス》を発現し、|白狼《ホワイトウルフ》を睨みつけ、銀の短剣と黒鋼のトレンチナイフを抜き、戦闘に備えた。

 耳を裂くような強烈な破裂音と共に|白狼《ホワイトウルフ》は走り出す。

 電気を利用することで、生み出される高速移動は、筋力も魔力も捨て、速さのみを鍛え上げたはずのアルマを遥かに凌駕する。

 異様な速さで駆けてくる狼はその姿の何倍もの大きさに見えたがアルマは|大喰手《ビックイーター》によって編み出したアルマ専用の魔術で対抗する。

「|大喰魔術《ビックマジック》壱型。|疾風迅雷《アクセルウインド》!」

 体内に独立して存在しており、複製魔力の元となる吸収した魔物の魔力を脚に回す。

 魔物の身体能力をアルマに上乗せする大喰手の隠された能力、身体強化を全身にではなく、身体の一部に集中させることによって、圧倒的な能力変化を会得する、それが|大喰魔術《ビックマジック》壱の型。

 そしてその速度は電気の力を借りた|白狼《ホワイトウルフ》に匹敵するほど。

 その速さのまま|白狼《ホワイトウルフ》に肉薄し、トレンチナイフを振るった。トレンチナイフは白狼の爪を喰いと止めるとともに、多大な金属音を響かせ、火花を散らす。

 迷宮内では感じられない明るさを感じた瞬間、心に灯がともった。頭が熱くなり鼓動が早くなる。戦いを感じ、武器の感触が確かになる。

 共に相手の武器に弾かれ、再度距離が開く。その瞬間を見逃さず、アルマは|白狼《ホワイトウルフ》の顔目掛けて、放射状に三発の泥弾を飛ばす。

 放射状に飛ばしたのが功を奏し、右側の一発が|白狼《ホワイトウルフ》の左目に直撃した。

 動きが鈍った白狼に尚、追い打ちをかける。大地斬を発現し、|白狼《ホワイトウルフ》の足元を崩し、体勢が崩れた|白狼《ホワイトウルフ》の顔面を殴りつけ、魔力を喰らう。

 しかしその瞬間、雷撃の音と同時に異様なほどの電流が体に流れたのを感じ、意識が薄れていく。

 遠退いていく意識をなんとか繋ぎ止めるため、銀の短剣を太ももに突き立てようとするが、その電流のせいか体を上手く動かすことができない。

 通りで|白狼《ホワイトウルフ》は動かなかったのだ。体に蓄えた電気を毛や皮膚に流すことでアルマが攻撃するのを待っていた。その電流にやられ魔力操作もままならない。

「やべえな」

 そう自分を嘲笑した時。

「|火を以て、迸る閃光を体現せん《フラム・ラピッド・ショック》!」

 一筋の炎の弾丸がアルマの目の前を駆け抜け、油断していた|白狼《ホワイトウルフ》の顔面へと直撃する。

「アル!」
「アルマっ!」

 透かさずイギルは二人の前へ、|白狼《ホワイトウルフ》からの射線を塞ぐ形で立つ。

「くそっ。油断した。だがお前らには無理だ! 俺が何とかするっ!」

 アルマは痺れ切った身体を|岩豚人《ロックトロール》の身体強化、筋力増強を使用し、イギルの肩を借りることでなんとか立ち上がり、自らの魔力を、腹部あたりに強い力を込めることで無理矢理循環させていく。

 現実主義者で精神論の嫌いなアルマでも、こういうときには頼るのだ。気合いと根性に。

「ぐおおおおおおおおお!」

 絶大な魔力の奔流によって、自ら麻痺を脱したアルマは、先ほど吸い上げた|白狼《ホワイトウルフ》の魔力を複製する。

 白い体毛に覆われたうえで、手は狼の足先のような形になった腕だが、アルマの身体には|白狼《ホワイトウルフ》の特殊身体強化、帯電が施され青白い電流が発されている。

 アルマは服を叩き、|白狼《ホワイトウルフ》の元へ走る。その速さは凄まじくそれこそ、|白狼《ホワイトウルフ》のようだった。こいつは本気でやらなければやられる相手だ。

 こちらに走ってきている|白狼《ホワイトウルフ》目掛け、新たに手に入れた|白狼《ホワイトウルフ》の固有魔法雷爪を発現する。

 しかし白狼はそれを見事に躱し、アルマに噛み付こうとするがここまで近ければアルマの間合いだ。

 体を回転させ、|白狼《ホワイトウルフ》の牙を躱しつつ、トレンチナイフで|白狼《ホワイトウルフ》の脇腹を突き刺す。

 そのままトレンチナイフをきっかけに体を引き寄せ|白狼《ホワイトウルフ》の背に乗った。

 アルマを振り落すために、体にある電気を放出し、攻撃を行う|白狼《ホワイトウルフ》であるが、雷爪に合わせて発現している特殊身体強化によって、その電気はアルマの体に蓄積されていく。

 そして溜まりに溜まった電気を、雷爪を放つと同時に、|白狼《ホワイトウルフ》の脳天へと流し込む。
 バチチチチッと凄まじい雷撃音が鳴り響き、|白狼《ホワイトウルフ》は痙攣を起こし、地面に倒れこんだ。

 そしてその身体は光が弾けるように消失し、その代わりに拳大の魔晶石へと変化した。

 迷宮の中は外より魔力の元となる魔素の濃度が圧倒的に高い。そのためか魔力を多く有する魔物の身体は残らずに、このように消滅してしまう。それがなぜか解明されていなかったが世界の理ということだろう。

 アルマはそれを拾い、自らを助けてくれた二人にお礼を述べた後、次の階層を目指した。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:08:40

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