狼を崇拝する者よ

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本編

 あの事件から数週間経っていた。

 基本的な任務は魔物の討伐や輸送隊の護衛であったが、確実に依頼をこなす彼らは、王国軍選抜部隊としてアルマたちの名も世に知られるようになってきていた。そして世に知られるようになったパーティには、呼びやすいように愛称がつけられるようになる。

 多大な功績を挙げたパーティにのみ与えられるそれは、一種の勲章としてそのパーティが実力が確かだという証明になる。

 個人の二つ名のようなものであり、アルマの|小さき旋風《サイクロン》や昔所属していたパーティの|燃え盛る戦士達《フレイムウォリアーズ》もそれにあたる。

 そしてアルマたちに授けられた愛称は|強戦士達《モンスターズ》。助けてもらう方の印象はやはりこうであった。アルマ達の実力を認めながらも、アルマに対しての皮肉を込めモンスターと呼ぶ。アルマが救うべき者たちは、アルマをモンスターと蔑む者たちだった。


 いつもの通り、アルマたち強戦士達は指揮官である聖教騎士団先行部隊隊長バロンに呼び出され、任務か訓練を、そしてその内容を伝えられる。

「任務だ。商業都市パランポロンから傭兵都市ドルエムに伸びる街道にて最近、聖教都市ファリスへの輸送隊が盗賊に襲われるようになった。少なからず冒険者ギルドが関わっているのは確かだろう。しかし王国軍所属の正規軍や聖教騎士はそういうごたごたに手は出しづらい。だからここでお前たちの出番のわけだ。お前たちは早急に盗賊を討伐、この状況を解決せよ。それに伴い、今日はもう一人の選抜部隊隊員を同行させる。ランスだ」

 バロンが紹介すると、後ろから聖教騎士の甲冑と魔封盾、ダインスレイフを持った元聖教騎士ランスが現れる。

「所属は王国軍選抜部隊だが、今まで単独の行動を任されていたランス=バルドだ。幼少期から聖教騎士団として従軍しているため単純な経験は君たちより上であるが、魔法学園のエリートである君たちから学ぶことも多くあるだろう。これから仲間としてよろしく」

 微かに感じる皮肉。アルマと共に過ごしただけある。人の測り方を熟知していた。案の定リリィやロードはその言葉に乗っけられ、不機嫌そうに受け入れる。しかし一人だけ大喜びという反応を見せた者がいた。

「ランス!」

 サリナは数メートル離れたところからランスの胸に向かって飛んだ。ランスはサリナを受け止めきれずに、倒れるが抱き返した腕を離すことはない。
 リリィはアルマの袖を引っ張り、この状況の説明を求める。

「まあ半年以上だもんなあ。あの状況を見て察せない程、頭堅くないだろ?」

 ランスは涙を流すサリナの頭を倒れながらも、優しく撫でる。

「はぁ、あいつの皮肉っぽい感じはあんたのせいね?」
「ご名答!」

 リリィは一つため息をつき、その二人の元へと歩いていく。

「感動の再会中のところ悪いんだけど、これから仕事なんだからしっかりしてもらえるかしら?」

 サリナは涙を拭いながら、一言謝罪を入れ立ち上がった。ランスも頭を掻きながら申し訳ないと呟く。場の収拾がついた辺りでバロンは話を続ける。

「今まではまとまりがなくてもある程度は、行動できていたと思うが、今回の任務は知能を持った人間が相手になるだろう。それに伴い、この選抜部隊にも隊長と副隊長を据える。隊長はランス=バルド。理由として、こいつはほとんどのメンバーとは初対面だが、戦闘に対する知識や経験、全体を動かす指揮能力は圧倒的にお前たちより上だからだ。そして副隊長はアルマ=レイヴン。理由として、ランスを抜いたメンバーで一番功績を挙げた者であるからだ。それ以上でもそれ以下でもない。異論は受け付けない。任務の決行は明日明朝。各自準備に励め」

 バロンの言葉が終わったと同時に、全員揃った声で『はい!』と返事をした。このタイミングだけとても軍隊らしくなってきたということを実感する。



 アルマは一人考えていた。盗賊ごときがパランポロンの輸送隊を潰せるのか。街道に出る盗賊はダンジョンに出る過程で、ある程度の力を持つ盗賊は討伐した。ファリスへの輸送隊が、ということはドルエムへの輸送隊は襲われていないということだろうか。

「ちっ。まだこんなくだらねえやり方を……」

 冒険者ギルドが関わっているとしても、本当にそれだけか。彼らが、こんな上手くことを運べるとは。その時アルマはもう一つの組織の介入があるのでは、と考えた。それなら、あれを持っておこうとアルマは一度王都を出て、サイレンスを発現し、家へと足を運んだ。

 次の日。アルマは申請していた輸送隊用の馬車を借り、メンバーを集めた。そこでランスと話していた通りに準備をする。地方部メンバーであるサリナ、セラ、ナディア、イギルとランスが輸送隊に扮し、街道を進む。そして他の都市部メンバーのガルム、リリィ、エルノとロードとアルマは別動隊として距離を取って付いて行く。

 盗賊は基本現行犯でないと捕獲できないため、意図的にランス達を襲わせる。そして捕まっているところをアルマたちが救いに行くということだ。念のために信頼がおけるランスとサリナをそちらに割り当て、唯一の回復役のセラを同行させる。

 輸送隊には食料や武具、多くの物資が入っているがその中に一つ、アルマの家から持ってきていた本をいれた。

「さあ、気を付けて。向かってくれ。盗賊が輸送隊を発見して、どれだけ足が速い盗賊か伝書鳩だとしても、その情報を伝えるまでパランポロンからドルエムまでは五日はかかるはずだ。だが、念には念を。三日あたりから警戒を強めてくれ」
「ああ、わかった。俺たちが捕まった時はよろしく頼むな」

 ランスはアルマ以外のメンバーにも視線を配り、優しく微笑んだ後、馬車をゆっくり進めた。



「で、あたしたちはどうするの?」

 リリィが聞く。

「あの後すぐ付いて行くと、下手に相手の警戒を煽る。だから俺たちの出発は明日だ」
「本当にそれで大丈夫なのかい?」

 エルノは心配そうに聞くが、戦力的な問題については大丈夫だろう。

「ランスは俺と互角に渡り合う騎士だ。実力自体は問題ない、サリナもいるしな。だが……」

 ここで下手に不確定な情報を開示しても連携が乱れるだけだ。そこでアルマは適当な嘘を告げた。

「相手が冒険者だとしたら、多少は心残りだが、そのための俺たちだ」
「そうだね」



 それからアルマたちは各自改めて準備を行い、|門《ゲート》へ集合した。

「さあ、これから出発する。結果的には合流しなきゃいけないから少しペースは早めに行くぞ」
「ああ、わかった」

 ロードがいつもより素直に応えた。その反応に少しアルマは驚き、皮肉を言う。

「いつも、こんな感じだとスムーズなのにな」
「この隊の指揮官は君に当たるわけだから、従うのは当然のことだろう」
「まあそうだけどな」

 アルマはサイレンスを発現し、ランスの匂いを追わせる。



 長い間歩いてきたようで、既に辺りは暗くなり始めている。早く追いつかなければならないのもそうだが、ドルエムまでの距離は長い。戦いにおいて、休息や多少の娯楽というのも、重要だ。アルマたちは辺りの魔物を片付けた後、焚火や寝床などの準備を始めた。

 アルマの場合は火から少し離れたところの地面の石を取り除き、その上に荒い布を被せるのだが、坊ちゃん嬢ちゃんたちは、寝袋なる物を所持していた。逆にリリィやエルノには寝袋を持ってきていないことを驚かれた。

 拡張道具袋がある今、多くの物を不自由なく、持ち運びできるのだが昔の癖がどうも抜けず、最低限の物だけ、と考えてしまう。

 アルマは明日、戦闘があることを予測して早めに寝ようと寝床に寝そべるが、リリィがここぞとばかりに話を始めた。

「あのランスって奴、なんか気に入らないわ。あの掴めない感じ」

 それに対しエルノが反応する。

「でもあの人はアルマの友人なんだろ? 僕はそれだけで信用に当たる人物だと思うけどね」
「あたしが言ってるのは、信用どうこうじゃなくて、好き嫌いの話よ。あたかもアルマの皮肉っぽいところをトレースしたような感じじゃない?」

 アルマは起き上がりつつ言う。

「最初、会った時はめちゃくちゃ仲悪かったんだよ。ファリスの訓練場で疑似決闘を申し込まれるくらいな。皮肉っぽい奴と中途半端に皮肉っぽい奴がぶつかれば、どちらかの怒りが爆発するだろ?」
「流れ的に、爆発したのはランスの方なんだね?」
「そうだ」

 リリィとエルノは小さく笑う。話のキリがついたような気がしたので、眠ろうとするとリリィがまた話を続けた。

「アルマとサリナがペアだと思ってたわ。呼び方もサリナだけ違うじゃない?」
「ペアって言うのは恋人っていうことか?」
「そうよ?」

 リリィの遠慮のなさにエルノが止めに入るが、アルマは良いと伝える。

「サリナは兄弟みたいなもんだ。アルって呼び方はサリナの父親が使ってた呼び方だ」
「サリナの父親? あんたとどんな関係が?」
「サリナの父親はジンっていう名前の奴だった。昔ドルエムで、傭兵をやってた時のパーティメンバーの一人だ」

 アルマはダンジョンリヴァでの|魔物部屋《モンスターハウス》攻略の話や、ガルべスを自らの手で殺めた話をした。話を続けるごとに、エルノ、リリィ、ガルム、ロードの四人の顔は青ざめて行ったが、今はもう吹っ切れたことであるため、寧ろそういうリアクションをされると心が痛む。

「でも父親と仲が良かったとしても、娘と仲良くなるものなの?」
「まあ数回は会っていたし、サリナは薄っすらとだがリヴァやガルベスのことを聞いていたらしいからな」
「そう……」
「ああ」



 既に灰になった焚火から一筋の煙がゆっくりと空へと昇っている。平原の地平線から昇る朝日が大地を照らし、植物の葉に付いた雫が煌めく。アルマは立ちあがり、寝床を片付け、辺りを見回した。そして皆を起こす。

「たぶんランス達は盗賊が現れる地域に入る。これからはペースを上げて、奴等に追いつくことを目指す。和気藹々と旅行気分になるのはここまでだ。気を引き締めていくぞ」
「昨日とは随分、違う態度ね?」

 リリィがそう言った瞬間にアルマはリリィの目の前に移動し、頸動脈のある首筋に爪を当てた。リリィは驚き、呼吸を止める。瞳孔が大きく開かれ、額に汗が滲む。

 それを確認した俺は、手を引き、全員の中心へと戻る。

「そう、気を引き締めるっていうのはそういうことだ。これから俺たちが下手に動けば、あいつらが死ぬ可能性も出てくる。もう一度言うぞ」

 圧力に乗せて、言う。

「気を引き締めていく」

 全員、声を出さず静かに頷いた。



 歩いているうちに、一つの魔力を捕らえた。光と闇が入り混じる異形の魔力。交わるはずのない人と魔の、ランスの魔力だ。動かずにそこで留まっているということは捕らえられたということ。

「全員戦闘の準備だ。盗賊を確認した。まずは俺が仕掛ける。他は随時支援を頼む」

 盗賊の数は五人と、一人。ランス達の周りを、剣を手に持ち歩いている盗賊に弓矢で狙いを定める。今、一番危険視すべきはその者であった。いつ、仲間の誰かに手を上げるかわからない。だから彼を最初に殺す。

 弓を力いっぱい引き絞り矢を放つ、盗賊の眉間目掛けて。矢は空を切り一筋、一直線に盗賊の眉間に向かって駆けていき、吸い込まれるように盗賊の頭に突き刺さった。その一瞬の出来事にランスやサリナさえも驚き、死体に成り果てた盗賊を見つめる。そしてその異変に気付いた盗賊は自らの武器を手に取り、射手を探す。
 またそれがアルマたちだと気付いたランス達は口角を上げる。

 アルマの矢の後ろを追いかける形でエルノたちは盗賊に向かって走り出していた。そして、盗賊と戦闘を始めるが、制圧するのは容易かった。しかし誰一人として、盗賊を殺そうとはしない。柄や殴打によって彼らを気絶で制そうとする彼らを察知したアルマは、弓矢でランスの拘束を解き、加勢を求めた。

 ランスは落ちている剣を拾い上げ、盗賊を凄まじい勢いで薙ぎ払っていく。そして四人、ランスが殺し終わった時、最後の一人は武器を投げ捨て手を上げ、命乞いをした。しかしランスはそれすらも殺してしまう。


 仕事が早すぎることにため息をつきつつ、アルマは周りの奴等からしたら何もない空間に弓矢を向ける。

「そこにいるってことはばれてる。光魔法によってステルス状態にしてるのはわかってる」

 アルマがそう言っても、見えない者は現れない。

「姿を現さなければ、弓を放つ。この距離であれば頭に当たらなくても致命傷は免れないぞ」

 二度言っても見えない者は現れない。仲間すらもアルマの行動に不信感を抱き、声を掛けてくる。だが、アルマはその声を無視して矢を放った。

 しかしその矢は先ほどの矢と違い、一直線に飛ぶことはなく、空の半ばでその軌道が崩された。真ん中を綺麗に折られた矢は力なく地面に落ちる。その切断面は、言葉通り何かに切断された後であった。

 そしてその矢を防いだ斬撃の主が姿を現す。

 青く鈍色に光り、胸部には狼の顔の側面が描かれた特徴的な鎧。直剣とも短剣とも言えない微妙な長さで、湾曲した刀身の内側に刃を持つ剣。ククリナイフと称されるそれを持つ戦士。魔物特性研究会の暗殺者が身に着ける装備だ。

「なんで魔特会の連中がこんなところにいるんだ?」

 魔特会の戦士は口を開く。その口から出た音は男とは思えない滑らかで高い綺麗な音だった。

「わ、私はこの盗賊たちに襲われて……」

 見えない者は女だった。美人とも言えないどこにでもいるような女。しかし薄っすらと浮かんでいる傷が今までの戦歴を語っている。
 被っているフードを取り、敵意はないということを示しているがアルマは知っている。彼女が嘘をついているということを。

「この輸送隊と一緒にいたと言いたいのか? だが、それは通用しない。こいつらは俺の仲間だ。しかもこの盗賊たちは、盗賊じゃないってこともわかってる。だからほら」

 盗賊の屍からアイデンを取り出すと冒険者ギルドに加入している者がアイデンに付ける星のピースがアイデンに埋め込まれていた。情報的に不利になっているにも関わらず女は表情を一つとして変えない。さながらこいつには恐怖や焦りといった感情がないのかと思わせるほど。

「いや、この人たちと一緒にいたのではなく、盗賊である冒険者たちに利用されていたんです。協力しないと殺してやるって言われて」
「もしそれが本当なら盗みは行わないはずだよな?」

 女の表情が少し動いた。

「その鎧の裏、左胸のポケットに隠しているのはなんだ?」

 女の額には脂汗が浮かぶ。それを確認したアルマは、この流れを殺さないよう女に発言を許さず続けて言う。

「とぼけたって無駄だ。その本は俺が書いた本だ。俺はこの件にはお前ら魔特会が関与していると確信していた。だから魔物の情報が書いてある書物をこの輸送隊に持たせたんだ。魔特会の求めている物は財や武具じゃなくて、情報だからな」



 魔物特性研究会。字面だけでは堅苦しい集団のように聞こえるが、真は魔物や|迷宮《ダンジョン》の智を得るために、手段を選ばず、冒険者や王国軍を容赦なく襲う者たちだ。しかしその襲撃の速さと、証人、証拠を残さない手際の良さで、罪には問われずに逃げ延びている。
 また魔特会の長、パブロ=ギルゲイルの手腕はすさまじいもので、自らたちがかき集めてきた情報を駆使し、王国軍、冒険者ギルド共に、中立を貫く条約の様なものを締結させてしまうほど。
 結果、彼らは国から認められた正式な組織として発足したものの、それら黒いうわさが常について回るため、どこか都市伝説の様な存在であった。



 女は鎧の隙間から手を入れ、アルマの書いた魔物の情報が描かれた本を取りだし、アルマの方に向かって投げつけた。蝋人形かと思われた女の表情は既に悔しさに溢れている。

「ならば、ここで殺すまでだ!」

 女はククリナイフを引き抜き、アルマに肉薄する。左腕で防ごうと思ったが、ククリナイフはその形状上遠心力を利用し、斬撃が苛烈な一撃へと変化している。いくら強力な魔物の骨格で防いだとしても骨にひびが入る可能性だってある。もちろん、自己再生で修復できるのだが、ここまできてそんな醜態を晒したくはない。

 アルマはトレンチナイフを引き抜き、ナックルダスターでその刃を弾く。それと同時に身体強化を発現し、女の首を獣の左腕で鷲掴んだ。
 
 選抜試験で魔人に対し使用した魔喰は、あの時を切っ掛けに自由に扱えるようになった。そして今となっては維持か使役か、吸収する魔力を選択することも。そしてアルマは女の使役魔力を吸い上げる。立つことができなくなるところまで。

 女の身体から力が抜けた瞬間に、アルマは左手を離し、女をそのまま地面に倒す。今女は酷い酔いの感覚に襲われているところであろう。周囲が不規則なレンズで見たように歪み、色褪せていることだろう。微かに聴覚が残っている程度だ。

「俺たちは王国軍だ。盗賊の殺害を含め、犯罪者の捕獲や連行も一任されている。このまま王国にお前を連れて帰るのも良い。だが、お前一人のために魔特会が崩れるのは……? だから取引をしようか。冒険者ギルドの奴等としたようにな?」

 アルマは女の口に魔力ポーションを突っ込んだ。

 使役魔力が回復した女は立ち上がり、アルマの顔を見つめる。倒れている間にククリナイフは取り上げてある。その女に向かって手錠用の縄と本を差し出す。

「俺が求めるのはパブロの居場所だ。お前らの本部の場所を俺たちに案内するか、一生王国軍のジメジメした牢獄で過ごすかだ。家族仲間揃ってな? ランス達は馬車の中でいつもの装備に着替えておけ」
「わかった」

 と言って、ランス達は着替えを始める。

 女は怒りによって震える手で、殴打を繰り出したがアルマはそれを躱し、手首の辺りを強く掴む。

「抵抗は無駄だ。お前は俺に絶対勝てない。もしこの状態でまだ力を緩めないなら、この右腕を引き千切る」

 アルマのその言葉が本当である、と確信したのか女は力を緩め、本を手に取った。そして念のため、女の鎧に魔力のマーキングを行い、またステルスの魔法を使われても追跡できるようにしておいた。

「ついてこい」

 女は静かに鋭利な視線を向けたままそう言い放った。その言葉にかかっていた圧力は魔弾のように重く、圧力の扱いからやはり只者ではないということをアルマは確信した。

「お前ら、行くぞ」

 その後ろからランスが「大丈夫か」と聞いてくるが、アルマたちの素性から考えて相手は危害を加えられないということを伝える。

「魔特会が王国軍と絶妙な関係を保っていると言われているが、本当はボロボロの泥の橋だ。王国軍の俺たちに手を出したところで、王国との関係は一気に崩れ去る。そんなこと、外で仕事をしてる端くれができるわけがない」
「そうか、お前が言うなら」

 そう言って、ランスはアルマの前、女の後ろを歩き始める。この隊の長はランスだ。それを認識しているアルマはランスの後ろを歩く。その後ろに仲間がついた。

 女はドルエムとは別の方向、これはタチャラの森への道だ。



 数日かけて道を進むうちに、だんだんと空気が濁っていくのを感じる。黒く、暗く、重く、苦しい空気が。これがタチャラの森の空気、不帰の湖から流れ出る空気。

 そしてタチャラの森の直前に来たところで、女は転移を唱えた。

「ま、待て!」

 女はアルマだけを連れ、魔特会の本拠地へと転移した。仲間たちをタチャラの森に残して。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:23:55

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