王国軍選抜試験

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本編

 アルマたちが聖教都市から戻って大体一か月ほど経っていた。長期休みは今日で終わりを迎え、明日から王国軍選抜試験が開始される。アルマにとって学園の生徒など取るに足らない存在であったが、一日たりとも修練を欠かす日はなかった。

 それはアルマが王国軍入隊よりもっと先のことを想定して、活動し始めていることに理由がある。もうアルマにとって王国軍入隊、試験での合格は確定事項であった。その王国軍に入隊した後、魔人との争いを念頭に置いた修練を毎日やってきていた。

 魔人が現れるごとに独立魔力の解放を行っていては恐らく、冒険者を皆殺しにする前にアルマの身体は魔物の身体へと成り果て、その野望は果たされないだろう。

 そのために行っていた訓練は|大喰魔術《ビックマジック》と称した、|大喰手《ビックイーター》を利用した魔法の練度上昇である。

 かつて|迷宮《ダンジョン》で行った|大喰手《ビックイーター》の|疾風迅雷《アクセルウインド》や竜ノ雷槌などがそれにあたる。魔物の特性を利用した身体強化では体全体を強化するのに対し、|大喰魔術《ビックマジック》は身体の一点にその効果を集中させる。

 鎌鼬の特性を利用した|疾風迅雷《アクセルウインド》は足にその身体強化を集中させ、凄まじい速さを獲得する魔法だ。その身体強化を一点に抑え込むために多少の魔力を使用することからアルマはこれを|大喰魔術《ビックマジック》と名付けたのであった。

 そしてそれを新たな形に昇華させたのが竜ノ鉄槌の|大喰魔術《ビックマジック》弐型。身体強化を一点に抑え込みつつ、部位発現を行う。

 |竜ノ雷槌《ドラゴライトニング》は白狼の雷を腕に集中させた状態で、|蜥蜴人《リザードマン》の部位発現を行い、電気を纏った貫手を放つ攻撃であった。

 この二つを集中的に修練を行い、手に入れた多くの能力の有効な組み合わせを編み出し、練度を上げてきた。

 その結果、アルマは新たに|大喰魔術《ビックマジック》弐型を異なる二つの部位で発現する|大喰魔術《ビックマジック》参型を体現してみせたのであった。



「|大喰魔術《ビックマジック》壱型。|疾風迅雷《アクセルウインド》!」

 |蜥蜴人《リザードマン》がその鋭利な爪を、風を切り裂くほどの速さで振り下ろす。アルマはそれを|疾風迅雷《アクセルウインド》で華麗に躱し、新たな術の詠唱に入る。

「|大喰魔術《ビックマジック》参型。風刃竜拳」

 左手に鎌鼬の刃を、右手に|蜥蜴人《リザードマン》の腕を発現し、白狼の雷によって凄まじい速さの拳を繰り出し、その二種の刃は鮮やかに|蜥蜴人《リザードマン》の両方の腎臓をことごとく破壊する。

 ズボッと音が鳴る程、アルマが強く腕を引き抜くと、|蜥蜴人《リザードマン》の身体に空いた二つの穴からはどろりと紫の血液が流れ出す。流石の|蜥蜴人《リザードマン》でもその一撃には耐えられず、息絶え、そのまま地面に倒れ伏した。

 |大喰魔術《ビックマジック》|参型は、本来一つの独立魔力をアルマの魔力によって無理矢理二つに分化させ、それを別々の部位で利用しているため魔力の使用量が多いが、明らかに独立魔力開放よりリスクを低く発現できる術であった。

 そういう理由もあって、気を抜いてしまうとすぐに発現が解除されてしまうのが現状の課題であった。

 しかしこの手段を取る状況は、確実に一撃を決めると確信した時であるために、その課題も実際苦と感じられたことは少ない。

 アルマは家に帰り、明日の試験のための準備である武装の手入れなどを行い、早めに眠りについた。



 編入であったために、実技訓練しか受けていないアルマにとって学園の教室に入るのはほぼ初めてに等しく、自らの席すら覚えていなかった。

 それこそクラスの人間なんてアルマのことを覚えていないだろうと、高をくくっていたアルマであったが、その姿を見たクラスの者たちは一斉にアルマの元へと集まっていた。

 白く染まった髪の毛について、そして聖教都市であった聖教騎士との決闘についてを詳しく聞かれた。

 それもサリナが学校に来るや否や、アルマが旅先で行った功績についてべらべらと話してしまったらしかった。

 魔人については聖教騎士から口止めされていたため、流石に話さなかったらしいが、アルマにとってはいい迷惑である。

「あ、アルマ君。久しぶり、大変だったね」

 色々と質問攻めされたアルマの前に最後に来たのは一人の少女であった。金髪の碧眼でこのクラスではアイドル的立ち位置の、まで出てアルマは名前が出てこない。

「セラ。また適当にあしらわれて終わりだぞ」

 何ともベストなタイミングに少女の名前を明かしたうえで、後ろからセラに声を掛けたのはこのクラスのリーダ的立ち位置で全能神の加護を受けている勇者の、まで出て、また名前が出てこない。

「久しぶりの挨拶をしただけなんだからロード君はいいの!」

 そう、ロードであった。

 どうしたものか、このクラスで行った訓練と言えばそれこそ|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》の攻略のみであったために、ほとんどのクラスの人間の名前をアルマは忘れてしまっていた。覚えていると言えば共に迷宮を攻略したサリナとイギルくらいであった。

 そのようにアルマは各人の名前を思い出しながら世間話をしていると、教室にこのクラスの担任であるエリスが青い顔をしながら、副担任であるアイロスと共に入ってくる。

「……皆さん、おはようございます」
『おはようございます!』

 流石、学校といったところか。アルマを含めた何人かを除いたほとんど人間がそう返す。アルマは明らかにテンションの低いエリスよりもその後ろを歩いているアイロスに視線を向けていた。

 アルマは彼に聖教都市に向かうことを勧められ、魔人に警戒しろと警告され、結果魔人と遭遇した。何か不思議な力、主にこの男の力が働いているとしか思えない程のシナリオであった。

 ちょうど|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》にて階層移動のための階段が破壊されたのも、この男がこのクラスの副担任として就任した直後の出来事であった。

 すると、アイロスはアルマの方を向き、微笑んだ後視線を外した。それがただ生徒に対する態度というより、「私の言う通りであっただろう?」といった嫌味を感じたアルマは舌打ちをして、視線を外す。

 エリスが話を始める。

「今日、予定されていた休み明けの実技試験は明日に延期となりました」

 その言葉にクラスはざわつき、口々に歓喜の言葉を上げる。その反応は当然であろう。誰しも試験なんて進んでやりたいものではなかった。しかし話と言うのはつくづく最後まで聞くべきだと、アルマはほくそ笑むことになる。

「今日、これから王都グレイク。魔法学園都市部へと向かい、明日都市部の生徒と合同実技試験を行う運びとなりました」

 その言葉に次はそこら中から愚痴や文句の声が聞こえ始める。それもそのはず、王都の学園の方が教育は良かった。こちらにいる生徒は家が商業都市にあるからだとか、王都のような堅い場所に通いたくないなど理由は様々であるが、結局のところ落ちこぼれなのである。

 あの勇者と謳われたロードでさえ。それについては後にアルマは聞くことになるのだが、ロードは自らの授かりし力に奢り、修練をさぼる節があったらしい。その結果この地方部に通うこととなっている。

 これだけでかなりダメージを食らっている生徒たちであるが、エリスは最後に留めと言わんばかりの条件を出す。

「また例年、地方部からは十二人の生徒を王国軍へ推薦していましたが、今年は都市部、地方部を含めて九人の推薦となりました」

 この言葉には生徒だけでなく、アルマさえも耳を疑った。推薦枠の減少の率が異常であったのだ。一学年はそれこそ多くはないが、都市部と合わさればかなりの量になるだろう。しかも例年、地方部と都市部合計二十四人の生徒が推薦されていた枠が九人に縮小したのだから。

「王国軍は軍の質の上昇のため、人数を減らす方針に至ったと。その結果、明日王国の魔法学園で実技試験を……」

 先生の顔が青くなるのもそのはず、自らのクラスからどれだけの推薦者が出るかというのが教師としての評価に直結するというのに、もし誰も推薦枠に入れなかったらエリスの面目は丸つぶれだ。

 そのエリスの様子に痺れを切らしたアイロスが前に出て、話始める。

「はい、今エリス先生からお話があった様に、実技試験は王都にて行われます。今日試験があるということは知っていたと思うので、皆さん準備は出来ていますよね? もし準備が出来ているようであれば、すぐに王都へと向かおうと思っています」

 そういうとアイロスは短杖を取り出す、有無を言わさずに転移を実行して見せた。アイロスの詠唱に合わせ、教室を包み込む程の巨大は魔方陣が描かれ、白い光が溢れ出す。

――一度にこの人数を転移させるつもりか!?

 アルマがそう思った矢先、既に目の前には地方部とはとても比にならない大きさを持った魔法学園都市部が聳えていた。王都にあるからか景観を壊さない様、王都に似た建築になっており、それの他に聖教都市で見た結界や魔砲台が配備されていた。



「ははっ。転移した先が魔人種領じゃなくてよかったな」

 とアルマはふと口に出す。

「そうだね、もし相手が転移の使い手で、そのまま敵の領地に飛ばされて、周りが敵だらけなんてことに陥ったらもう手の打ちようがない」
「!?」

 後ろを振り向くとそこにはアイロスが立っていた。

「アイロス先生。後ろから突然話しかけるなんて質が悪いですよ」
「悪い悪い。アルマ君なら気付くと思ったんだけどね?」

 アイロスはそう言うと、エリスの元へ歩いて行ってしまった。

――そういえば、気配を感じなかった……。

 |紅魔眼《マジックセンス》を使っていないとしてもアルマはある程度の索敵能力を持っていたはずだが、今回は本当に気付くことが出来なかった。魔力の応用として、アルマが行う魔力振動による音伝達のような術の他に気配の遮断というものがあったが、アルマすらも会得できていない術であった。

「ちっ」

 底の知れない男にアルマは舌打ちを行った。



 それから地方部の者たちは都市部の中に入れられ、明日の試験の概要を説明された。だが初めての場所に皆、先ほどの暗い顔は晴れており楽しんでいるようであった。それから都市部の教頭から試験の概要を聞いていたが、ところどころで地方部を皮肉るような発言があり、アルマは沸々とその怒りの炎を蓄えていく。

 試験はざっと一次と二次の二つに分かれ、内容については随時試験前に発表と言うことであった。そのため試験についてはほとんど説明はなく、施設の説明などがほとんどであり、途中から飽きた生徒もちらほら見て取れた。

 解散した後、アルマはすぐ宿へと向かい休息をとることにした。だが休息をとる前に毎日行っていた瞑想を行う。

 これを行うことで、魔力の操作をより柔軟に活発にさせる。魔力も筋肉と同じでトレーニングをしなくとも日々のストレッチのように瞑想を行っておけば、より質の良い働きをしてくれるものだった。



「これより魔法学園実技試験、第一次試験を始める」

 王都の門の周りには多くの生徒が集まっている。教頭やその他の教師が門の上に立ち、この第一次試験の説明を行う。

「只今諸君に配った腕輪、それには特殊な|呪《まじな》いを施している。危険があった場合はその腕輪の宝玉を破壊したまえ。そうすれば王都へ転移できるようになっている。しかしその場合は勿論リタイアとして失格とする。それ以外にも不正行為があった場合も同じくこちらから強制転移を行いリタイア、失格とするとする。また今、君たちの身体には結界が張られている。その結界が外部の衝撃により破壊された場合も強制転移が発動し、失格となる」

 ただの腕輪の説明を告げるだけで、まだ試験で何をするかわかっていない生徒たちは少しずつざわつき始める。今集まっているのは百人弱の生徒であり、その量となるとざわつきもすさまじい五月蠅さだ。

 しかし都市部教頭が口を開くと、しんと静まり返った。

「本日から行う一次試験は基礎体力サバイバル試験! 王都の周りにある山岳地帯にて五日間サバイバルをしてもらう! 装備は自分が持っている者で構わない。しかし食料に関係する者は全て持ち込み禁止だ! 協力するのもしないのも個人の自由だ。ただいつか生き残ればいい!」

 教頭の話を聞いていると、後ろからサリナがアルマに話しかける。

「アル、私アルについて行っても良いよね?」
「ああ? 試験なんだから一人でやれや。って言いたいところだが協力も自由みたいだからな」
「あはっ! ありがと」

 そう言うと、サリナはアルマの後ろに付き、準備を完了させる。

 そして教頭は小型の砲筒を空に掲げ、火を付ける。砲筒から赤い煙弾を放った瞬間叫ぶ。

「試験開始!」

 その声と同時に、ロードを代表とする生徒たちは山へ全力で走って行く。

「アル? 急がなくていいの?」
「いいんだよ。今からやる試験は山を一周して来いって試験じゃなくて、五日間生き残れって試験だぜ? 山をあんな速さで走ったらすぐばてちまう」
「そうなんだ、まずどうする?」
「人がまず最初に準備しなければならないのは衣食住のうち住だ。体温が下がっちまったり、寝込みを襲われたりなんてのは以ての外だからな。だが、俺はそこらへんの樹から適当なシェルターを作れる。だからまずは食。水だな。|迷宮《ダンジョン》で水がなくなったら魔物の血を飲んでいたけど、それは今取る手段じゃない」
「じゃあ、沢でも探す?」
「そうだな……。魔物が山で自生しているってことはどこかに水場があるはずだ」
「二手に分かれようか」
「ああ、サリナが何か見つけたらこの前|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》で渡した癇癪玉を鳴らしてくれ。逆に俺が見つけた場合はサイレンスに遠吠えさせる。サイレンスの遠吠えが聞こえたらそこに立ち止まってそこで癇癪玉を鳴らしてくれ。鳴らしたらあんまりそこから動くな」
「うん!」

 サリナは頷き、山に入って行こうとする。アルマは一つ、サリナに伝えるために咄嗟にサリナを引き止める。

「ちょっと待て」
「なあに?」
「誰か生徒を見かけたらすぐ隠れろ。山中で見かけて声を掛けていいのは勇者御一行とイギルだけにしておけ」

 勇者御一行というのはロード、セラ。そしてその二人とパーティを組んでいるナディアと言う少女の三人組のことである。

「え、なんで?」
「教頭の言い方に何か違和感を覚えなかったか?」

 協力するもしないも。結界を破壊されたら。

 この教頭の話では結界が破壊される前提で話しているようにアルマは感じた。この山ではそこまで敵意をむき出しにする魔物はいなかった気がする。

 そう考えると生徒同士のつぶし合いがあるかもしれない。あるかもというより、運営側からそれを促されているような気がする、ということをサリナに伝える。

「つぶし合い……」
「ああ。予想だが、恐らくこれはサバイバルに見せかけたバトルロワイヤルだ」
「バトル……」
「怖いか? 二手に分かれなくたっていいんだ」
「ううん、大丈夫。本当に殺すわけじゃないし、私はこんなところで立ち止まってるわけにいかない!」
「ああ、その意気だな!」
「うん!」
「ブレーキを掛けるようで悪いが、もし問題が起きても下手に手を出さない方が良いかもしれない。俺もそうするからサリナもそうしてくれないか?」
「わかった」

 サリナは手を振り、山の中へと入っていく。



「さて、どうするか。水もそうだが、それと並行して食料も探さなきゃな」

 アルマはサリナの入った方向とは反対から山に入る。



 アルマは|紅魔眼《マジックセンス》を使い、周りを警戒しながら魔物を探していた。瞬間、何かの気配を感じ、透かさず屈むと頭上を矢が飛び越えていった。

「おいおい、早速かよ」

 アルマは人の魔力が感じられない方の木の裏に隠れ、警告する。

「戦う意志はない! 攻撃を辞めろ! 攻撃を辞めるつもりがないなら、次から覚悟して攻撃をしろ!」
「舐めやがって! 俺がぶっ殺してやる!」

 かかった。アルマの挑発に乗り、自ら声を出したことで、その場所をアルマに知らせる結果となった。

 アルマは声のした方向へ、最大出力の風刃を放った。その直後にはすさまじい音を立てて木々は倒れ、アルマに攻撃してきた者の周囲の森は丸裸になった。

 アルマに攻撃をしてきた者はぎりぎり鉄製の盾で防いだようだが、その盾には大きな裂傷が出来ており、もう使い物にはならないだろう。

「な、なんだよ。こんな魔法……」
「さあ、お前はここで失格だよ」
「いや、待ってくれ! 俺はどうしても王国軍に進まなきゃいけないんだ!」

 その者は哀れな表情を浮かべながらそう訴えるが、アルマにとってそれは当然効くに値しない言葉であった。

「お前の事情なんて知るか」

 アルマは|投擲短剣《スローイングナイフ》を放ち、その者を仕留める。甲高く何かが砕け散る音がして、その者の足元に魔方陣が浮かび上がり、瞬時に姿を消し去ってしまった。

「流石にいきなり攻撃されるとは思わなかったな」

 森を歩いていたアルマは隠れながら歩いていたというのに不意打ちを食らった。ただ生き残るだけでいいと言われた試験で。そこでアルマは一つの仮説を立てることでこの違和感に答えを出そうとする。

――もし、都市部の生徒には既に試験の内容が回っていたとしたら? しかもその内容は先ほど話された表の内容ではなく、アルマが推察した裏の内容。

 すると、地方部の生徒は圧倒的に不利な状況であろう。教頭のあの二言、三言でこの試験の趣旨を理解できる者はほぼいないはずだ。しかし都市部の生徒は結託して地方部を狙いに来ていたとしたら、成す術無く失格の烙印を押されることになる。

「よし、サイレンス。この匂いを嗅ぐんだ」

 |紅砲剣《エクスタシス》をサイレンスに変化させ、先ほどの者が落としていった弓の匂いを嗅がせる。

「地方部の奴等には恐らく薄っすらでも香辛料の香りがついているはずだ。わかるよな?」

 サイレンスはアルマのその言葉にわかっているという素振りをして見せる。

「それならこの弓の奴と似た匂いを持ってる者で香辛料の香りがしない奴等を攻撃して来い。殺さない程度にな。まずは十人だ。十人倒したら俺のところに戻ってこい」

 サイレンスは重く喉を鳴らし、山の中へ駆けていった。



 数時間の後、都市部の訓練場には既に多くの失格者が転移させられていた。

「エリス先生、どうされましたか? 調子でも?」
「え、あの、いや。先ほどから多くの生徒が失格になっているので少し不安になって」
「しかし先生気付きましたか? この違和感」
「はい。帰ってきている生徒のほとんどは都市部の生徒なんですよね……」
「そうですね。現時点で帰ってきた生徒は百名ほどの人数の内、約半数ほど。その九割は都市部の生徒です。先ほどあらぬ話を聞いたのですが、都市部の生徒にはこの試験内容が知らされていた、と」

 そう話すアイロスの瞳には怒りを押し殺したが故の黒が備わっている。

「そんな……。それでは私たちの生徒は……」
「ですが、アルマ君やロード君であれば何とかするでしょう。あなたの生徒は強い子が多い」
「そうですよね。私が信頼しないと」
「若しくは、この惨状アルマ君の仕業かもしれませんね」

 アイロスは静かに笑う。その言葉になぜか納得してしまうエリスであった。



「お、帰ってきたか」

 アルマは森の中から現れたサイレンスの頬を撫でながら|紅砲剣《エクスタシス》に変化させ、鞘に戻す。

 これでサイレンスがアルマの元に帰ってきたのは五回目。都市部の生徒を五十人ほど狩ることが出来たであろう。

 地方部の総数は三十人ほどである以上、既に十数名の地方部が狩られていたとしたとしても、都市部と地方部の残存数はとんとんくらいのはずだ。またその間沢を探しながら獲物を狩っていたアルマの進捗状況もなかなかであった。

 鹿や鎌鼬、兎などを借りながら加工具合によっては、サリナの二人で五日を過ごせる程度の食料は確保することが出来た。

 また新たな獲物を狩り、解体し終わったことで血だらけになった手を洗いたいと思っていた時、山中に癇癪玉の音が鳴り響いた。

「見つけたか。サイレンスは寝かせちまったから俺の脚で行くか」

 大体の装備をポーチに入れ、身体を軽くした後に詠唱する。

「|大喰魔術《ビックマジック》壱型。|疾風迅雷《アクセルウインド》」

 夏も暮れ始めたことで赤くなり始めた木々の間をするすると華麗に走り抜け、細かな小枝を踏みつける音をリズムとして捉えることで、スピードを加速していく。

「サリナ!」
「あ、アル! 見つけたよ! ほら!」

 サリナの指さした先には泉があり、岩壁から小さく湧水が溢れ出ている。泉の規模はそこまで大きくなく、ここに人が集まり過ぎたらそれこそ争いになることは必至だ。やはり対策を考えなければならない。

「これで水は大丈夫だな。よく見つけてくれた」
「でしょー!? 私天才かも!」

 サリナの言葉を無視してアルマは話を続ける。

「とりあえず、辺りの木を増やしてこよう」

 アルマはこちらに来るのが難しくなるように、トレントという大樹の魔物から得た固有魔法を使用した。木々の間に新たな木を生やし、泉の周囲直径五〇〇メートルほどを自然の要塞として構築していく。

 ある程度の作業が終わった後、アルマは都市部の不正についてサリナに話した。サリナは驚きつつ怒りを露にするが、それについてはほとんどの都市部をサイレンスで狩ったということを伝え、宥める。そしてこれからの計画について説明を始めた。

「頭の良い奴は水が大切だってことには当然気付いているはずだ。王都の近くの山岳地帯だというのにまだ都市部の奴にばれていないのが不自然なくらいだ。だから俺はこれからこの周りに罠を仕掛けてくる。ここを俺たち地方部の拠点として都市部の人間に猛攻を仕掛けようと思う。やられっぱなしはムカつくからな。都市部全滅でこの一次試験を終わらせる」

 サリナはその大々的な目標に笑いながらも応える。

「アルが言うと出来ちゃいそうって思うのが凄いよね。だとしても、二人で全滅させるの?」
「いや、地方部の奴等をここに集めて、都市部の人間を迎え撃つ」
「迎え撃つ……。それじゃあ地方部のこはどうやって集めようか?」
「それは明日。回りに罠を張る時に不規則に安全地帯を作る。そこを辿っていけばここにつくようにな。お前にはサイレンスと共に人間を探してほしい」
「人間? 都市部地方部関係なしでいいの?」
「ああ、それには俺が考えがある」
「なら任せるね」
「じゃあ俺は罠を仕掛けてくる。サリナはこれを」

 と言って、獲った魔物の肉をサリナに渡し、肉の加工を任せる。

 罠と言っても殺す程ではなくただ身体に施されている結界を破壊するだけでいい。それならば小さな罠でも十分である。

 拠点から外に出て、アルマは沢の周りを中心として罠を張っていく。そして安全地帯には目立つように鎌鼬の刃で傷をつけていった。一直線ではなく、泉の周りを歩き回らなければならないルートを示しながら。

「準備はできた。明日お前はサイレンスに乗って見つけた人間にこれを当たらないように投げてほしいんだ。その時絶対に木に突き刺さるように投げてくれ」
「これは?」
「鎌鼬の鎌を切り離したものだ。ここの山にもたくさん出るようだからな。一応狩っておいたのが功を奏した」
「なんで、これを投げつけると地方部の皆が集まってこれるのかな」
「ルートには鎌鼬の刃で傷をつけた木を目印にしてある。そして外に出るときはサリナ、お前には俺のローブを着て行ってもらう。白い狼に黒のローブの乗り手、鎌鼬の鎌。地方部の特に俺たちのクラスの奴等ならそれだけで俺が呼んでいることがわかるはずだ」
「でも、本当にそれだけでわかるかな」
「わからない奴はそれまでだ。多分ここに来ても使い物にならない。ここに寄ってきても強くて使える奴じゃないと意味がないからな」
「そっかぁ。私はわかりそうもないから先にあると合流しておいてよかったよ」

 アルマとサリナは共に大きな声で笑った。



 まだ日が顔を出す少し前、アルマは目を覚まし、今日の準備を始めながら、サリナを起こす。

「サリナ、起きろ。夜が明けた。行動を開始するぞ」

 シェルターの中で寝ていたサリナは目を擦りながらも起き上がり、アルマに尋ねる。

「あ、おはよう。アル……。眠れた?」
「ああ、バッチリだ。今日から本腰入れて工作していくぞ」
「うん!」

 アルマは|紅砲剣《エクスタシス》をサイレンスに変え、サリナを乗せ、袋に入った鎌鼬の鎌を手渡す。

「鎌鼬の鎌を投げる時以外はサイレンスの背中にくっついてろ。そうすれば攻撃されにくいだろうし、サイレンスが守ってくれる。俺はこの周囲で運よく罠に掛からなかった奴等を狩る」
「わかった! アル、やられないでね」
「誰に言ってんだか」

 アルマはサイレンスを走らせ、サリナを森の中へ走らせていく。

 罠は特に泉の周囲百メートルに多く設置し、安全なルートは数にして五つ。そこを点々としながら周囲の警戒をしつつ、ぬけのあるところには罠を追加していく。

 基本的に罠は樹の上を移動していけば掛かることはないが、流石にこの森の中に罠があることを想定して木の上を走り渡る者はいないだろう。いたとしてもアルマの風刃がその者を襲うことになるのだが。

「さあ、地方部だからって舐めていた自分たちを呪うがいいさ」

 王国軍選抜試験、一次試験サバイバル二日目の開始だ。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:19:58

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