聖なる光の届かない迷宮で

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前話


本編

 アルマとサリナは装備を確認した後、適当な道具類を全てアルマのクロノスの懐へと収納し、宿を出た。

 アルマは右腰に黒鋼のトレンチナイフ、左腰に竜の爪、背中に|紅砲剣《エクスタシス》、ワイヤーダガー、スローイングナイフと現状一番利便性の高い装備になっている。

 これほどの装備を付けたうえで、速さを殺さずに戦闘を行えるようになった自分に、アルマは成長を感じていた。

 街はまだ眠っており、薄っすらと靄がかかっている。夏だというのに、薄っすらと肌寒く、サリナは腕を擦る。

「よっ。まったか?」
「おはよう!」

 門の前には既にランスがおり、腕を組み待っている。この前戦った時より軽そうな鎧に、武器も剣を腰に差しているが、盾は布で包み背中に背負っている。長い金髪を一つにまとめ、門に佇む騎士様は、あの性格さえなければ自他ともに認める良い男だろう。

「今来たところだ。三首狼まで向かうんだろ?」
「ああ、最深部まで攻略できればって考えている。どのくらい時間はかかる?」
 
 ランスの姿を見るに、|迷宮《ダンジョン》を攻略しやすい装備でそろえてきたのだろう。

「六時間……は言い過ぎか。まああの実力を見る限り、問題が無ければ三、四時間でつくだろう」
「そうか、それなら早速――」

 アルマの言葉にサリナが遮る。

「しゅっぱーつ!」



 道中はランスの先導のもと、サリナ、アルマという順で歩いた。基本的にはアルマの|紅砲剣《エクスタシス》で魔物はどうにかなるため、二人が武器を抜くことは一度もなかった。

 他愛もない話をしながら、アルマは昨日いくつかランスと話していたため、サリナとランスの会話の邪魔にならない様、努めた。

 |迷宮《ダンジョン》攻略においてやはりパーティの信頼関係は重要になってくる。背中を任せられる人物。二人には|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》までに少なくともそんな関係にはなってもらいたかった。

 その過程で、故郷な話や、アルマの経歴について、足手纏いのイギルについても少し話したりした。

 正直、アルマはこの時間を楽しんでいた。そう、まるで昔あのメンバーで仕事に行く時のような。



「さあ、着いた。まずは宿をとろう。その後、管理所に登録しに行こう」

 |迷宮《ダンジョン》は冒険者の稼ぎ場所であるため、自然と迷宮の周囲にはある程度の集落のようなものができる。それこそ傭兵都市の一番劣悪な宿より良い宿があるくらいには栄えていた。

 アルマたちは宿で部屋を二つ取り、その後|迷宮《ダンジョン》の管理所に名前を登録した。

「とりあえず、闘技区くらいはどうなってるか見に行ってみようか」
「うん!」
「ああ」

 先が暗くて見えない階段、というのは|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》と変わらないだろう。しかし奥から流れてくる空気は熱を帯びており、とても不快である。

 火を操る魔物が主と存在している|迷宮《ダンジョン》なだけあって、そういう部分が迷宮の環境にも影響していた。

 闘技区につくと、聖教騎士の正装をしている男と、ランスのように軽い装備をしているアルマたちと同じくらいの年齢の者たちが魔物と戦っていた。

「ここは聖騎士か何かの訓練場なのか?」
「ああ、まだ力量が足らず、兵士として戦えない者はここで訓練をするんだ」
「お前は?」
「俺はもう既に訓練の課程を修了し、騎士としてやっていく力量を認められたからな」
「ふーん」

 アルマは視線を感じた。

――あいつらか、聖騎士に訓練されている子供。なんだ、何で見ている。いや、俺じゃなくてランスを見ているのか。

 ランスはバツの悪そうに足早にそこを立ち去ろうとした。

――同年代に対しての嫉妬はしょうがねえか。

「ここは見た感じ弱い魔物しかいないみたいだ。さっさと切り抜けよう。十五秒待ってくれ|大喰魔術《ビックマジック》壱型! 速度疾風!」

 アルマは速度疾風を使った高速移動により、この階層にいた全種の魔物の魔力を吸収し、複製した。多くは火属性の魔法であるため、ここでの攻略には有効打にはならないだろうと考え、アルマは固有魔法の確認を後にする。



「闘技区はやはりつまらないな。一瞬で終わっちまった」

 上層である闘技区十階層を踏破したアルマはそう声を漏らす。

「でも私の炎はやっぱり効きづらいみたいで、少し大変だったかな」
「俺はやっぱり慣れてるのが大きいかな。そんなにきつくはないな」
「恐らくこの調子で迷宮区も行けると思うが、一度帰るぞ」
「もう帰っちゃうの!?」
「ああ、今日は準備も甘い。本格的な攻略は明日からだ。一度潜ったら攻略するまで中で過ごすからそこらへんは覚悟しておいてくれ」

 サリナとランスは無言で唾を呑み込んだ。アルマは二人が覚悟を決めたことを確認すると地上への道を歩き始めた。



「おい、お前、今日はいくら稼いだ?」
「今日はあんまりだったぜ……」

「カンパーイ!」
「十二階層踏破おめでとーう!」

「随分と荒く使ったなあ」
「迷宮の魔物の火炎がな……」

 日が落ち始めた集落にはそんな会話が溢れ、|迷宮《ダンジョン》に潜っていた冒険者たちが集落に出てきたのも相まってかなり賑やかになっていた。

 仲間との稼ぎを比べる者、新階層踏破を喜ぶ者、痛んだ装備を整える者。様々な者たちが別の目的を持って、同じ場所で奮闘する。ここにいる者たちのように明日を迎える者もあれば、暗い|迷宮《ダンジョン》の中で朽ち果てていく者も。

 死は平等にやってくる。しかしアルマは、人間はその死を力によって遠ざけることが出来るということを知っていた。

 三人は宿に戻り、自由行動になる。ランスは剣の手入れを、サリナは集落の観光を、アルマは明日に向けての準備を始めた。

 アルマはローブと改造していないダガー一本のみを持ち、酒場に向かおうとする。

「ん? どこにいくんだ?」
「明日迷宮区に潜るんだ。途中の階層までの地図くらいあるだろう。こういう集落には必ず|迷宮《ダンジョン》専門の情報屋がいるもんだから、それを探してみる」
「そうか……」

 この集落の酒場は傭兵都市の酒場とは違い、賑やかではなく、照明が少なく、冒険者たちも静かに酒を飲んでいる。酒を飲むという行為より、酒を嗜むような酒場であった。

 そこのバーテンダーがいるカウンター、その片隅、光のほぼ当たらない場所に色の薄い酒をグラスに入れ、ゆっくりと飲んでいる黒ずくめの男がいた。

 どこの情報屋も大抵この形であった。

 アルマはその男の隣に座り、一つ酒を頼む。

「仕事か、情報か」
「情報を」

 情報屋は開口一番こう聞いてくる。情報屋の言う仕事は所謂探偵稼業。そして情報はアルマが求めている|迷宮《ダンジョン》の地図も然り。その他、集落の周りに出る盗賊の情報や、魔物の情報。情報と名の突く者であれば何でも教えてくれた。もちろん金を払えば。

「何のだ? まあ|三首狗《ケルベロス》についてだろう?」
「ああ、|三首狗《ケルベロス》の最深部までの地図を」
「その風貌だと、素寒貧だな?」

 情報屋はアルマの姿を足先から頭の先まで、見た後、鼻で笑いながら呟いた。

「はは、きっぱりと言われると寧ろ清々しいな。ご名答だよ」
「そんなんで、迷宮区に挑むなんて自殺志願者か?」

 呆れたような口調で言う情報屋は意外にもまだ聖教都市で起きたランスとの決闘は知らない様だった。

「なわけないだろう? 記念だよ、記念。ちょっと遠くから来てるから行けるところまでな」
「そんなことを言ってる奴に限って、帰ってこないがな。まあいい。最深部までなら十五万リルだ」
「え!? 高いよ! 自分で素寒貧だって言ったじゃないか! せめて十万リルくらいで」
「こちとら商売でやってんだ」
「見てくれよ、この装備。こんな装備の奴がそんなに持ってるはずないだろ? しかも傭兵を雇っちまってる。十万でもきつきつなんだ。俺が住んでいるのはパレスの近くなんだ。貴族や商人のボンボンが沢山いるんだぜ? |三首狗《ケルベロス》は攻略しやすかったって俺が豪語したらここも繁盛するんじゃないか?」
「ふん、希望額は?」
「八……八万五千!」
「九万だな」
「よしっ乗った!」

 アルマは財布の中身を悟られない様、九万リルを差し出す。

「ちょうどだな」

 情報屋の男は背負っていた鞄から、迷宮区の地図を取り出し、アルマに手渡す。それを確認したアルマは酒場を後にした。



 結果はアルマの大勝利。

 情報屋は依頼者の足元を見る。稼げそうなやつなら持っていないと思ったとしても莫大な金額を請求する。アルマは一度それに引っ掛かりそうになり、百万リル程請求されたことがあった。

 実際、この金を惜しんだ冒険者は無残な死を遂げると言っても過言ではなかった。迷宮区は文字通り迷宮だ。しかも今回の三首狼の迷宮は、三首狼討伐までは至っていないが、そこまでに道は全て明らかになっていた。

 マッピングという面倒臭い作業をせず、一直線に主のいる階層までたどり着けるということだ。



 宿屋に戻ると、ランスは酷い形相で剣を磨いていた。

 先ほど装備していたものではない。ランスはその剣を強く、強く、手が真っ赤になりこめかみに血管が浮き出るほど、まるで親の仇を見るような目でその剣を研いでいた。

「おい、ランス」

 ランスは体を大きく痙攣させて、こちらをみた。

「そんなに驚いたか?」
「あ、いや。すまない。おかえり」
「ただいま」

 ランスは咄嗟にその剣を隠そうとする。

「おいおい、隠すな。それはなんだ?」

 ランスは難しそうな顔をして俯いた。が、少しすると決心したようにこちらを向いた。

「アルマ、今日は楽しかった」
「なんだよ、急に」
「俺は今まで隊長や、副隊長。その他の聖騎士としかパーティを組んだことがなかった。さっき見ただろうが、俺くらいの歳の聖教騎士はまだ訓練生だ。同い年くらいの奴等とパーティを組むなんてことは初めてに等しい。隊長が言うんだ。本当の仲間ってのは腹を割って、全て話せる者たちだって」
「はは、あのおっさんならそんな臭そうなこと言いそうだ」
「ああ。でも勘違いしないでほしい。俺がこれを話すのは君たちとパーティを組んだからではなく、信頼したい、いや信用できると思ったからだ。サリナにももちろん後で伝えるつもりだ」

 ランスの瞳からは覚悟が感じられる。何を話されるのか、アルマは少し不安になった。

「堅っ苦しいことはやめてくれよ?」
「そうじゃない。俺の……過去の話だ」

 ランスのその目は真剣だった。それこそアルマのように過去に何かを置いてきた者の目だった。そしてランスは話し始めた。

 自分がなぜこの歳で部隊に所属できているのかを。回りの同年代の者たちはランスのことを疎ましい目で見るかを。



 それはランスが齢七歳の時だった。ランスの生まれは普通の村だった。

 大都市からもそんな離れていないから貧乏というわけではなく、本当に普通の村であった。

 しかし一つ大きな問題を抱えていた。

 村の近くにある洞窟。そこには盗賊の根城が存在していた。

 その盗賊たちは村を襲わない代わりに、貢物を要求していた。年を取っていた村長は争いを好まなかったため、それを承諾していた。

 しかしその村長はランスが七歳の時に亡くなってしまった。その次の村長、亡くなった村長は若く、冒険者だった経歴もあり、血の気の多い人だった。貢物を承諾した時も、彼は猛反対し、戦いを望んだという。

 そして彼は盗賊との戦いを決定した。彼のカリスマ性からか、村人はランスの父親を含め全員が同意した。

 その後、すぐに村人は村の入り口にバリケードを作り、武器を装備し、盗賊の来訪に備えた。

 最初の襲撃は不意を突かれた盗賊の負けであった。しかし盗賊はだんだんと対策を立てていき、村人のけが人や死人は増えていった。

 そして満を持して盗賊の大きな攻撃が始まる。

 ランスの父親は床下の倉庫にランスを押し込んだ。いざという時のために昔から内に置いてあった直剣も一緒に。

 ランスは無力であった。盗賊が攻めてきていることより、倉庫の暗闇が怖った。カビの匂い、ギシギシとなる床、時々頭上から降ってくる埃や砂。ただただ耳をふさぎ、蹲って震えていた。

 そして音がなくなったくらいに外に出たランスは自分の目を疑った。

 家の床はいつもと違い、底にあったのは絨毯と机といすではなく、血だまりとランスの父親の死体だった。その惨状が直ぐには理解できずふらふらと外に出るとほぼすべての家が焼かれ、最後にランスの家を焼こうと準備している盗賊たちが目の前にいたのである。

 目覆いたくなるような煙の臭い、血の匂い、そして人の肉が灼ける臭い。

「強く今もふと鼻の奥で、その匂いがするくらいこの時の状況は覚えている。だがそれからの記憶はない。しかし後から隊長に聞いたんだ。俺は盗賊に殺されたって」
「は?」

 盗賊の武具は確かにランスの身体を切り刻んだ。剣が腹を突き抜け、斧が腕を切り裂き、槍が足を貫いた。しかしランスは死ななかった。傷は急激に回復し、ランスを立ち上がらせた。その姿はまさにアンデットの様だったと。

 そしてランスは父親に渡された剣を引き抜いた。

 引き抜いた瞬間、辺りを大きな心臓の鼓動のような響きが打った。鞘からは闇が溢れ出す。黒く、闇を纏う剣。その剣の名はダインスレイフ。誰かの血を吸うまで鞘に戻らないと謳われた呪われた剣。

 そしてランスは齢七歳にして十人近くの人間を惨殺した。

 それから村には通報を受けた王国軍が到着し、ランスを保護。ランスは数か月の後、聖教騎士バロンの元で兵士として訓練された。しかし盗賊を惨殺した話は同年代の訓練生に伝わり、悪魔の子と蔑まれてきた。

「だが、バロン隊長と、リーシュ副隊長は俺を自分たちの息子や、弟のように接してくれたんだ。この話を知ったうえで」

 ランスは不安そうに、アルマの顔を覗いた。何か言葉を待っているようだった。

「あの回復力は|特殊技能《スキル》か何かってことか」
「ああ、俺の|固有特殊技能《ユニークスキル》、|光剛生《サンライトヒール》だ。日光を浴びれば、死に至る傷すらもたちまち治ってしまう。それだけでなく失われた血すらも生成されるんだ」
「ん、じゃあなぜ俺に決闘で負けた? あの時はかなりの日が照っていたはずだ」
「多分、それは君の|特殊技能《スキル》が原因ではないかと考えている。恐らく、君の|特殊技能《スキル》は相手の|特殊技能《スキル》の何かを奪ったりするものなんじゃないか? 今日の迷宮でもそんな素振りをしていただろう? そのせいかあの急に強くなった君から折られた俺の右腕は魔力が上手く作用していない」

 ランスはアルマに向かって、その右腕を差し出した。

「なに、後遺症があるのか? それは悪いことをしたな……」
「いや、良いんだ。俺は逆に感謝しているんだよ。この|特殊技能《スキル》は俺にとっての呪いみたいなものなんだ。それが一時的だとしても今無くなっているんだ」
「呪いか……。強い能力だし、いいじゃねえか。盗賊なんて俺だって、ここに来るまで十人くらい殺してる。その前には決闘を吹っかけてきた冒険者を殺した。過去をさかのぼれば両手両足じゃ足りねえ。人殺しが何だ。生きるためなら仕方ねえだろうが」
「そうか。君はそんな奴だったな……。今はそれが嬉しいよ……」

 ランスは立ち上がり、後ろを向いた。顔辺りに手をやっているのを見る限り、涙を流しているのだろう。アルマはこの時こそ、皮肉を言うのをやめ、「飯に行っている」と言い、部屋を後にした。



 少しすると、ランスとサリナは宿の食堂に降りてきて、アルマと合流し、食事を共にした。

 アルマはふかした芋と、野菜のスープ。どれをとってもはっきりとした味付けではなく、素材を生かしたような味付けであった。薄いと言ってしまえばそれまでだが、それを楽しんでこそ、ということだろう。

 商業都市はやはり良いものが揃う。そこでとる食事はやはり良いものであった。ここは商業都市から遠いため、香辛料なども値段が高いのだろう。

「はぁ食った食った」
「おいしかったー!」
「そうだな」
「あ、サリナ。明日のことについて対策を考えるから後で、俺たちの部屋に来てくれ」
「りょおかい!」

 サリナは敬礼のような仕草をして自分の部屋に入っていった。



 三人集まったところで、情報屋から仕入れた情報を話していく。

「まず出現する敵についてだが、今日戦ったからわかるだろうが、基本は火の固有魔法を持つ魔物がほとんどだ。気温はかなり高い。だから俺が持ってきておいたイフリートの涙を必ず装備してくれ」
「イフリートの涙?」

 サリナの質問に対し、アルマは一つのネックレスを取り出し、それを見せた。赤い宝玉が煌めいたそのネックレスはサリナの瞳を輝かせる。

「これがそのイフリートの涙だ。これを付けていれば、多少の高温も耐えることができる。あの環境は無駄に体力を持ってかれるからな。ちゃんと全員分ある」
「用意周到だな、君は。魔物についてはそれだけか?」
「いや、まだだ。|三首狗《ケルベロス》は名の通り、三つの首を持つ狗だ。そのせいかどうかわからないが、|迷宮《ダンジョン》内の魔物は特に獣の形をしたものが多いらしい。動きが俊敏なうえ、攻撃力も高い」
「それに加え、さっきの火の魔法か」
「ああ、だから場合によっては苦戦を強いられるかもしれない。しかも獣の集成で、群れで行動することが多い。しかも迷宮区では特にだ。前も後ろも魔物だらけなんてことが多々あるそうだ」
「それ、結構やばいんじゃないの?」
「そのために今から対策を考えるんだ。魔物も厄介なんだがやはり|迷宮《ダンジョン》で一番厄介なのがトラップだ。主に火のトラップが多いらしいんだが、一番怖いのは転移だ。かなりに頻度で確認されているらしくてな」
「転移か……」
「転移されると何がまずいの!?」
「俺はまだしも、サリナ。お前が一人魔物の中に孤立したらどうなる?」

 サリナは唾を呑み込んで恐る恐る応えた。

「やばいね、それ……」
「だろ? 一人がいなくなって、皆走り回って、そいつを探して疲弊して野垂れ死んでいく」
「ならどうするんだ?」
「一応、先頭は俺が歩くことにする」
「君ほどの玄人ならトラップに掛からないとでも?」

 アルマはランスに|紅魔眼《マジックセンス》を使って見せる。ランスはまともに見る真紅の目に驚き戸惑う。

「はっはっは。そんな驚くことはねえだろ? 二、三回は見てるはずだ。まあちょっと気味が悪いけどな」
「見たことあると言ってもどちらも緊迫した状況だ。はっきりと覚えているわけではない」
「そうか、まあ簡単に言えばこれがあれば魔力の可視化ができる。これを使えばトラップの位置が丸わかりってわけだ」
「……!」

 ランスは驚き、開いた口が塞がらない。

「まあ、それだけだと不安だから一応これを二人に渡しておく」

 アルマは二人にポーチから火薬の量を調整した癇癪玉を三つずつ手渡した。

「これは?」
「癇癪玉、要するに音を発する爆弾みたいなものだ」
「爆弾!?」
「安心しろ、殺傷力はないから。普段は魔物避けに使うんだがそれは少し改良を加えてな。普通より大きな音が鳴るように調整したんだ。だからもし飛ばされた場合はこれを魔力に流し込み、地面に叩きつけろ。そうすれば大きな音が鳴り響く。それを|紅魔眼《マジックセンス》で俺が察知してすぐに駆け付ける。だがそれと同時に魔物も集まってくると思う。俺を呼んで大群を相手にするか、一人で合流を目指すか、それは各自の判断に任せる」
「わかった」

 サリナは、目を見開いて無言で何度も大きく頷いた。

「それら術絵を総じて考えると、隊列は俺、サリナ、ランスの一列になる。俺がトラップなどの確認、|紅砲剣《エクスタシス》での魔物の早期討伐。サリナは魔力を温存しつつ本当にヤバそうな時だけ対応してくれ」
「うん! 任せて!」
「ランスは後衛で、基本的な光の補助を頼みたい。でもお前も魔力を使い過ぎるな。あと迷宮区だ、後ろから魔物が来ないとも限らない。その時は頼む。だがその時も極力武器で。対応できるようだったら後ろも俺の|紅砲剣《エクスタシス》で引き受けるから」
「ああ、任せろ」
「最後に、やばいと思ったら全力で階層を上げろ。全部俺に丸投げしていいから」
「何を言ってる? パーティで仲間を見捨てていくのはおかしいだろ」
「いや、ランス。いいの。アルがスイッチ入った時、戦闘の邪魔したら私たちでも攻撃してくるからこいつ」
「おい、こいつってなんだ」
「要するに、アルの戦闘の邪魔はしちゃいけないってこと」
「ふむ、納得は行かないがサリナが良いと思っているなら」
「それでよしっ!」

 会議が終わると、サリナは自分の部屋に戻っていった。アルマとランスは明日の準備を済ませ、早いうちに床に就いた。



 |三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》を前にして三人は並ぶ。

「さあ、ここからだ」

 手の関節をならし、気合いを入れているのはアルマだ。

「目指せぇ! |三首狗《ケルベロス》とうばぁーつ!」

 サリナはパーティリーダーのアルマを無視して、そう宣言する。

「おう!」

 ランスはサリナのその言葉に応える。

 アルマたちの|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》攻略戦が、今始まる。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:10:20

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