聖なる光の教え

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前話


本編

 サリナは朝起きると、隣のベッドにアルマがいないことに気付いた。
 昨日の今日でそんな間違いは起こらなかったし、これからも起こることはないだろう。

 それこそ昨日の事件で、宿についてから一度も会話を交わしていないというのが事実であり、二日目の夜はとても冷たい空気が漂っていた。

 サリナは不安を感じ、ある程度の装備を手に持ち、外へと飛び出し、アルマの姿を探す。

 外はまだ冷えており、うっすらと霧がかっている。吸い込む空気は肺をちりちりと痛ませ、いつもより多くサリナの体力を奪っていく。探しに出たもののサリナにとって商業都市以外で初めての街である傭兵都市で思い当たるところと言えば、昨日の事件があったダイスダイスのみであった。

 記憶を辿り、道を走り、角を曲がり。その先に地面を見つめるアルマがいた。



 既に死体は片付けられ、そこには何もないように思えた。

「金とかは他の奴等が持っていったんだろうよ。武具屋のショーウィンドウにあいつの装備が並べられてた。死体は片付けても、周りに飛び散った血とかは処理しないんだよ。金がかかるって」

 隣に並ぶや否やアルマは、視線を変えずそのように話した。よく見てみると、壁や地面に赤黒い染みがまだ残っており、微かに血の匂いがする。

 サリナはまた気分が悪くなるが、それを堪え噛み締める。

「昨日はアルが、私の代わり怒ってくれたから――」
「まだ話せない。仲間殺しのレイヴンと呼ばれる理由。お前が信頼できないとかじゃなくて、これを話したら一人じゃ生きていけなくなる……」

 アルマの瞳は虚空だった。なにもない。地面の染みを見ているようで何も見ていない。何も考えていないのか、何かを思い出しているのか。それはサリナにはわからないことであるし、アルマも話すつもりは無いだろう。

 またサリナは何もできない自分に腹が立ち、涙を零しそうになる。

 ――ここまで来ることができたのはアルのお陰。盗賊に襲われた時も自分だけ手を汚し、私が貶されたら、怒ってくれた。

 スイッチ。アルマに感情によって切り替わるスイッチのようなものがあることはサリナも知っていた。そのスイッチが入った時、それが戦闘中であれば絶対に話しかけてはいけない。自分も標的にされるから。そう思わせるほどの気迫を纏う切っ掛け。

 それはアルマがピンチになら――感情が昂ら――ない限り入ることはなかった。

 だというのに一言でそのスイッチを入れさせる「仲間殺し」という呪文のような言葉。なんらかの理由があるのは勿論わかるが、アルマの掴めない人間性も相まって、サリナの心の奥底にある不安を掻き立てた。

「戻ろう。今日も移動だ」
「うん」

 会話は少なかった。でも互いのわだかまりは多少解消されたような気がした二人であった。

 宿を出て、傭兵都市から少し歩いたところで|紅砲剣《エクスタシス》をサイレンスに変化させ、その上に乗り、聖教都市への道を走った。
 傭兵都市を出たのは、冒険者たちが活動し始めるより前、日の出から二時間ほど後のことである。



 一度夜が更け、テントを張り、夜が明け、走り出し、商業都市出発から一週間と掛からず、聖教都市に辿り着くことができた。商業都市から出ている聖教都市へのキャラバンに同行すれば片道約二週間はかかってしまう道のりであったために、サリナはその移動速度に驚愕している。

 サイレンスの姿を見られると、大きな騒ぎになることを危惧して、街道がはっきりしてきた頃にサイレンスを|紅砲剣《エクスタシス》に変化させ、徒歩で聖教都市までの道を歩んだ。

 人間種の領土のほとんどはシル平原と呼ばれる青々と草木が茂った平原が占めているが、聖教都市は魔人種に対する前哨基地であるために、魔人種領土の砂漠の香りが薄っすらとし始めていた。

 草木は鮮やかな緑から、汚い茶色へと変わり、じっとりとしていた地面もさらさらとした足の取られる砂が多くなってきていた。

 しかし既に視界の先には聖教都市の建物が見え始めており、その歩みを確かにさせた。



 ドームのような形に二重に見える結界。商業都市パレスの魔法学園のように高い建物はなく、その分厚い城壁の上には魔力によって駆動する魔砲台が何基も並べられている。これこそ人が住むために建設された都市ではなく、人を守るために建設された都市、聖教都市ファリスであった。

「聖教都市ファリスへようこそ! アイデンの掲示をお願いします」

 門番にアイデンを差し出し、都市の中に入る。アルマは被っていたフードを一層深く被り、周囲の視線を遠ざけた。

「やっぱりパレスとは雰囲気が違うね」
「ああ、砂漠が近いからそれに準じた設計になっているんだろう」

 少なからず、聖教都市には砂漠が近いため、砂嵐に見舞われることがあった。そのために壁は分厚い石材で組まれ、その壁面も砂のような明るい黄褐色をしていた。

 そして一番違っていたところは、その街にいる人々であった。

「ねえアル騎士さんがいるよ!」

 サリナの指さした先には傭兵都市にいた冒険者なんかとは比べ物にならないレベルの装備を身に着けた、聖教騎士が三人ほど街を歩いていた。

 白銀の甲冑や盾、黄金の柄を持った槍や剣。それら全てに太陽の紋章が描かれている。

「流石精鋭部隊ってところか……」

 王国軍精鋭部隊聖教騎士団、太陽の騎士。それがこの都市で駐屯している部隊であり、人間種最強の軍隊であった。
 聖教と言っても、変な宗教とかではなく、彼らが信仰するのは全ての生物を平等に照らす太陽。聖なる光を教えとした騎士団。全能神の加護を受けた者が勇者ならば、太陽の女神の加護を受けた者たちのみが所属できるそれこそが聖教騎士団だ。

 サリナが興味津々に騎士の方へ視線を向けているとその中から一人、気取った騎士がこちらに近づいてきた。長い金髪を一つにまとめた美形の、明らかなステレオタイプだ。

 そしてサリナに異様なほど顔を近づけ、その口を開いた。

「ねえ、君、俺と遊びに行かない?」

――おいおい、高貴な騎士様がナンパかよ。

 しかもアルマと歳はほとんど変わらなそうだ。顔は整っているし、こんな無様な行為を自信持ってやることができるのも頷ける。サリナも顔立ちはいい方なので、ナンパされるのも仕方ないだろう。しかしアルマが連れでいるということが、この騎士の不運であった。

――まあ面白そうだし、少し様子を見てみるか。

「ん? 君はこの子の彼氏かな? 冴えないねえ、こんな暗い服着てさ。しかも何? 鎧も着てないし杖も持ってない。聖教都市のことを舐めてるのかな? こんな奴放っておいてどこか遊びに行こうよ」

 その騎士はサリナの手を取り、歩き出そうとする。

「いたっ」

 ――あーあ。サリナにとって昨日の息抜きかなんかになるんだったら、放っておいてもいいかなって思ったんだけどねえ。

 その騎士がもう一度サリナのことを強く引っ張ろうとした瞬間、アルマは左手でその騎士の手を篭手越しに掴み、|岩豚人《ロックトロール》の身体強化と、グローブに付与しておいた強化の装備魔法で騎士の篭手に過剰な圧を掛ける。

 篭手がひしゃげ、腕に篭手の鉄片を突き刺さるうえに、弱まることのない圧力によって骨がみしみしと音を立てる。

 騎士は痛みに顔を歪め、サリナの腕を掴んでいた手をパッと放した。しかし腕にはかなりの圧がかかっているはずだが、そんなに音を上げないのは流石聖騎士と言ったところであろうか。

「黙っていたけど、少しお前は調子に乗りすぎた。騎士様なんだからこの程度覚悟して手を出したんだよな?」

 フードから除く、|紅魔眼《マジックセンス》を発現した目で睨まれた騎士は、蛇に睨まれた蛙のようにその動きを止める。

 そして|紅魔眼《マジックセンス》を発現しているからこそ聞こえる、この騎士の鼓動はどんどんと早くなっていっていた。

 手応えがあった。恐らくこの男の腕が折れた手応えであろう。

「おい、ランスぅ。なぁにやってんだ? またトラブルかよ」
「君のその不真面目さにはもう飽き飽きですね」

 先ほどの騎士の残りの二人、ダンディで筋骨隆々の男と、物静かな女性がこちらに歩いてくる。

 一人は背丈ほどの剣を背負っており、鎧の上からでもわかるその筋肉は砲丸を肩に抱えているようだ。
 女性の方は黒く長い髪を流しており、男二人と比べたら武装は貧弱だ。恐らく魔術に長けているタイプなのだろう。

「悪いな、お二人さん。こいつ目を離すとすぐこんなんなんだよ」
「あなたは帰ったらお説教ですね、ランス」

 その二人が現れてから、アルマは手の力を緩め、身体強化と魔法を解除した。

「あんたたちは?」
「自己紹介がまだだったな。俺はバロン、聖教騎士団先行部隊隊長のバロンだ」
「私は聖教騎士団先行部隊副隊長のリーシュです。で、その悪ガキが下っ端のランスです」

 手を離すと、ランスは飛び退くようにその場を離れ、二人に並んだ。アルマが掴んでいた右手からはぽたぽたと血が流れ出ている。

「騎士様ならちゃんと下っ端の教育をしておけよ? 今日の夜は便所掃除が良いんじゃないのか?」
「お前!」

 ランスは垂れ下がった右腕とは、反対の左腕で剣を引き抜こうとするが、それをリーシュという女性に止められる。

 バロンとリーシュはちゃんとわかる人間のようなので、若干ではあるが警戒心を解いた。

「ちっ。ここに来たばかりだから、あんまり問題は起こしたくなかったんだかなあ。まあこちらもムキになっちまって悪かったな」
「ランスと同じくらいなのに、ランスより全然できそうな返事じゃねえか。わかる奴で良かったよ。がっはっは!」

 バロンはその整えられた髭にくっついたように見える口を大きく開け、大声で笑った。

「隊長ぉ……」

 アルマはランスを無視して、話を進める。

「聖騎士ってのは案外大したこと無いんだな。あれか? 噂が噂を呼んで大げさになっちまったやつか?」

 ランスがきつくアルマのことを睨んでいるが、リーシュの拘束があるため、行動できない。サリナも焦ってアルマの腕を揺すり、アルマのことを制止させようとしている。

「がっはっは。ガキは威勢が良くてなんぼだ! まあさっきは気を抜いていたからなあ。戦いになればそいつだって十分強いんだぜ? 舐めてもらっちゃあ困る」
「ふん、どうかな。俺が少し腕を捻っただけで、赤ん坊の泣き顔みたいな表情をしていたけどな。なあヘタレくん?」

 ランスは案の定それに載せられて、リーシュの拘束を振りほどき、食いかかってくる。

「おい! 言わせておけば調子に乗りやがって! そこまで言うなら実力を見せてみろ! 明日俺たちの訓練場に来るんだ。そこで決闘を申し込む!」
「おいランス、いいのか?」
「こいつに痛い目を合わせてやらなければ俺の腹の虫がおさまらない!」

 激昂だった。左手を強く握りしめ、アルマの顔を睨みつけながら絶叫した。

「ああ、いいぜランス。一瞬で殺してやるよ!」

 アルマは笑い、フードを脱ぐ。両目を|紅魔眼《マジックセンス》に変化させた状態で、不敵に笑うその顔は悪魔であった。そう、それこそ背後に黒い大きな存在がアルマの背後で揺らめいているようだった。

「ちょいちょい、坊主。悪いなうちの決闘は、よそのとは少しやり方が違うんだ」
「どういうことだ?」
「うちのところでは殺しは厳禁なんだよ」
「は? そんなところまで甘々か?」
「いやいや、魔人と対抗するために建てられた年で同族で殺し合ってどうすんだってことだよ」
「それもそうだな。じゃあどうするんだ」
「うちの決闘はその日の自分を相手に明け渡すんだ」
「は?」
「決闘を行う際は自分の最大の装備を、そして負けた場合はそれを自分の全財産を含めて勝者に渡す」
「そうか、その程度か」
「それ以外だともう一つ。観客を集めて金を懸けるんだ。勝った方には相手に掛けられた金額の十パーセントの金が貰える」
「金が稼げるのはいいな」
「だろう? それじゃあまた明日の十時に聖教騎士団の訓練場で、な」

 そう言って、恐らく聖教騎士団の本部に戻ろうとしたバロンに改めて声を掛ける。

「ああ。あ、そうだバロン」
「どうした?」

 声を掛けると振り向きかけていたバロンは、足を止めてくれる。

「ここに来るまでに盗賊を討伐したんだが、それを換金出来たりはしないか?」
「おお、そう言うことなら、訓練場もついでに本部まで案内してやるよ!」
「そうしてくれるとありがたい」

 バロンたちの後ろに付き、アルマとサリナはその案内に従った。

 本部はかなり大きく、やはり背はそれほど高くはなかった。やはり戦争に向け、作られたような形をしており、見た目は魔法学園の城のような形ではなく、まさに要塞であった。そして都市を覆う不可侵結界とは別に本部だけを覆う、結界が二重に張られていた。

「すごいな、これ全部対魔人用の設備か?」
「そうだ、すげえだろ? 中にはな――」
「隊長、それは」
「そうだ、そうだ。これは言っちゃあいけねえんだったわ。あ、そうそうあそこで換金が行えるぞ。俺らはもう行くからな」
「そうか、ありがとうな、世話になった」

 バロンがそう言うと、ランスは去り際に「逃げるんじゃねえぞ?」とアルマに言い放った。

 アルマは無視して、クロノスの懐から盗賊のアイデンを取り出した。

「そのアイデンを見せていただいても?」

 リーシュが、アルマに声を掛け、そのアイデンを受け取った。盗賊の血に塗れ、その表面すらも見えないアイデンをリーシュは水魔法でその血を洗い流して確認する。

「ガゼのアイデン……。これはランスにとって大事な一戦になるでしょうね」

 リーシュはそれだけ言うと、その場を去っていく。

「わけわからねえやつ……」



「ランス、腕の傷は大丈夫ですか?」

 リーシュが建前の心配を口に出して、ランスの腕を確認する。ランスは篭手を荒く外して応える。

「こいつのせいで、傷が塞がらなかったのでね。これでもう大丈夫ですよ」

 ランスは綺麗な右腕をリーシュに見せる。

「それなら良かったですね」
「そんな他人事みたいにぃ。もう少し心配してくれたっていいじゃないですか!」
「うるさいですよ、ランス。あなたはこれからお説教です」

 ランスは残念そうに、リーシュの後ろについて行った。



 サリナはアルマの袖を掴み、不安そうな表情を浮かべる。

「アル、大丈夫……?」
「俺が負けると思ってるのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど――」
「大丈夫だよ。いざとなればサイレンスも一緒に戦えるわけだからな」
「そうだよね」

 そのままアルマはサリナを連れ、換金所の元へ歩いていく。

「賞金首のアイデンを持ってきたんだけど」
「換金ですね、それではまずあなたのアイデンの掲示をお願いします」

 アルマは言われる通り、アイデンをその女性に手渡す。

「アルマ=レイヴンさんね。それでは討伐した賞金首のアイデンの提出をお願いします」

 アルマは何枚かのアイデンを差し出した。そのうちの一つ、丁度リーシュが見たアイデンを見て受付の女性は驚いた様子を見せる。

「ガゼのアイデン!?」
「そいつはなんかすごい奴だったのか?」
「いや、先日も聖教騎士団の何人かがガゼの討伐に向かったのですが、悉く失敗して帰還したのです。残忍な性格に器用に斧と剣を扱うその術は何人もの聖騎士の命を奪っていたのです。それがやっと討伐されたとは……」

 アルマは記憶を辿る限り、それほどまで強い盗賊ではなかったことを思い出し、明日の決闘はすぐに片がついてしまうかもしれないと思う。

「全部で二十八万リルですね。はい、どうぞ」
「どうも」

 アルマは金の入った袋を受け取り、サリナにそれを見せた。

「よし、サリナ今日はいい宿に泊まれるぞ」
「すごい、すごい! やったね!」

 サリナの言う通り本当にすごい宿であった。手編みで繊細な絨毯に、鮮やかな色彩を持つ木材で組まれた家具たち。そして食事。もちろん多く支払ったのもそうだが、それには寧ろ見合わないレベルの高さの豪華な食事が振舞われた。

 牛や豚などの高級家畜を使った料理が一番二人の目を奪っていっただろう。

 色々あった一日目であったが、こうして二人は聖教都市での一日目を終えた。



「さあ張った張った! ランスは1.1倍、アルマは3倍だよ!」

 賭け事を管理している男は二人のオッズを大声で叫び、無数の騎士や冒険者たちの金を回収し、その掛け金に応じたチケットを配布している。

「おい、お前はどうする?」
「たかが冒険者が聖騎士に勝てるわけねえだろ! 俺はランスに賭けるに決まってる!」

 1.1倍だとしても、確実に金が稼げるとされるランスは多くの注目の的であった。しかしアルマに賭ける者もいた。

「俺はアルマで一発当てるんだ! 頼むぞぉ」

 手を合わせ祈る男を見て、他の者たちはその者をバカだと嘲笑う。

「よくも知らねえ冒険者なんかになけなしの金を懸けるなんてなあ。ありゃ破産して野垂れ死にだな」

 朝、既に訓練場の周りには多くのギャンブラーが集まっていた。ギャンブラーたちにとって、今日は稼げる日であるのだろう。愚かな冒険者が人間種最強の部隊の一人と戦おうとしているのだから。

 だからこそ自分の持ち得る金のほとんどをランスに賭ける者だっていた。

「くっくっく、俺のせいで何人の奴等が破産するんだろうなあ」
「アル、悪い笑い方になってるよ」
「ただでさえ、色んな奴らが破産するってのに、俺たちはぼろ儲けできるんだぜ?」
「それはどういうこと?」
「昨日稼いだだろ? サリナ、お前はそれを全部俺に賭けてくれ。もちろん賞金は山分けだ。お前が嫌ならいいんだ。だが確実な二十万と不確定だが限りなく確定に近い六十万どっちがいい?」
「六十万!? そんな決まってるよねえ」

 サリナはとても女の子がするようなものではない笑顔を浮かべ、アルマから金の入った袋を受け取った。

「絶対、勝ってきてね?」
「誰に言ってるんだって話だ」



 アルマとサリナは宿を出て、指定された場所、聖騎士の訓練場へと向かった。訓練場の意替え室に行くと、バロンとフル装備のランスがいた。

「よお、坊主。昨日はちゃんと眠れたか?」
「ああ、盗賊のバウンティである程度金を稼げたからな。一番いい宿に泊まれたよ」
「それはよかった。温室育ちで下手に眠れなかったから負けたなんて言い訳されたら困るからな」

 ランスが割り込み、皮肉を述べる。それをアルマは適当に受け流す。

「さっさと終わらせて金くれや。な、騎士様? どうせ命もかかってないお遊びなんだからさ」

 それについてランスは何も応えず、控室の奥まで歩いて行ってしまった。

「だんまりだとさ、バロン隊長殿?」
「がっはっは、まあ騎士は剣で語れって教えているからな!」
「そうか。あ、そうだ。俺がやっている間、サリナはどこにいたらいい?」
「嬢ちゃんは俺らと一緒に関係者席で試合を見せてやるから、安心してやってきな」
「それは助かるよ。よかったなサリナ」
「あ、うん。よろしくお願いします!」

 バロンはリーシュにサリナを関係者席へ案内させる。そしてバロンは控室のベンチに座り込んだ。

「あと少ししたら、試合の審判がこちらに入ってくる。そいつが全部説明してくれるから待ってたらいい」
「ああ」

 伝えることは伝えたはずだが、バロンはそこから離れようとしない。

「どうした?」
「あいつは普段へらへらしているが、戦いになれば本当に強いぞ。あとから聞いたがあいつのいる部隊が討伐できなかったガゼをお前が一人で討伐しちまった話も聞いてる。だけどあれでもあいつは騎士道を心に持った男だ。そのお前の冷めた心に何か感じるものがあるだろう。覚悟しろよ?」

 とにやりと笑いながらバロンは告げる

「わかってるさ。聖教騎士の強さは知ってる。だけど俺が勝つ。完膚なきまでに」

――俺は冒険者を全員殺すのが目的だから。



「時間は無制限。魔法、近接その他なんでもありだ。だが殺すのは厳禁だ。こちらがまずいと判断した場合は何人かの人間が止めに入るからそれだけは理解しておくように」
「へいへい」
「わかりました」
「それではランスは無効、アルマは向こうから言ってくれ。道なりに進めば会場に出られる」

 その道を進むと、先に外の明かりが見える。

 器型に造られた訓練場は、斜面になっている部分をほぼ全て観客席にしており、その観客席には溢れんばかりの人が入っていた。

「うっわすげえ人。このうち何人がランスに賭けたんだろうなあ」

 アルマは観客席を眺め、笑いながらそんなことを呟いた。

 ランスに対しては盛大な歓声が沸き上がるが、アルマに対しては酷いブーイングが沸き上がった。しかしそのブーイングの中にもちらほらと歓声があった。その者たちこそ、この自分の運命を分ける日に正しい選択した者たちだ。

 アルマはランスと共に指定されたラインまで歩き、審判の元についた。

「今から聖教騎士ランス対冒険者アルマの疑似決闘を始める」
「訂正しておくが俺は冒険者じゃない。次そう呼んだら、お前を殺すぞ?」

 審判は顔を歪め、謝罪を述べた。

「それでは気を取り直して、聖教騎士ランス対アルマ! 試合開始!」

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:09:43

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