自らの獣を飼い慣らせ

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前話


本編

 ランスは左手に持つ剣で、アルマのことを差すと、凄まじい気迫を持って走り出す。

 アルマは対照的に、手をひらひらと振り、お遊びに全力を出しているランスを小ばかにした態度でランスを待ち構える。と言っても、その勢いやバロンの一言から少しは気を入れようと思い、ゆっくりとランスに向かって歩き出した。

 周りからはわからないだろうが、|蜥蜴人《リザードマン》の身体強化で耐性を上げ、|紅魔眼《マジックセンス》を使い、魔力の流れを読むことで、現状持てる最大防御への布石を打っている。

 するとだんだんとランスの中で魔力が沸き上がっているのを捉えたアルマは攻撃に備え、腰を低く据える。

 ランスは雄たけびを上げながら大きく振り上げた剣をアルマに叩き落とす。

――そんな胴をがら空きにしていいのかよ。

 瞬時に、鎌鼬の身体強化に変え、速度を以て、ランスの胴体に蹴りを食らわせる。いくら最初は守備に徹しようと思っていたとしても、そんな隙を見せられたら攻撃しないわけにはいかない。

 それこそランスは浮かれているのだろう。この大勢の観客がいるこの試合で、派手な技を放てば後々自らが注目されるかもしれないなどと。
 しかしアルマにとって戦いは魅せるものではなく、生きるための術だった。そんなアルマが大技を避け、観客を喜ばせるようなことをするはずがなく、大技は打たせる前に潰す。

 そしてアルマの異様な速さの蹴りは、ほとんどダメージを与えることはないが、ランスの大振りを止めるには充分であった。

 しかしアルマの行った蹴りによって大きな隙を作らされたランスにただ後ろに引かせるようなことはせず、蹴りの後、地面についた足を軸にして、ランスの脇腹を右腕ごと蹴り飛ばす。

 身体強化は|岩豚人《ロックトロール》。鎧に足がぶつかると同時に、ランスの体を宙に浮かせるほど吹き飛ばした。

 だがランスも聖教騎士団、人間種最強の軍隊として修練を積んでいただけある。宙に浮きながらも、盾や手足による空気抵抗を上手く扱い、受け身を取ったらしく、蹴り飛ばされながらもそのまま魔法の詠唱を始める。

「|光よ、悪しき者に日の罰を《ソレイユ・シャルフ・バレット》」

 ランスの周りに明るい橙の矢が発現し、その矢は凄まじい速さを以てアルマへ迫る。アルマはそれを、背負っていた|紅砲剣《エクスタシス》の魔弾によって撃ち落とし、落とし損ねた矢は側転で華麗に躱す。

 アルマの戦闘スタイルはカウンターがメインではない。アルマが攻撃に転じたら、相手には絶対に攻撃を許さない連撃、それこそがアルマの真価が発揮される時。

 ベイルから譲り受けた竜の爪の装備魔法であるはずの咆哮は、未だ誰にも発現することが出来なかったらしいが、|大喰手《ビックイーター》によって多くの魔物の魔法を扱ってきたアルマにとって、それを発現することはいとも容易い。

そして竜の爪に魔力を流し込むと同時に、自らの喉――声帯――に魔力を集中させ、自らの雄たけびと共に竜の咆哮を放つ。

 空気が歪んで見えるほどの烈風の圧力によって膝を付きそうになるランスは、それを耐える。

 しかしアルマはその直後に魔弾を無数に撃つことで二段構えを取る。ランスは耐えてしまった。

 アルマの魔力の加減もあるだろうが、一息で山を崩すという伝説の残っている竜の咆哮を耐えたランスの精神力は素晴らしいが、耐えたが故にランスには多くの魔弾が降り注ぐこととなる。
 最初の数発は盾で防ぐことができたが、弾の多さに対応しきれずに、足や腕、盾では覆いきれない部分に攻撃を許してしまう。

 当たった弾は鎧の隙間から体内に入りこんでいき、凄まじい痛みを及ぼす。

 アルマが放ったのは魔弾、闇属性の攻撃だ。闇は性質上そのものを黒に取り込み、中から破壊する。

 人間種の扱えない闇という力、感じたことのない痛みに、ランスは苦しみ先ほどとは違い膝をつく。しかしかなりの魔弾を食らっていたが膝をつく程度とは流石聖騎士と言ったところだろうか。ランスは大きな隙を作る前に魔法の詠唱に入る。

「お前に遠距離はあまり適さないようだな。|力無き我に一時の力を《サン・ハルト・ウェア》」

 |紅魔眼《マジックセンス》で大量の魔力がランスの肉体を強化したのを確認したアルマは、鎌鼬の身体強化から、|白狼《ホワイトウルフ》の身体強化に変える。

 肉体を強化する血属性の魔法は速さを疎かにする場合が多い。そのため筋力と速さを均等に上昇させる|白狼《ホワイトウルフ》を、アルマは選んだ。

 そして剣で突っ込んでくるランスを見て受け流す体制を取る。黒鋼のトレンチナイフを持ち、剣を受け流していく。先ほどとは違いランスの一太刀、一太刀は重いものになっているが、|白狼《ホワイトウルフ》の力を以てすれば余裕だ。

 剣と短剣が打ち合う金属音は会場中に響き渡り、アルマとランスの間で凄まじい火花を散らした。

 だがアルマは黒鋼のトレンチナイフ一本だった。両手で剣を持つランスに対し、片手で黒鋼のトレンチナイフで受けるアルマの実力はランスを焦らせ、観客すらもランスの劣勢を察し始めていた。

 ランスもこの攻撃が無意味だと悟ったらしく、背負っていた盾でアルマのことを押し出し、距離をどうにか取ろうとする。

「|悪しき者をこの地から追放せよ《エスパース・グラン・パーセル》」

 ランスから放たれた半透明の球体のようなものが、凄まじい勢いでアルマの腹部に直撃した瞬間、アルマを背後に強く弾き飛ばした。

「あれ? 痛みはねえな」

 痛みは伴わない魔法であったが、アルマの周りには結界が張られている。

「結界でも用途は逆か」

 アルマがその結界に触れると、厚い空気に吹き飛ばされるように手が弾かれた。ランスはアルマが動けないことを良いことに強力な魔法の詠唱を始める。

「|光よ、不浄なものに太陽の導きを《ソレイユ・グラン・バレット》」

 ランスが手を前に突き出すと、目の前に黄金の魔方陣が宙に浮かび上がり、図太い黄金の光の柱がアルマに向かって放たれた。

 逃げようとしても結界によって逃げられないため、服の下に|蜥蜴人《リザードマン》を発現させ、攻撃に備える。そして当たる直前に、結界が解除され魔法がアルマに直撃する。

 皮膚を焼き焦がすような痛みと同時に、内臓を潰されるような痛みが体中に駆け巡った。そのためか、口から血を吐き出し、アルマはそのまま倦怠感を全て吐き出す。

「おえっ――――」

 アルマは激痛を耐えながら、なんとか自己再生を始める。その姿をみたランスは、にやりと笑いゆっくりとアルマの元へ歩を進める。

 闇と表裏一体である光も同様、物体を内側から壊す。それをまざまざと身に受けたアルマはどうしようもなく、ランスの接近を許してしまった。と、観客は思っただろうが、それはアルマの作戦だ。

「聖騎士を、俺たちを侮辱した結果がこれだ。たかが冒険者が調子に乗りやがって、殺しはしなくとも腕や足が二度と動かせないようにしてやる」

 と、ランスが剣を振り上げた瞬間。

「敵がまだ生きているのに気を抜いて話してちゃあだめじゃん?」

 アルマは足を振り抜き、ランスの足元を薙ぎ払った。透かさず、アルマは飛び上がり、腰に付けていた二本のダガーをランスに向かって投げつける。

「それに、俺は冒険者じゃねえ」

 ダガーの柄にはワイヤーが括りつけられており、ダガーの華麗な操作によってランスの体にワイヤーを巻きつけ、身動きを封じる。

 身をよじったり、ワイヤーを掴んだりしてなんとか脱出しようとするが、そのワイヤーは思ったよりも強靭であり、簡単に拘束は解けない。

「元は高級な弓の弦になるはずだったものだ。それを手間暇かけて編んでその形にしたからちょっとやそっとじゃ断ち切れないぜ? お遊びなんだしさ、降参してくれよ。私は負け犬ですぅってさ」

 アルマの言葉にランスはこめかみに青筋を浮かばせながら叫んだ。

「軽口をたたくのもいい加減にしろ!」
「じゃあ仕方ねえな」

 アルマは腰につけているワイヤーの伸縮を司る機構の仕掛けを作動させ、審判の介入を促す。

 ワイヤーには油が塗られており、その機構からは火花が散り、瞬時にワイヤーが燃え始めた。だんだんとランスへと火の手が近づいていく。しかしランスはそれでも降参しようとはしない。

「くそっ! こんな奴に奥の手を使う羽目になるとは!」

 ランスは手に持っていた剣を地面に落とした。

「|太陽の女神よ、貴女の御業を今ここに《ソレイユ・ハルト・パーセル》」

 聖教騎士団が強いと言われる由縁はこの魔法であった。太陽の女神の加護を受けることで扱えるようになる太陽の神授魔法、その真髄|太陽の騎士《ソルブースト》。

 ランスの身体が光り輝くとともに、ワイヤーからの拘束を逃れる。弾けるように眩い光が終息すると、そこには黄金の盾と剣を手にしたランスが立っていた。

 |紅魔眼《マジックセンス》で見る限り、あの武具は|魔法強化《エンチャント》されたものではなく、完全に魔力で生成された物であった。

「あれだけの魔力を安定させて、発現するなんてぶっとんだ魔法だな……」

 しかも増強術より圧倒的に、ランスの体内魔力量は上昇しているらしく、その強化具合も測り知れなかった。

 通常|紅魔眼《マジックセンス》で魔力を可視化した場合、体内に流れている魔力の流れを見ることで多少の動きを予知するのだが、魔力が爆発的に増えた結果、体内から体外へ異常なほどの魔力が流れ出ているため、この状況では使い物にならないだろう。

 しかしその魔力も無駄になるわけではなく、それをそのまま身体に纏うことで個人レベルの結界を纏っているような形になっている。

 時間が経てば経つほど強くなる魔法。早く片を付けなければならないと思ったアルマであったが、興味が先行し、少し様子を見ることにする。

「覚悟しろ」

 ランスはアルマの方向へ走り出す。その速さは異常。強化された脚力だけでなく、魔力の放出を推進力として利用することで、凄まじい移動速度を体現している。

 そのまま一瞬でアルマの元へと近づき、その黄金の剣を振るった。咄嗟に竜の爪でそれを受け止めようとしたが手ごたえがない。

 黄金の剣はするりと竜の爪をすり抜け、アルマの体を切り裂いた。もしこれが魔力で生成された光の剣でなければ、上半身と下半身を分断され、アルマは死を受け入れざるを得なかっただろう。

 アルマは光の力によって壊れた体を庇いながらなんとかランスに蹴りを食らわせる。

 何か動きをとるごとに腹の中で内臓が暴れているような痛みが走った。自分がなぜこの痛みに耐えられているのかが理解できなかったが、何とか自己再生を発現し、後退しながら復活を待つが、それをランスが待ってくれるはずもなく、強力な光を込めたシールドバッシュを放ってくる。

 重すぎる一撃は、先ほどの攻撃と比べて倍なんて数値では表せない程の威力であった。だからと言っても負けが決まったわけではない。自己再生があればどんな重症であっても五秒もかからず治してしまうのだから。

 だが治った直後にはランスの猛攻が襲い来る。今はただランスが隙を見せるまで、壊れて治して、を繰り返すことしかできなかった。

「これで止めだ。くたばれ、冒険者! |黄金紅炎《ソルプロミネンス》!」

 ランスの持つ黄金の剣に、生成された光の魔力がみるみるうちに吸収されていく。それと同時に異常なほど膨張した黄金の剣は、ランスの背丈よりも大きく、この一撃を食らえば死は免れないだろう。しかし現状死んでいない今、審判のストップは掛からない。

 だが、必殺技を叫ぶなんて大きな隙を見逃すわけにはいかない。ここしかない。

 アルマはグローブを外し、最大出力の風刃を地面に放ち、砂塵を巻き上げ、自分の姿を観客から見えないようにした後、|蜥蜴人《リザードマン》の|鱗鎧《スケイルメイル》を全身に発現する。

――耐えてくれよ……。

 砂塵を振り払い、黄金の波動がアルマを包んでいく。しかしその黄金の光のお陰でアルマの姿は周りからは見えない。

 そして黄金の刃と|鱗鎧《スケイルメイル》とが衝突する。

 腕の骨がズタズタに砕けていくのがわかる。|鱗鎧《スケイルメイル》と共に自己再生を行いながらでないと、この腕は本当にはじけ飛んでいただろう。
 そして観客に|大喰手《ビックイーター》がばれない様、その光が失われる前に、|鱗鎧《スケイルメイル》を解き、グローブを左腕に嵌める。

 |呪い《まじない》を掛けてもらったローブもぼろぼろになってしまったが、アルマは確かに立っていた。

 服だけボロボロになったアルマと、未だ黄金の武具を手に持つランス。会場の熱気は最高潮であった。

 |鱗鎧《スケイルメイル》の反射を持ってしても、傷を与えることのできない防御力。それはその名の通り、化け物であり、騎士という守護者の堅さを強く物語っていた。

「もう一度言うが俺は冒険者じゃねえ。一度言ってもわからねえ奴には、わからせてやるしかねえよ。だがなぁ、相手がそんな化け物みてえな技を使ってくるなんて聞いてなかったよ。化け物対人間じゃあ分が悪いよなあ! 俺もとっておき見せてやるよ!」

 会場がざわつき始める。それこそ聖騎士ならだれもが知っているはずの奥義をそこらの旅人が防いで見せた。それだけでも異常であるのだが、あれほどまでに凄まじい戦いを繰り広げたというのに、二人は未だ無傷の体を誇っていた。

 アルマの場合は自己再生がある。それならランスは――。

「滅多にない催しだろう? 人間の守護者が一旅人にぼこぼこにされる姿を見せてやろうぜ? 俺をあんな|冒険者《クズ》共と一緒にした報いを受けろ」

 アルマは姿勢を低く、それも手を地面に付く。その姿はまるでサイレンスが敵を目の前にしたような姿勢であった。

 多くの魔物の魔力が入り混じる独立魔力を心臓の位置へと持ってきて、叫ぶ。

「……五十パーセントだな……。独立魔力解放!」

 これこそ|大喰手《ビックイーター》最後の能力、リミッターの掛けられた独立魔力を解放し、自分の身体を魔物に貸し与える技。

 今までは独立魔力のごく少数を左手のみで開放することで、部位の発現や固有魔法の発現を行っていたが、今は違う。

 自分の持つ魔力の内、半分を魔物の魔力、独立魔力に置き換えて身体の運用を行う。

 五十パーセントが人間の身体を留めておくのに限界の数値であった。もしそれを百パーセント解放しようものなら、その時それはアルマの人間としての死を表すであろう。

 だとしても意識は魔物に蝕まれ始める。視界が赤く、黒く染まっていく。

【グルラァウ! 俺ともっと遊ぼうぜぇ!】

 叫びが咆哮として、会場内に響き渡る。その咆哮により観客の大半が気絶し、その場に倒れこむ。

 犬歯がサイレンスの牙のように発達し始め、体中の骨々がミシミシと音を立て始める。魔物としての骨格の生成に対し、人間としてのアルマの破壊。それが体内で同時に起こっている音であった。

 重しになる武具は全て地面に落とす。その体を武器として構える姿はまるで人型の魔物の様であろう。

 そしてアルマはランスに向かって、飛び出す。ランスとは違って魔力による推進は行っていない、ただの脚力による飛び込み。だというのにランスより速い。

 地面を蹴るごとに、地面は酷く抉れていく。しかしアルマ自身そんなに強く地面を蹴っているつもりは無かった。だというのに一歩目に抉り出した地面は、後方に飛散し、訓練場の壁を薄っすらと破壊している。

 その勢いのまま左腕でランスに殴りかかる。ランスは光の盾によるシールドバッシュでその拳を防ごうとするが、アルマの左腕は黄金の、魔力の盾を瞬時に吸収し、ランスの腕をがら空きしたうえで砕いた。

 腕だけでは足りず、アルマの左腕はランスの右あばらをも砕きにかかる。

 ランスは何とかその拳を防ごうと魔力を操作するが、悉くその魔力はアルマの左腕に吸い込まれていく。それどころか吸収されたはずの黄金の光はアルマの左腕から発され、光の内部破壊も同時に体内に感じるランスは、痛みに耐え兼ねその足の力を緩めてしまう。

 その瞬間、ランスはゴムまりのように地面を転がりそうになるが、アルマはそれを許さない。

 受け身を取れていないため無防備な反対面、ランスの左側面へ、瞬時に回り込み、アルマは顔面へ膝蹴りを叩き込んむ。殴打と膝蹴りの勢いがランスの体内で同時に存在した瞬間、奇妙な形にランスの身体はひしゃげ、そのまま宙へと舞った。

 圧倒。受け取るはずの防具はべこべこに凹み、太陽の紋章は血に塗れ、酷い有様であった。

 アルマは心の底から湧き上がってくるランスに対する殺意をなんとか抑えこむ。

 魔物は人と対峙した時こんな気持ちを抱えて戦っているのだろうか。

 人と魔がせめぎ合うアルマの中で、先ほどの攻撃すらも人間の良心が働き手加減したほどであった。

 もし手加減していなければ、ランスの身体が引き千切れるほどの殴打を行っていたかもしれない。

 だとしてもかなりの重症であろう。しかしランスは立ち上がる。その回復力たるや、恐らくアルマの自己再生に似た能力を有しているのだろうが、アルマの自己再生程性能は良くないらしく、右腕は文字通り皮一枚で繋がっているだけであった。

 しかし薄っすらと感じさせる抵抗に、儚さがアルマの魔の殺意を増長させる。

【まだだよなぁ! まだやれるよなぁ! ま゛た゛や゛レ゛ル゛ヨ゛ナ゛ア゛ア゛ア゛!】

 ランスは後ろへ飛び退き、魔法を唱えようとするが、アルマはそれを許さない。

【さセネえよ!】

 地面を抉り、取り出した岩をランスの口に押し込むように、顔面に叩き込む。そのまま回し蹴りを顔面に放ち、その岩を砕く。

 そしてもう一度殴打を顔面に叩き込もうとした瞬間、審判を含め数人の聖騎士が止めに入り、その殴打を結界魔法によって抑え込んだ。

 しかし結界魔法は攻撃を食らう程、体内の魔力を持っていかれる魔法であるため、結界を放った聖騎士は魔力を一瞬で使い果たし、気絶し、その場に倒れこんだ。

 アルマは透かさず独立魔力を抑え込み、解放状態を封じる。それと同時異様なほどの疲労感が体を遅り、アルマはそのまま後ろに倒れこんだ。

「はは、疲れた疲れた」

 審判はランスの容態を確認した後、宣言する。

「勝者! アルマ=レイヴン!」

『うおおおおおおおおおおおお!』

 数は少ないが、心の底からの雄たけびと、アルマのことを見直した聖騎士たちの声が聞こえてきたため、ファンサービスとしてアルマは鉛のように思い腕を上げ、サムズアップをする。

 アルマはそのまま、睡魔に襲われるがまま目を閉じ、眠り込んだ。



 アルマが目を覚ましたのは数時間後のことであった。ランスはアルマの予想通り異常な回復力を誇り、既に治療は終わっているらしい。

 しかしアルマの方は体を動かせない程の筋肉痛が襲っており、ベッドから起き上がれそうになかった。

「あ、アル! 目が覚めたんだね! すごいよ、本当に勝っちゃうんだもん! みてみてこんなにお金貰えたよ!」

 サリナは嬉しそうに大金の入った袋をアルマに見せつける。

「あ、ああ」

 アルマは一度水を口に含んでから話始める。

「お前、俺が勝つって信用してなかったのかよ?」
「まあそんなこともないけど、今の姿を見る限り、負けた方みたいだね」

 サリナは陽気に笑った。独立魔力の影響であろう。あれほど身体から異様な音がしていたのだから、どこか変なところがあるかもしれない。しかし現状動けないのだから仕方のないことであった。

「それは否定しないが、お前の持ってるそれが俺を勝者だっていう証拠だろ?」
「そうだね! あ、そういえばバロンさんが呼んでたよ? 立てそう?」
「いやあちょっとダメそうだわ。呼んできてもらっても良いか?」
「あーわかった。ちょっと待っててね」

 サリナはそう言うと、小走りで病室を飛び出していった。それから数分もしないうちにバロン、リーシュ、ランスが部屋に入ってきた。

「おお! 坊主! やっぱり太陽の力は効くだろ?」

 大声で笑いながらそう言うバロンだったが、アルマは|大喰手《ビックイーター》のことがバレるのも面倒臭いので、その言葉に賛同しておくことにした。

「まあな。効いたどころじゃねえよ。この有様だ」

 そう言うとバロンは真剣な表情になり、重い声音で言う。

「だが勝ちは勝ちだ。なぁ? ランス」

 とても暗い表情をしたランスがバロンとリーシュの間から現れ、その手に持っていた聖騎士の装備を差し出してくる。

「これが今日の俺の装備していたものだ……」
「なあ、それについてなんだけどさあ」

 ランスを遮って話すアルマに対し応えたのはバロンだった。

「なんだ?」
「俺、これ要らないんだけど。受け取らないっていう手はないの?」
「受け取らない?」

 太陽の女神の加護という、限られた者しか受けることのない加護を受けた者しか手に入れることのできない装備を拒否するというアルマに驚くバロンとランス。アルマは続ける。

「ああ、見た通り、そんなごつい鎧を着る趣味はないし、売るにもねえ。ただでさえ評判悪くなってるだろうに、これ以上も下げてもね? で、その分の金を貰おうかなとも思ったんだけど、金はもうこんなにあるんだよ。これ以上あったら本来の目的を果たすのに、邪魔になっちまう」

 バロンは尋ねる。

「本来の目的?」
「ああ、言ってなかったっけ? 俺たち|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》の攻略が目的なんだよ」
「ケルベロスの攻略!?」

 ランスが驚いた表情で口を挟む。

「がっはっは。自信に満ち溢れた坊主だと思っていたが、そんなことが目的でここに来ていたとはな! しかしあの実力があれば若しくは……」
「まあ見込みは一応あるしな。|魔物部屋《モンスターハウス》の初踏破者だし、俺」
「なにっ? 初の|魔物部屋《モンスターハウス》ってどこで現れたっけ?」
「リヴァですよ、隊長」
「そうだ! |海竜の迷宮《ダンジョンリヴァイアサン》……。アルマ? アルマ=レイヴンってあのレイヴンか!?」
「ああ、あのレイヴンだよ。今は筋肉痛でベッドの上で口しか動かせないのが、あのレイヴンだよ」

 アルマは情けなさそうにそう呟く。

「通りで……」

 バロンは納得したように頷いた後、すぐ口を開いた。

「なら、攻略にこいつを連れて行くってのはどうだ?」

 バロンはランスの背中を押して、差し出すような形でアルマの前に出した。

「なっ。隊長! 何言ってるんですか!?」
「坊主、お前は完全にアタッカー型だよな? さっき嬢ちゃんにも聞いたんだが、嬢ちゃんもアタッカー型なんだろ? ランスは一応、腐っても騎士だ。一通りの回復魔法を使えるし、便利だと思うぞ?」

 慌てふためくランスを差し置いて、アルマはにやりと笑う。

「やっぱ、わかってんな。おっさん。いいだろ? サリナ」
「え、あ! うん! 良いと思う!」

 サリナは、少し恥ずかしそうに頬を赤めながらそう応える。

「なんで赤くなってんの?」
「い、いや別に!?」
「まあ、いいや。そいつが、自分のことぼこぼこにした奴とパーティを組めるってんなら疑似決闘の報酬はそれでいいぜ?」
「だとよ! ランス、これで決定だな!」
「ま、待ってくださいよ。隊長!」

 未だごねようとするランスの肩に手を置き、リーシュが口を開く。

「君は自分がまだ強いと奢っているでしょう? それについて先の決闘は良い教訓になったと思ったんですけどね。もし君がまだ強くなりたいと言うのなら、絶対に彼らに同行するべきです。と言っても、それしか道はないでしょう?」
「わ、わかりましたよ! 行けばいいんでしょ? 行けば!」

 ランスは向き直り、アルマに向かって手を差し出した。

「よ、よろしく頼む」

「あ、わりぃ。今、手動かせないんだわ」

 サリナはくすくすと笑いながら「さっき自分で水飲んでたくせに」と呟き、病室は笑いに包まれた。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:09:55

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