荒くれ者の街、傭兵都市ドルエム

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前話


本編

 武器を二振り手に入れたアルマは、その気分の高揚抑えきれず、本来の目的を忘れベイルと楽し気に会話を続けていた。そのことを思い出し、アルマはベイルに尋ねる。
「そうだ。武具の他に、木材調達のための斧と、鎧が欲しいんだが」
「最初はそういう依頼だったもんな。それならまずその魔晶石を全部換金してきちまった方がいいんじゃないか? 今無一文だろう?」
 ベイルに言われた通り、アルマは一度、|門《ゲート》の隣にある魔晶石の換金所に向かい、鎌鼬約二百匹相当の魔晶石を差し出した。その魔晶石は総額四万リルへと昇った。一匹当たり平均二〇〇リル。各魔物の魔力が結晶化したものであるため、全て金額が一定になるわけではない。だとしても少年一人が生きていく分には十分すぎる量の金を手に入れられた。肉は多く備蓄してあるし、飲める水もあることを考えると、装備を揃えるのに足りないということはないだろう。
 アルマはその金を手に、もう一度ベイルの店へと戻る。
「おかえり。いくらくらいになった?」
「四万リルだな。簡単な斧と、鎧、あとダガーを何本か。他には適当な調味料やら調理器具やら生活に必要なものを買うだけだからなるべく鎧は良いものを見繕ってほしいんだが」
「そう。その話で考えていたんだが軽鎧の一つとっても、多分お前にとっちゃ重いものが多いはずだ。だから鎧もここで適当なもので金を抑えといて、メインストリートの並びにある魔服店に向かってみてはどうだろう」
「魔服店?」
「ああ。特殊な素材で造った衣服に|呪い《まじない》をかけて戦闘の助けをしてくれる服を売っている店があるんだ」
「いいのか? 自分の店の商品を売り込まなくて」
「いやいや既に鎌鼬の鎌二〇〇本で十分すぎるものを貰ってるし、坊主一人の買い物で経営が傾くほど困っちゃいねえよ」
 がっはっはと笑うベイルと店内を見てそれもそうかと納得する。
「じゃあ適当な鎧をそろえてくれないか?」
「おう! 任せとけ!」
 と店内を見てベイルは茶色っぽい鎧と簡素な斧、ダガーを二本ほど持ってきてカウンターに並べた。
「これは平原のちょっとしたところで出る獣型の魔物の毛皮を鞣して作った鎧だ。皮の鎧っちゃあ少し心許なく感じるだろうが、鎌鼬程度の斬撃は防ぎきってくれるし、何より軽い。魔服は恐らく鎧の上からマントみたいに羽織るような形になるだろうから、肩とかの邪魔になるだろうプロテクターは外しておく。あとは木こり用の斧に、ダガーを二本。総額で三〇〇〇リルだが、どうだろう」
 全くもって不満はなかったアルマはほぼ即答で答える。
「それで頼む。寧ろ少なすぎると心配になるくらいだ」
「客が店の経営について心配なんてしなくていいんだよ。取り敢えず魔服を買いに行って来いよ! 荷物はここで預かっておくからさ!」
「ああ! ありがとう!」
 と笑顔で伝えたアルマを見て、ベイルは嬉しそうに微笑む。それこそベイルは客に対して厳格な男であった、はずだった。十歳ほどの少年が金も持たずに、狩った獲物の肉や素材を売りに来たなんてことは普通に考えておかしい話だ。親は? 親がいなくてもそれに準ずる何かは? と。お節介焼きでもないベイルはアルマに対する心配というより、自らのうちから湧き上がる好奇心によって、彼を自らの店へと招き入れた。
 優しくしているわけではない。好奇心がわくわくが止まらないのだ。この小さな男の成長が。だからこそベイルは彼の背中をそっと押した。
――お前の人生はまだまだこれからだ。



 ベイルの店を後にしたアルマは案内された通り、魔服店へと足を運んだ。この店が凄い。赤や青や紫の艶やかな布で装飾された店の装飾は、サーカステントを彷彿させる。そのうえで高級であるはずの硝子がふんだんに使われたショーウィンドウが並び、店の入り口らしきところに近づくと、これまた硝子張りの扉が自動でスライドして開閉したのだ。
 自動扉に驚きながら、アルマはその店へと足を踏み入れる。
「いらっしゃぁい」
 と店の奥から艶めかしい声が聞こえてくる。ふんわりと香る店内の香も相まって、その声の主は絶対に美人であるとアルマは確信した。
 そして案の定、店の奥から現れた女性はなんだか色気のある美人であった。深くスリットが入り、胸元が大きく開いたきらきらとしたドレスで身を包んだ女性の唇には色の濃い紅が差されている。
 色気と言ったが、正直に言おう。エロいが正しい。近づけば近づくほど、脳の芯がふわふわとするような甘い香りが強くなる。たれ目でありながらしっかりとしたアイラインが入った目元は、優しさと厳しさを兼ね備えている。
 妖艶。オブラートに包んだうえで一番正しい表現であろうか。
「あら、小さなお客様だこと。お店を間違えてしまったのね?」
 店の雰囲気と彼女の空気に呑まれていたアルマはその言葉を否定する。
「いや。魔服を買いに来たんだ」
「じゃあ小さな冒険者さんね?」
「それも違って――」
 と、これまでにあったことを掻い摘みつつ、ベイルにこの店を紹介されたということを伝えた。

「そう、あの大男からの紹介なのね? あの人が人を認めること自体珍しいのに」
 彼女は笑いながら、アルマを店の中へ招き入れた。
「じゃあ改めまして、いらっしゃいませ。私はこの魔服店を営む呪術師のエイミーよ」
「アルマだ。よろしく。呪術師ってのには初めて会ったな」
 エイミーはまた妖艶に微笑み続ける。
「そう、嬉しいわ。じゃあ商品のことを話す前に少し|呪い《まじない》と魔服について説明するわね」

 エイミー曰く、呪術と言うのは魔法で行う短期的で強力な身体強化や補正と違い、長期的で多少の身体強化や補正を行う術のことを指すらしい。大本こそ魔法と同じものであるが、その特異的な使用法から呪術という名が与えられていると。
 そしてエイミーはその呪術を自らの手で作り上げた服に施すことで、長期的な身体強化と、それに準ずる防具を冒険者に提供しているらしい。
 糸に魔力を込めるところから始めることもあって、金槌を打ち付けて精錬する金属の鎧や、切り張りして作る皮の鎧ではうまくいかなかった経験があり、魔法使いなどを対象とした魔服を商品として取り扱っていると。

「というようにうちはどちらかというと戦士より魔法使いに向けたお店なのだけれどアルマ君はそれで大丈夫なの?」
「ああ。ベイルの店で板金鎧とかを一度装備させてもらったんだけど、やっぱりこの身体じゃあうまく使いこなせなくて」
「うふふ、なんだか自分が本当は身体の大きな大人みたいな言い方ね」
「いやまあ、魔法を使えたためしがないから、仕方ないんだけどさ」
 アルマは意外にも魔法を今まで使ったことがなかった。もちろん小屋に置いてあった本によって知識や、使うための手順を知ってはいたし、魔力も|紅魔眼《マジックセンス》によって察知、感応することだってできるが、魔法だけはどこか歯止めが利かされているように、上手く扱うことが出来なかった。
「そう魔法が上手くないのね。それで得物は?」
「一応短剣が二振り」
 と言って、アルマは腰に差した銀の短剣と、先ほどベイルから貰った黒鋼のトレンチナイフを見せた。
「直剣よりも相手に近い、超近接戦闘ね……。それだとただの魔服じゃすぐ壊れちゃうから丈夫なものにしないと。スタイルは戦士だけど、防具は斥候や射手寄りね」
 エイミーは店に並んだ魔服を、真剣な眼差しで考えながら選ぶが、何も取らずに戻ってくる。
「お金はいくらくらいあるの?」
「全部で三万とちょっとくらいだな。街でまだいくつか買い物をしたいから三万くらいで見繕ってもらえると有難いんだけど」
「あら、結構あるじゃない。それなら、一から作ってあげるわ。生憎魔法使いに向けて作ったものばかりで、アルマ君に合いそうなのがないのよ」
「いいの!?」
「うふふ、子供っぽいところもあるのね。もちろんオーダーメイドも承ってるからね」
 と、話していると店の扉が開かれる。その男は、エイミーの話を聞いている限り、魔服なんて使わないような大男であった。ベイルとは違った筋肉のつき方をしているが、これも凄まじい訓練の賜物だとわかる。
「よう! エイミー!」
「あらぁバンディ。いらっしゃい? 今日も装備しないのに買いに来てくれたの?」
 エイミーに鼻の下を伸ばしているところを見ると、エイミー目当てだということがわかる。バンディと呼ばれた男はアルマを一瞥したものの、無視してエイミーと話を続ける。
「もし暇だったらさ、今からお茶でもしに行かないか?」
 腰に手を回そうとしたバンディの手を華麗に避けたエイミーは潤んだ瞳で囁くように告げる。
「生憎今日はオーダーが入っちゃったから閉店なの。あ、そうだアルマ君。もしよかったら出来るまで数日かかるし、この人と仲良くなってみたら?」
 アルマは面倒臭いことに巻き込んでくれるなと思いつつも、仕方なしに二人の元へ歩く。
「おいエイミーどういうことだよ。誰だこのガキ」
「初めまして。ガキじゃなくてアルマって言うんだけど、おじさんは?」
「今日初めて来てくれたお客さんなの。こう見てもちゃんとした戦士なのよ?」
「は? このガキんちょが?」
 ガキとしか呼ばないこの男に少し腹が立ってきたアルマは皮肉を言う。
「なんだ。華やかな街には見合ってない人みたいだけど、街に入るくらいの金は稼げるみたいだね?」
「あらあら。私はちょっと奥でアルマ君の服の材料とかを見繕ってくるからね」
 逃げたな。とアルマは思った。
「おうおう。言わせておけばガキ。何が戦士だ。そんな棒切れみたいな腕で」
 バンディはぶっとい腕を見せつけ、これで殴ってやろうかと言わんばかりに拳を握りしめる。
「十一の子供に何熱くなってんだよ。大人げない人だな。おじさんも戦士みたいだけど、そんなかっかしてる戦士はたかが知れてるんじゃないの?」
 下唇が小刻みに震えているところを見るとかなり利いていることがわかる。
「くそがきが!」
 と怒鳴り、手を挙げそうになったバンディの首元にアルマは黒鋼のトレンチナイフを突きつける。その速さたるや。バンディは驚き、瞳孔を開いたまま、ごくりと喉を鳴らした。
「これは鎌鼬から少ししか取れない黒鋼で作った短剣だ。刃から持ち手まで、全部黒鋼だけで出来てる。離れ森の鎌鼬を二百匹。それで作った武器だ」
 少なからずベイルが驚いていたから、言ったものの、本当の戦士にとってこの数が凄いか大したことないのか、アルマには判断が付けられない。もし一か八かバンディを驚かせることが出来たらと思ったのだが。

 沈黙が流れる。

 バンディはふぅと一息つき、静かに握りしめた拳を解いた。
「十一でそれは凄いと思う。だが少なからず、それを自慢にできるほどこの世界は甘くねえ……」
 バンディの様子を見ると賭けには勝ったようだが、まだ油断はできなかった。
「何が言いたいんだ?」
「俺の名前はバンディ。もしこの世界でもっと強く生きる力が欲しいなら着いてこい。ちょうど傭兵都市で受けた仕事が四人でしか行えない仕事でな。生憎俺のパーティは三人だ」
「一人探していた?」
「ああ。お前が戦力になるかはわからねえ。だが俺はお前の伸びに期待したい。どうだ?」
 アルマはバンディが差し伸べてきた手を見つめる。

 傭兵都市にはいつか向かおうと思っていた。だがまだ離れ森でやりたいこともある。まだ新天地を臨まずとも、離れ森で自らを成長させることはできる。この手を取ることは、自らの絶大な成長につながるが、大きなリスクも伴うだろう。
 その二つを天秤にかけた後、アルマはバンディの手を――

「よろしく。アルマ=レイヴンだ。生意気な態度を取ってごめんなさい」
 バンディの手を取り、下げたアルマの頭をバンディはわしゃわしゃと撫でた。
「子供のくせに、大人に果敢に立ち向かうのも二重丸だ。よろしくなアルマ。俺はバンディ。エイミー! 騒がしくして悪かったな! ちょっと外でこいつと話してくるから、こいつの装備については任せたぞ!」
「はいはい。いってらっしゃい」
 アルマはエイミーにお辞儀をして、バンディの後を追った。



 それからバンディの奢りで食事を摂った。そこで多くの話を聞いた。だが一番大事なのはバンディのパーティが受けた依頼についてだ。大型の依頼であるために一定の準備期間が設けられ、バンディはその準備のために商業都市から傭兵都市に来ていたという。生憎冒険者ギルドとは仲が良くないパーティであるために、傭兵都市に多く存在する冒険者とは共に依頼することが出来ず、困っていたところでアルマを見つけたらしい。
「しっかし一人で二百匹もどうやって倒したんだよ」
 バンディの言葉にアルマは少し悩むが、これから仲間として生きていくのなら自らの能力は知ってもらっていた方がいいだろう。それにバンディはこの短時間でどういう人間かわからせてしまう程に馬鹿な男だった。話していて、それがこの男の良いところだともわかったのだが。
 そしてアルマはバンディに|紅魔眼《マジックセンス》を見せる。
「これを使うと魔力を可視化できるんだ。それで鎌鼬のよく出る居場所を探った」
「|固有特殊技能保持者《ユニークスキルホルダー》か。こりゃすんげえ当たりを引いたもんだ。これだけの手札があれば、何も言われないだろう」
「そうか。今のところまだ俺はパーティに認められたわけじゃないもんな」
「まあ残り二人のうち一人は、ちゃんとわかってくれると思うんだが、もう一人がだいぶ癖の強い奴でな」
「傭兵都市の人間だろ? 多少の覚悟はできてるさ」
「はっはっは。子供のくせに!」
 そう言いながらアルマは改めて、傭兵都市行きのキャラバン同行について詳細を聞いた。



 数日後、既にエイミーから隠密と敏捷の|呪い《まじない》がかけられた魔服を受け取ったアルマは商業都市の|門《ゲート》でバンディを待っていた。
 少しすると|門《ゲート》からバンディが現れ、挨拶を交わす。
「おう、おはよう。今日からよろしくな!」
「こちらこそ。だいぶわくわくしてる。初めての土地ってこともあるだろうが。大体離れ森から商業都市の間しか行動範囲がなかったからさ」
「そうかそうか! ん? 俺の得物が気になるか?」
 と、バンディの大きな背中のせいで見え隠れしていた武器が気になっていたアルマに気付いたバンディは肩から二本の剣を降ろす。
 大剣と直剣であった。
「なんか特徴的な取り合わせだな」
「ああ。まあ迷宮に潜ると大剣を振り回せることが出来ない通路とかが出てくるからな。まあ盗賊にでも遭遇したら見せてやるよ」
「それは楽しみだなあ」
 と、話しているとキャラバンの主人がバンディとアルマに話しかける。
「今日はよろしくお願いします」
「おう。こっちも傭兵都市まで運んでもらえるんだからありがたいことよ」
「いえいえそんな。一応馬車ではありますが、荷物も多いので五日ほどの道程になると思われます。食事などはこちらから支給させていただきますので、魔物や盗賊が出た際はよろしくお願いします」
「おーけー、おーけー。じゃあサッサと向かおうぜ」
 バンディは契約書を見た後に、馬車の荷台へと乗り込んだ。その乗り込んだ荷台からひょこっと顔を出し、アルマに早く乗るように促す。

 この大陸の南東部に存在する商業都市から少し北西へと進んだところにある傭兵都市への道は、その多くの往来から街道のようになっており、基本的に魔物の出現率は低かった。しかし商業都市から傭兵都市へ向かう荷車の商品は良いものが多く、盗賊からは狙われやすい鴨であった。だから基本的に商業都市から傭兵都市へと向かうキャラバンは大体傭兵を募集していた。

 五日のうち前半三日は難なく進むことが出来たのだが、案の定、四日目の午後。急に馬車が停車したことでバンディは察したらしかった。
「さあ仕事みたいだな。まあお前に実力を見せないのも変な話だし、見ててくれよ。戦士バンディの戦い方をさ」
「大丈夫なのか?」
「盗賊なんて、もう数えきれないさ」
 と、大剣と直剣を手にバンディは荷台から降りる。アルマもそれに続いて外へと出た。
 キャラバンの主人の視線の先には、小汚い恰好に斧や剣などを手にした四人の男がいた。別に全員に特徴的な何かがあるわけではないが、盗賊だとアルマにも分かった。
「四対一じゃないか」
「盗賊なんてそんなもんだぜ?」
 笑いながら言うバンディは剣を抜かずに一歩前に出る。そして大きな声で盗賊に尋ねる。

「今帰るなら見逃してやるぞ」
 盗賊の男が叫ぶ。
「馬鹿言うな! お前こそそのキャラバンを見捨てるなら見逃してやっても良いぞ!」
「そうかそうか。じゃあやろうじゃないか」
 バンディは大剣と直剣の鞘を外し、右手に大剣を、左手に直剣を持った。

――あの二種の二刀流だと? バランスが悪すぎる――

 バンディは大剣を肩に担ぐように持ち、直剣を前に出し、構える。それを見た盗賊たちは一斉にバンディに襲い掛かる。
 正面切ってきた盗賊の斧を、大剣を持っているとは思えないほどの体捌きで躱し、横っ腹に直剣を突き刺した。
「速い!」
 背後から迫る剣を持った盗賊を肩に担いだ大剣を、突き刺した直剣を引き抜く勢いで切り裂く。一度目に仕留めた男とまとめて。
「|魔法強化《エンチャント》……」
 男を一人切り裂いた後に、もう一人切り裂くなんて普通の大剣で出来るはずがない。そう思ったアルマは|紅魔眼《マジックセンス》でバンディの大剣を視る。するとその大剣にはバンディの手を通し魔力が供給されていたことがわかる。
 大剣と直剣の二刀流だけでなく、その二種の剣を|魔法強化《エンチャント》して戦う戦士。それがこのバンディであった。

 たった二度の攻撃で自らの周りを血の海に変えたバンディを目の前に二人の盗賊は怯んでいるが、一人の盗賊の雄叫びに感化され、二人同時に動き始める。次は一人一人ではなく、左右からの挟撃だ。重い大剣を持つバンディは疾く動くことはできない。
 そんなこと、百も承知なバンディはすっと、大剣から手を放し、盗賊の剣を直剣のみで受け止め、華麗な剣捌きによって自らの後方へ受け流す。
 激しく正面衝突した盗賊たちは、動きを怯ませ、一瞬の隙が出来る。それを見逃さず、バンディは直剣を投げ捨て、足元に転がった大剣を拾い上げ、二人毎一刀両断してしまった。
「うわえっぐ」
 そう声を漏らしたアルマはただの肉塊に変わった盗賊を憐れんでいるわけではない。なんら顔色一つ変えずに、盗賊の懐を漁り始めたバンディにそう声を漏らしたのだ。
 もちろんこれは当然な行為だ。殺した盗賊の武器や金銭は討伐した者が持っていって良い。だとしても腸を掻き分けながら金をまさぐる姿はとても滑稽に思えた。
 ああ、いつしか自分もああなってしまうのだろうか、と思いながらバンディの元へアルマは歩いていく。



「いやはやありがとうございました」
 とお辞儀をする主人から金を受け取ったバンディとアルマは傭兵都市の門番に入場料を支払い、傭兵都市の中へ歩を進める。
 商業都市とは違い、美しさではなく全てが利便性とあるもので作られた雰囲気の漂う街並みは、一言汚いと一蹴できた。手を付いた壁はなんだか油にまみれているような気がする手触りだし、道も一切舗装されていない土の道だ。なるべくこの都市にいる間は、雨は勘弁してもらいたい。
 一番違うのはやはり人だろう。商業都市の華やかな人たちとは違い、髭と筋肉と剣。女は、だいたい胸元の開いた服を着ているのを見る限り娼婦だろうか。
 風呂も入らず、食事もまともに取れずと言った|迷宮《ダンジョン》の環境で生活する冒険者や傭兵は明らかに男の数が多かった。
 だからなんだか薄っすら汗臭い気もする。そんな初めての都市に様々なリアクションをするアルマを笑いながらバンディはパーティメンバーがいる酒場へアルマを案内した。

「ここは俺たちの行きつけの店ダイスダイス。数ある酒場の中で良心と飯のうまさがとんとんくらいの良い店だ」
 建付けが悪くギーギーと不快な音を鳴らすスイングドアを抜け、バンディは手慣れた様子で迷うことなく歩を進めた。
「よう一週間ぶりじゃねえか」
 そうバンディが声を掛けた卓には二人の男が座っている。一人は動きの制限されない金属の胸当てを身に着け、髭を蓄えた無骨な男だった。足元にはこれがこいつの武器かと疑いたくなる鉄球が転がっている。
 もう一人は茶色い長髪を一つにまとめた優男風だ。近くに赤い宝玉のついた杖を立てかけているところを見ると、魔術師と言ったところだろうか。
「おうおうおう! バンディじゃねえか!」
 髭の男は立ち上がり、硬くバンディと腕を組み合わせた。
「ちゃんと準備は出来ましたか?」
 優男は微笑みながらバンディを優しく迎え入れた。アルマに気付いたのはこの男の方が先であった。
「そちらの少年は?」
「ああ、紹介が遅れたな。こいつはアルマ。俺が商業都市でスカウトした新たなパーティメンバーだ」
 優男は驚き、まじまじとアルマのことを見る。それは別に仕方ないのだが、問題なのは髭の男だった。
「おいおい! なにガキなんて連れてきてんだ! そんな奴が次の依頼についてこれるわけねえだろ!」
「いやまあそういうとは思ったんだが、経歴を聞く限りすげえんだよ! ってか四人パーティじゃなけりゃダメって言われてんのに、お前らはみつけられたのかよ!」
「ダメだ! この都市には使えそうなやつはいねえ!」
「私もダメでしたねえ。申し訳ありません」
「それじゃあ仕方ねえじゃねえか! こいつについては後で何で連れて来たかしっかり教えるからさぁ! 取り敢えず今日は朗らかに親睦会と行こうぜ!」
 バンディがそう言うと、髭の男より先に優男が立ち上がり、手を指し伸ばしてくる。
「ジンです。よろしくお願いしますね、アルマ君」
 アルマにすら敬語を使う彼を見て、アルマは、この男はそういう質なんだろうと察する。
「ちっ。ガルベスだ」
 ジンの握手には応えたが、不満そうに告げるガルベスには何も応じなかった。それをバンディとジンはくすくすと笑う。
 少なくともアルマは、仲良くなれそうだと思った。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:12:21

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