踊り子は地獄を纏い、踊る

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本編

 最終日、時は既に満ちていた。多くの都市部の生徒がアルマの拠点を取り囲み、今か今かと自らたちより弱いと勘違いしている地方部の生徒を殲滅する指示を待っている。なぜ、拠点の周りに待機できているのか。それはサリナやセラが手渡した地図を持っていたからであったが、そのようなことをアルマが想定していないわけがない。

 半分までの道は地図通りの罠だが、それより内側の罠は全てアルマが置き換えていた。それに気付かずに、都市部の生徒たちを集めたラガンは空に向かって攻撃開始の合図である火球を放った。

 それと同時に森のあらゆるところから雄叫びが聞こえ、皆ほぼ同時にアルマたちの拠点に向かって走って行った。

 しかしアルマの予想通り、その雄叫びはすぐに悲鳴や怒号へと変わっていく。
 捕虜がいなくなって慌てふためくアルマたちを想像していたのだろうか。捕虜の逆襲に恐れおののくアルマたちを想像していたのだろうか。それら全ての妄想は、その名の通り妄想として幻想として仲間たちの悲鳴とともに消えていく。

 それらの声を聞きながらアルマはただただ拠点の中で、強い者が拠点の壁を壊してくるのを待っていた。



「都市部の生徒が壁に到達したぞ!」

 西の壁を監視していた生徒がそう声を上げた。それに合わせ、アルマは座っていた椅子から立ち上がり声を上げる。

「敵が攻めてきた! 王国軍選抜試験だ! 兵士を選抜する試験だ! ここで戦争に勝てば絶対に王国軍は俺たちに注目する! 俺たちを弱いと決めつけ舐め切っている愚か者共に俺たちの強さを見せつけるとき、それは今だ! 勝利を!」

『勝利を!』

 人間種の兵士が戦いの前に行う鼓舞、宣言を行ったアルマの声に対し、何人もの生徒がそう声を上げた。

 西の壁にある程度の生徒を向かわせ、壁の突破に備えさせる。

「南の壁到達!」

 アルマやサリナの遊撃を担当する者たちは南の門へと走る。|紅魔眼《マジックセンス》を利用した聴覚で、南の足音が大きいことに気付いていたアルマは東と北に他の生徒を向かわせ、自らの手で南の多くの生徒を殲滅させるつもりであった。

 その走っている道中、ロードがアルマに話しかける。

「南からの数はかなりのものだが君の相手ではないだろう? 僕たちは北と西を支援する!」
「おう、気が利くじゃねえか。頼んだぞ」

 ロードはセラとナディアを連れ北へと走って行った。

「イギル! お前は俺と一緒に前だ! サリナ、お前はイギルの支援を」
「了解!」
「うん!」

 南の門を突破し、アルマたちに迫ってくる生徒を、アルマは近くの石を投げ飛ばすことで強制送還させる。筋力を増強させる身体強化を使って放っている石礫は綺麗に生徒の顔面を捉えている。

 その隙を見て別の生徒がアルマに斧を振りかぶるが、力量の差がありすぎる。その斧が振り下ろされる速度はとても遅く、アルマが避けているのではなく、斧がアルマを避けているような軌道を描く。斧を軽くよけ、アルマは右拳で殴打を叩き込む。

 都市部の生徒は弱かった。頑張るも何も気を張ることもなく、どんどんと強制転移されていく様は、それこそ無様の一言であった。

 それはアルマたちだけでなく、ロード達も同様で北が終われば、東へと着々と相手の数を減らしていった。もちろんこちらも多少の数を減らされはしたが手古摺るという結果にはならなかった。

「なんだぁ? 拍子抜けだな」

 アルマは拠点の中を歩き、気を抜こうとした瞬間、その視界の端で捉えた迫り来る最後の一人。恐らくこの隙を狙い身を潜めていたのだろう。手には弓が握られ、既に攻撃態勢に入っており、その矢先はイギルを狙っている。

「くそが! お前だけでも!」

 食事の皿を蹴飛ばされた恨みか、ラガンの矢は一直線にイギルの元へ迫る。

「ちっ! |大喰魔術《ビックマジック》|壱型! 速度疾風!」

 アルマは速度疾風を発現し、疾駆する。そして矢よりも早く走り、イギルの胸倉を掴み、自らの後ろに引っ張った。

「なっ! アルマ!」

 ラガンの放った矢はアルマの右腕を射抜き、アルマの身体を保護していた結界を消失させた。



 試験終了の鐘が鳴り響く。最後に強制送還されたのは、最後の失格者はアルマだった。クラスの生徒やエリス、アイロスはそれこそ言葉にならないと驚愕していたが、一番驚いていたのはアルマだった。イギルを庇って失格。そんな行動をとった自分に驚きを隠せなかった。

「アルマあ! てめえなんで俺何か助けたんだよ! お前はそうじゃないだろ! 違うだろうが!」

 イギルは目に涙を浮かべながらアルマに縋りつく。

「うるせえ。失格は失格だろうが。どうせ王国軍になんて入れなくなってな俺は生きていけるんだよ! それに対してお前はどうだ! 傭兵や冒険者なんかで生きていけるか! それを天秤にかけた結果だ!」
「そんなお前とか俺の事情の話をしてんじゃねえよ! 都市部の奴等は不正行為を行っていたんだよな!? 抗議だ。抗議してやる。教師陣に訴えて、お前の失格を取り消してもらう!」

 都市部の教師が集まっているところに歩いて行こうとするイギルを止めたのはロードだった。

「もうやめろ! 言いたくはないがアルマ、彼は敗者だ! 負けたんだよ。君が言っても彼が言ってもそれはどうしようもない負け惜しみだ。もし彼を大事に思っているなら、そんなことは寧ろするべきじゃない!」
「よくわかってるじゃねえか。そうだ、無駄に騒いで俺の経歴に傷をつけるような真似をするんじゃねえ」

 ロードに対し、耳打ちで感謝を述べるがやはり耐えきれない思いがあった。それこそアルマは今まで通りで生きていけるというのは事実だ。既に俗世を捨てていたアルマにとって、この場を切り捨てるのは簡単な話であるが、なにかがアルマを引き止めていた。

 それが耐えきれず、商業都市へ帰ろうとするアルマにエリスは引き止め、最後まで残るようにと伝えるがそれを聞こうとは思わなかった。

 |紅砲剣《エクスタシス》をサイレンスに変化させ、サイレンスに乗り帰ろうとするとサリナがローブの裾を掴む。

「アル……」
「慰めの言葉なんていらねえぞ」
「もしよかったらさ、最後まで見て行ってよ。私あれから強くなったんだよ? アルとランスの背中を追いかけて頑張ったんだ。私にはお父さんはいないけど、この試験はアルが見てくれてるって思って頑張ったの。もしよかったら、最後まで見て行ってよ……」

 サリナは断られると思っていたのだろう。その声は震え、涙をなんとか堪えて話しているのがわかるほどであった。ローブの裾を強く掴んでいる手を見てアルマはサイレンスを|紅砲剣《エクスタシス》に変化させ、サリナの前に立った。

「……わかったよ。帰らない」

 サリナは涙を浮かべながら、目一杯の笑顔で「ありがと」と言った。



 都市部の教頭が壇上に立ち、一次試験終了を告げる。

「五日間を生き残った諸君、おめでとう。生き残れなかった諸君は失格だが、最後まで友人を応援するように」

 教頭のその言葉はアルマを馬鹿にしているように聞こえ、アルマは静かに舌打ちをした。



 アルマはそんな形でそこここに降り積もる怒りや悔しさを腹に抑え込み、宿へ向かう。宿につくや否や装備を外し、瞑想をやり始めた。

 悔しいのは弱いと馬鹿にしていた都市部の生徒に負けたからで、サリナやランスと共に王国軍で戦えないからではない。仲間になりたいと言ったが、仲間を一度捨てたのも事実だ。これが現実だ。と、自分に言い聞かせ続けていた。



 自分がいつ眠っていたかも覚えていない。宿の部屋の扉を叩かれ、二次試験の説明があるから全員訓練場に集合しろと言われ、アルマは渋々ベッドから起き上がり、訓練場へと向かう。

 ついた先ではなにか都市部の教師陣と誰かが壇上近くで揉めているようであったが、ここからではよく見えない。しかし自分には関係ないとアルマはわざわざその状況を確認しようとはしなかった。

 すると一人の男が無理矢理、その集団から飛び出し、勢いよく壇上の上に立ち言った。その姿を見たアルマとサリナは目を見合わせる。

「これから王国軍選抜試験は王国軍精鋭部隊聖教騎士団が執り行う!」

 その壇上に立った者はなにを隠そう、聖教騎士団先行部隊隊長バロン=バルドであった。その男の一声はアルマたちの生徒には何ら影響は与えないだろう。しかし都市部の教師たちは動揺の色を隠せない。

 これから行われるはずだった二次試験にも不正は仕込まれていたかもしれない。それを未然に防ぐことになるのだから。それがどれだけ都市部の痛手になるのか。アルマにとっては見ものであろう。

 アルマは都市部の崩落に口角を上げながら、それと同時にバロンに対し強い感謝を抱いていた。

――あんたはまた俺を救ってくれるのか

 と。そして公平な状態であれば絶対にサリナがこの状況をひっくり返してくれると、サリナの肩を静かに抱き寄せる。それこそ自分の力をサリナに分けあたえるように。

「わかっている者は多いだろうが、この厳正な王国軍選抜試験において不正行為があった! そして、通常なら不正行為をした者は全員即刻失格とみなすところであるが、今回は規模が違う。都市部の生徒を都市部の教師のせいで全員失格とするのもおかしな話だ。そしてこちらで話し合った結果、地方部の生徒何人かの失格を取り消すということでバランスを取ることになった!」

 続けざまに言ったバロンの言葉にアルマの心拍数は見る見るうちに上がっていく。その隣ではサリナが嬉しそうにアルマの手を握りながらぴょんぴょんと跳ねていた。

「アル! アルぅ!」

 バロンの言葉にアルマは言葉を失い、サリナの呼びかけに答えることが出来ない。

「えーそれではここに宣言する! 王国軍選抜試験、第一次サバイバル試験四日目、及び最終日に失格となった地方部生徒の失格を取り消す!」

 アルマの周囲で湧き上がる歓声。アルマの肩を叩き、アルマの復帰を自分のことのように喜んでいる友がそこにはいた。

 アルマは周りの歓声よりも大きな声で叫ぶ。

「絶対だ! もう絶対に負けない! 何があろうとも命を賭して、バロン、あんたらのいる王国軍へ! 絶対だ!」

 この時、アルマは絶対的自信は捨てた。確かにランスとの、バロンとの、リーシュとの、サリナとの約束を果たすために。仲間との誓いを守るため。アルマは経歴のためではなく、そう誓い合った仲間のために戦い抜くと。

「エンターテイメントはここで終了だ! 本来ならこれから総当たりの二次試験を行うはずであったが、こういった問題の結果残った生徒は数多くいる。そのため数を減らすための二次試験を行う! 軍は必ず集団での行動が求められる。そこで行う試験は、共に戦いながら共に戦う者の力を引き出す試験。ペアバトル! ペアはこちらで組ませてもらった。そしてこちらの指定する相手の二対二の勝負を行ってもらい、それをこちらで判定、得点を付けさせてもらう。勝敗ではなく、どれだけ味方を尊重した戦いができるか。それがこの試験での最大の評価ポイントだ! そしてその結果上位十二名に最終試験への切符を渡そう。ルールは簡単に一つだけ。相手を殺すな、それだけだ」

 バロンの言葉に周囲の生徒たちはより一層ざわつき始める。

――聖教都市でやった疑似決闘をペアでやろうってことか。

 そしてその後、バロンの後ろから一人の若い兵が現れ、持っていた巻物を開き、それを読み始める。その巻物はどうやらペアの名簿表であったらしく、皆一気に静まり返り、自らのペアの名に期待する。



 アルマの名前が挙がったのは終盤であった。

「アルマ=レイヴン。サリナ=エースペア!」

 サリナは目を丸くして、アルマの方を見ている。それはアルマも同様であり、周りのクラスの生徒たちはこの二人をくっつけるとは、という表情で落胆していた。

「やった! やった! アルとペアだよ! これは負け無しだねぇ」

 気味悪く笑うサリナの後頭部を叩きながら、アルマも笑顔を隠すことが出来なかった。

「くっそ。良い演出するじゃねえか。絶対応えてやらねえと」



 試験まで多少の時間があると言われ、アルマとサリナは選手の待機場所で雑談をしていた。ちょうどその時、待機室の扉を開けて入ってきたのはバロンであり、アルマとサリナは再会を喜んだ。

「バロン!」
「おお! 坊主に嬢ちゃんじゃねえか! 準備はいいのか?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「私も大丈夫です!」
「がっはっは! 元気でいいこった! ところで坊主が失格しているとは思わなかったぞ!」

 バロンは笑いながらアルマの肩を叩く。

「俺も驚きだった。少し気を抜きすぎてたみたいだ。だからある意味助かったよ」

 アルマは手を差し伸ばし、バロンに握手を求める。するとガチャンと金属が嵌るような音が聞こえる。

「は?」

 アルマが視線を落とすと、アルマの腕には鈍色の手枷のような腕輪が付けられていた。

「な、なんだよこれ!」

 腕輪は外そうとしても外れず、身体強化を使い外そうとするが、魔力が安定しない。

「魔人を退ける力はこの試験には不向きだからなあ。ちょっとしたリミッターってことだよ。なあに簡単な話、闇の気がする魔法が使えないだけで、魔力が扱えなくなるわけじゃない。こんなおもちゃを付けていてもガキにだったら勝てるだろ?」

 バロンは小さく笑いながら、アルマを煽る。

「わかってるじゃねえか。強力な魔法なんかに頼らなくても勝ってやるよ!」
「がっはっは! その意気、その意気!」
「え、私のペアに何してくれてんの……?」

 合格を希望するサリナは圧倒的な戦力減少に冷え切った言葉でバロンに文句を言った。



「アルマ=レイヴン、サリナ=エースペア。カノ=ケイエス、レノ=ケイエス前へ!」

 初戦で、最終戦。聖教騎士たちが採点するという状況であるため、どれだけ勝てるかという形ではなく一回の戦いでどれだけ聖教騎士を唸らせる戦いをできるかという試験内容であった。といってもアルマは確実に勝ちを狙いに行く。

 そして相手は双子の兄妹ということであり、この試験で求められるコンビネーションは恐らく随一とも言えるかもしれないという評価であった。少し警戒をしながら戦闘をするという旨をサリナに伝え、アルマは指定されたラインまで歩を進める。

「両者準備は?」

 アルマは返事をせず、黒鋼のトレンチナイフを抜く。サリナは元気よく「はい!」と言う。カノとレノは完全に同時に「はい、できています」と言い、アルマの鳥肌を誘った。

「それでは、はじめ!」

 アルマはバック宙で、サリナは弾かれた様に後方へ下がり、アルマは|紅魔眼《マジックセンス》の発現、サリナは炎弾の詠唱を行う。

「|火を以て、迸る閃光を体現せん《フラム・ラピッド・ショック》」

 左手の人差し指と中指を立て、そこから炎を放ち妹レノを狙うが、兄カノの剣に弾かれる。

「サリナ! その調子だ!」
「うん!」

 アルマはカノの装備を確認した直後、速度疾風で懐へ飛び込む。直剣であれば懐に入ってしまうことで、その真価を抑え込むことが出来る。

 そして長年短剣を使い続けてきたアルマにとってこの距離は、アルマの得意とする距離であった。

 アルマはカノの足を踏み、後退するという手を無くしたうえで、拳鍔による殴打を顔面に行った。

 しかしその拳がカノの顔に当たる寸前に、カノの脇の下から生えるように突き出てきた鋭利な槍のような物がアルマに襲い掛かる。

 アルマはそれを咄嗟によけ、その槍によって繰り出される乱撃を交わしていく。

 その直後、アルマの顔すれすれから炎弾が飛び出し、その槍のようなものを弾く。

 それを持っていたレノは体勢を崩すのだが、カノがレノの手を引き、華麗に踊りを舞うようにその体勢を整えて見せる。

「おいおい、なんだよあの息の合ったプレーは」

 レノは杖の先を凍らせ、氷の刃を発現させることであの槍のような物を作りだしていたようだ。そしてそれと同じようにもう一度詠唱をし、カノの剣の刃とは反対側に氷の刃を発現させ、カノの直剣を両刃剣へと変化させた。

 その演出に観客席からは歓声が上がる。

「行くよ、レノ」
「わかったわ、カノ」

 カノが氷を纏う剣を棍棒を振り回すように回転させると、突如猛吹雪が発現し、アルマたちを包み込む。

「くっそ、目も開けられねえ!」

 そしてその吹雪の中をレノが駆け、その吹雪の中で詠唱を行い氷の礫を発現した。

「サリナ! 俺の後ろに!」
「わかった!」

 アルマはサリナを守りながら|紅砲剣《エクスタシス》の魔弾によって礫を打ち落としていく。撃ち漏らしたものは全て紅砲剣により切り捨てる。

「この程度で殺れると思ったか!?」
「甘い」
「なにっ!?」

 突如現れた背後からの気配。吹雪の轟音のせいで足音が聞こえていなかったうえに、氷の礫によって気を取られていた。忍び寄るカノがサリナを狙い直剣を振りかぶる。

 アルマは透かさず、サリナとカノの間に割って入り、バロンに付けられた腕輪でそれを受け止めた。

「バロン様様か!?」

 同時に竜の爪による咆哮でカノをそのまま後ろへ弾き飛ばした。カノはレノの上に覆い被さる形で地面に転げる。その結果カノの集中力が切れたようで、吹雪もだんだんと晴れていく。

「サリナ、大丈夫か!?」
「大丈夫! ごめん、何もできなかった!」
「仕方ねえ。まあ相手も派手な演出をするみたいだし、客は良いパフォーマンスを求めてるんじゃないの?」

 アルマはサリナにそう言いながら近づいた。

「じゃあもう早速お披露目ってことでいいの?」

 サリナはにやりと笑いながらアルマの隣に立つ。そしてアルマはカノとレノに向かって言う。

「これから、面白いものをお見せしよう。人の手には負えない二人の鬼による炎劇を!」



 サリナはその言葉と同時に烈火の杖を地面に置く。アルマもサリナ同様装備を地面に置き、身体を軽くする。

「武器を置くなんて馬鹿だね、レノ」
「そうね、カノ」
「やってしまおうか、レノ」
「そうしましょう、カノ」

 兄妹は気味悪くそう告げると、先ほどと同様に氷の刃を手にアルマたちの方へ走る。武器を置く、それが戦意喪失だと勘違いしている兄弟の方がよっぽどの馬鹿だということに気付かずに。



「|地獄の入り口を業火によって塞ぐ狗の力を我に《フラム・グラン・ウェア・ケルベロス》!」
「|地獄の入り口を業火によって塞ぐ狗の力を我に《フラム・グラン・ウェア・ケルベロス》!」

 アルマとサリナは同時に、同じ詠唱文を叫ぶ。都市部、地方部、生徒、教師、それらすべてが息を飲み、二人の変化に目を見張る。

 アルマとサリナ、それぞれが炎に包まれ、その炎が弾け現れたのは、炎と一体化したような姿を持った二人であった。

 サリナの固有魔法となったこの魔法をアルマが|大喰手《ビックイーター》によって複製したということであり、結果アルマもこの|三首狗《ケルベロス》の固有魔法、三位一体の獲得者となった。



「同じ魔法!?」
「あんな魔法知らないぞ!」
「凄い魔力の膨れ上がり方だ……」

 周囲の生徒からは数々の驚きの声が上がり、会場の熱がどんどんと上昇していく。これがアルマの仕組んだエンターテイメント。炎鬼の炎劇。

「さあ、サリナ踊ろうか」
「うん」

 アルマたちに向かって走ってくるカノは先ほど同様剣を振るい、吹雪を巻き起こす。それに対しサリナはアルマと手をつなぎ、一度踊りのスピンのようにくるりと回転して見せるすると二人を中心として、炎の竜巻が巻き起こり、カノの吹雪を簡単に消し去ってしまう。

 ただでさえ、強力な三位一体の炎強化に加え、アルマの巧みな魔力操作によって体現される|同調現象《シンクロ》の魔法の強化。それによって小さな魔法すらも地を焼き尽す業火となる。

「この二人によって作り出される火焔を防げるものは生徒にはいない、絶対に」
「カノ!」

 炎に巻き込まれたカノとバトンタッチするようにレノが前に飛び出し、凄まじい速さの連撃を繰り出すが、それら全て三位一体の自動防御によって跳ね返され、傷を負うだけ。今の二人を纏っている膨大な魔力量を誇る炎を上回る攻撃でなければ、自動防御の餌食となる。

 しかし先ほどもアルマが述べたように、アルマの莫大な魔力量とサリナの炎にのみ特化した適性によって発生しているこの火焔を凌駕できるものはいない。この時点でカノとレノの敗北は決定していた。

「アル、終わらせよう」
「ああ」

 サリナはアルマの手を取り、息を整える。そして身体の内に眠る魔力を波動として、外に放出させる。その瞬間、二人を中心として炎の輪が訓練場に広がっていき、カノとレノを軽々と呑み込んでしまった。

 その姿を見た聖騎士は、これ以上の戦いは不毛と判断したらしく、試合を止め、ジャッジを行った。

「やめ! 勝者! アルマ、サリナペア!」

 三位一体からの圧倒的勝利は、都市部の生徒を含め、凄まじいエンターテイメントとして観衆の大絶賛を巻き起こした。

次話


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  • 最終更新:2020-04-16 01:20:30

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