踏破せよ、狼の迷宮

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「今日集まってもらったが、生憎こちらも冒険者の後始末で立て込んでていてな」

 そう言い始めたのはバロンだ。バロンの前には|強戦士達《モンスターズ》の面々全員が集合しており、バロンからの招集が突然だったこともあり、眠い目を擦りながら、集合してきた者もいた。

「だから今日は依頼じゃない。じゃあ何で呼んだかって話だが、俺たちもお前らを見てやる時間がないから、俺たちが指定した|迷宮《ダンジョン》を攻略してもらいたい。期限は二週間だ。もちろん十人で行動するのも実戦に備える上で大切だが、今回は二班にこちらで分けさせてもらった。班ごとに別の|迷宮《ダンジョン》攻略してもらう」

 そう言うとバロンではなく、リーシュが前に出て、手に持っていた紙を読み上げる。

「まず一班、攻略対象は|鷲の迷宮《ダンジョンイーグル》。班員はガルムラス=ライノ、サリナ=エース、セラ=リーデルト、ランス=バルド、ロード=アレクス。そして二班。攻略対象は|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》。班員は、アルマ=レイヴン、イギル=オルグレン、エルノ=バータ、ナディア=マルセウス、リリアーノ=エイル。先に攻略できなかった班は、一週間王都周辺の山岳地帯で生活してもらいます」

 攻略競争に負けた方は一週間サバイバル生活を余儀なくされるペナルティ付き。ただでさえ二週間|迷宮《ダンジョン》に潜りっぱなしになるかもしれないのにだ。

「指揮官が言った通り、期日は今日から十四日後。しっかり励むように。解散!」

 そう言われた|強戦士達《モンスターズ》の面々は、指示された班に分かれ、相談を始めた。



 アルマたちの班は勿論副隊長であるアルマに指示を仰ぐ。

「で、どうするのよ。踏破って、そんなの歴戦の冒険者が成し遂げる偉業じゃないの?」

 バロンたちの指示に不満を漏らしながら言うのはリリアーノだ。

「そうだね、リリィの言う通り、僕もこの任務は流石に重すぎる気がする。例えば、二週間までどこまでいけるか、それを測りたいとか」

 エルノが加わる。

「だが、それならどこの階層までいけるかって言わないか? 指揮官がそんな面倒臭い指示を出すとは思えない」

 近接戦闘を主としたイギルは、バロンに師事しているため、彼の性格を少なくとも理解していた。そして大雑把で力任せな戦法を取る彼が、そんな回りくどいことをいうとは思えない、ということだ。
 アルマはナディアの発言を期待するが、引っ込み思案な性格が邪魔して話すことはない。いつも通りのことであるのだが、少なくとも選抜試験で華麗に戦っていたところをみるに、アルマ自身彼女から何か引き出したいのも確かだった。
 しかしそれは強制から生まれないのも確かであるため、今はアルマが口を開く。

「踏破はできないことはない。それこそ俺やランス、ロードみたいに実戦慣れしてるか魔物に特効を持つものがいればな。基本的に|迷宮《ダンジョン》は二種類に分かれてる。別になにか複雑な違いがあるんじゃなくて|魔物部屋《モンスターハウス》があるかないかだ。|魔物部屋《モンスターハウス》ってのはそこにいる特定の魔物を倒さないと抜け出せない部屋。これを軽視した奴が所謂不帰者になるってわけだな。だけどバロンが挙げたウルフもイーグルもその|魔物部屋《モンスターハウス》のない比較的踏破が簡単な|迷宮《ダンジョン》だ。何より|迷宮主《ダンジョンマスター》は倒さなくても逃げてこれるからな」

 アルマの言葉に多少は肩の荷が下りたように感じる面々だが、もちろんだからといってこれが簡単な話ではないということは分かっているだろう。

「でも未踏破なことには変わりないでしょ? それをただ学園の選抜試験を受かっただけの私たちにやらせようとするの?」
「だけど僕たちを数週間訓練してくれたのも事実じゃない? 指揮官が僕たちの実力を見誤ってるとも思えないし」
「それもそうね。じゃあどうするの? 確実に未踏破の迷宮を踏破するにはさ。|三首狗の迷宮《ダンジョンケルベロス》を、|迷宮主《ダンジョンマスター》を倒さないにしても、最下層まで進んだあなたの意見は?」
「ああ。|迷宮《ダンジョン》の攻略には二種類方法があって、一つは行けるところを稼ぎつつ、食料などが無くなりそうになったら、必ず表層にある集落に戻って来る堅実な探索か、攻略のみを目的に、魔物すらも無視して最下層まで駆け抜ける方法」
「で! どっちがいいわけ!」
「二週間って期間と、ペナルティがサバイバルってことを考えると後者をやる前提だろうな。ちんたら地表に戻ってたら一月以上かかっちまう」
「じゃあ何を準備したらいいんだ? 食料と、水と、いくらかの着替え?」

 腑抜けた質問をするイギルを睨みながらアルマは補足する。

「恐らく二週間は風呂もないし、トイレもどこかに隠れながらって生活になるだろうから荷物は極力食料に振り切った方がいい。でも基本的に動きにくくなる重さはだめだ。あとわからないことがあったら何でも聞いてくれて構わないが、取り敢えず今日は解散にしよう。今日一日準備をして明日王都の|門《ゲート》集合だ」
「大丈夫? ランス達は今日にでも向かうつもりみたいだけど」
「ああ。結局|迷宮《ダンジョン》についてから一日は下見に使うはずだ。しかもウルフよりイーグルの方がいくまでの距離があるから、今日行けるところはそこまでじゃないから差もそんな開かないさ」
「そ。それならいいんだけど。私嫌だからね二週間もまともな生活できなくて、また一週間もサバイバル訓練なんて言われたら」
「それは俺に言っても仕方なくないか……?」



 アルマは|迷宮《ダンジョン》探索にあたって、まずリーシュの元を訪れた。

「あぁ、アルマどうしたの?」
「腕輪、嵌めてくれよ。次こそはあの力無しで勝って見せるからさ」
「いいや。嵌めない」
「なんでだよ! あの力を使うと仲間にもリスクが及ぶかもしれない」
「それなら使いこなして見せな。その魔物の能力を。腕輪については私が間違ってた。アルマはあの力で強くなるべきだ。もしそれがどんな結末を齎そうとも、胸を張れるように、自分でその力を完全に制御して見せなさい。私があなたに与える次の課題はこれよ」

 優しく笑うリーシュはそれだけ言うと、次の仕事があるようで、行ってしまった。

「この力で強くなれか……」

 アルマは何か思うことがあるようだが、それ以上は口に出さず、布を覆うことで隠している左手を見つめながらその拳を握りしめた。

 その後、アーデに頼み、一度黒岩の砦へと戻り、これから二週間から三週間王国軍の仕事でいなくなるということを伝えた。その際アーデも黒岩の砦に残り、砦の開拓を手伝うように命じた。姿を隠した状態でついてくると最初は言っていたが、ランスやロード、サリナの索敵能力を見ると、下手についてきた方が怪しまれると伝えたら、渋々ではあるが承諾してくれた。



 それからアルマは王都の兵士専用の物資供給所で二週間分の食料を受け取り、イギルの元を訪れた。

「よう」
「おう、アルマどうした?」
「特訓だ」
「は?」

 せかせかと準備していた手を留め、アルマの方を振り向いたイギルは不満そうだ。

「|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》だ。懐かしいだろう。俺とお前が初めてパーティ組んだ時の」
「ああ、そうだな。もうあれから半年以上も経つのか。それで同じところで特訓って?」
「もちろん他の奴らには強制できないようなことをやる。俺たちの荷物はこれだけだ」

 そう言って、アルマは先ほど貰ってきた二週間分の食料といくつかの薬を差し出す。

「これは?」
「二週間分の食料だ」
「でも俺たちって」
「ああ。今回俺たちは|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》で極限を目指す。食事も最低限で水分も魔晶石になる前の魔物の血液で賄う。あとこれが酔い止めと気付け薬と魔力ポーション。俺はあの魔人使徒との戦いで使った独立魔力解放を身体変化が起きない三十パーセントで発現し続け、お前は|感覚複製《イマジンハック》を踏破するまで発現し続ける」
「なっ。それじゃあ皆の足手纏いに」
「ならないようにするんだよ。魔力が消費されたら魔力ポーションで補うし、気分が悪くなったら酔い止めで治す。|特殊技能《スキル》に耐えきれずに気を失いそうになったら気付け薬か互いに殴ってでもして防ぐ」
「急に躍起になってどうしたんだ」

 イギルはその内容より、突然焦って強くなろうとするアルマに心配を抱いていた。それを察したアルマは一度落ち着き、なぜイギルにだけかを話し始める。

「お前は見込みがある。少なくとも初めて会った時、模擬戦で戦った時からそれは感じていた。敵の強さを測る目も、武器を扱う器量も、全体的な力も、戦略における頭も、褒められたもんじゃないが、お前の根性だけは確かだ。人が強くなるにおいて必要なのは適度な体力と底抜けの根性、それを上手く調節できる判断力だと俺は思ってる。どれだけ自分を苦しい環境に置くことができ、そこからどうやって這い上がるか、そしてその苦しい環境を不可能の一歩手前に設定できるか。お前には這い上がる力がある。だが苦しい環境を据える判断力はないようだ」

 そう言って、アルマはイギルの部屋にあったゴミ箱をひっくり返す。その中からは見るも無残に真っ赤に染まった包帯がごろごろと現れる。

「体を傷つけて強くなるのは、良くて手の平や足の裏の皮くらいだ。下手に怪我をする鍛錬は愚かとしか言えない」
「なんだよ。ばれてたのか」
「休暇中は知らなかったが、少なくともバロンの訓練で他の奴らと手合わせをしている時、だいたい体のどこかを庇う様に戦っていた。バロンは頭は良いし、部下思いだが、部下の言葉を信じすぎる。どうせなんてことないって嘘でもついてたんだろ?」
「まあなぁ。|強戦士達《モンスターズ》の男を見てみろよ。お前に、混血の騎士、勇者、勇者の末裔。ガルムだってもう自分の戦い方を見つけて、試験の時こそは俺が勝ったが、もう勝てなくなった。俺だけなんだよ弱いのは」
「だから強くなるための特訓だ。もちろん強さには日々の鍛錬ってのが大切だが、この世界で一番の強さを示すのは魔法か|特殊技能《スキル》だ。俺だって、昔の仲間と初めて手合わせしたときは全敗したんだ。その時は|大喰手《ビックイーター》も持ってなかったし、|紅魔眼《マジックセンス》だってうまく扱えてなかった。だが、最近になって|紅魔眼《マジックセンス》を使いこなせるようになって、|大喰手《ビックイーター》を手に入れたら、このざまだ。わかるか? お前が強くなる手っ取り早い方法は、持っている|特殊技能《スキル》の力を最大限に引き出すことだ。他の奴らはなんだかんだ使いこなしてるみたいだしな。|特殊技能《スキル》を使いこなせてないのは、俺とお前だけなわけだ」

 イギルはその話を真剣に聞いた。そしてそれを聞いたのち、自らのアイデンを出し、それをいくつか操作し始める。傍から見るに、恐らく|特殊技能《スキル》情報を見ているのだろう。

「|感覚複製《イマジンハック》は|固有特殊技能《ユニークスキル》だった。だから色々調べてみたけど、参考になるものはない。ただ唯一の情報でさえ、『自らの良く知る者の動きを複製する』とだけ」
「だから使うんだよ。二週間、寝るとき以外はひたすらに使って使って使い続ける。そうすると、アイデンに書いてない情報もわかってくる」
「そんなんやるしかねえじゃねえか」
「だろ? 俺は仲間と生きるために強くなることを決意したが、今回に至っては、死なない程度に……死ぬぞ」

 不敵に笑うアルマに対し、イギルも同じく不敵な笑みを浮かべる。

「ああ、かかってこい」



 次の日、アルマたちは王都の|門《ゲート》に集合し、|狼の迷宮《ダンジョンウルフ》を目指す。

「てかあんた達荷物少なすぎない?」
 アルマとイギルの明らかに少ない荷物を見て、リリィはそう呟いた。
「ああ。俺らはまだまともに自分の|特殊技能《スキル》を使いこなせてないからな。特訓がてら自分たちを追い込んでみようって話になったんだ」
「で? 武器と、明らかに少ない食料? それ以外はどうするの?」
「水は魔物の血から。寝床は穴を掘って。そして最大は迷宮に潜っている間|特殊技能《スキル》を使い続ける。前半二つは普通に昔やってたことだから問題はない。でももちろんお前らに迷惑はかけない」
「はぁ。どうせすぐ音を上げるんだから堂々と言うのやめておきなさいよ」
「まあまあ。もちろん体力なり、皆の命が危険に晒されたときは容赦なくその特訓は辞めてくれるんだよね?」
「辞めるも何も、最大を出し続けるんだ。命の危険に晒されるなんてねえだろ」

 イギルは確かな意思を以て、エルノに言った。

「なんだ。そこまで本気なら僕も誘ってくれたらよかったのに」

 飄々と笑っているエルノは、相も変わらず心の底から言っているのかわからない言葉を並べる。それに対して、アルマは率直に言う。

「簡単だ。水と寝床と食料を半分捨てて、自分が普段から使っている|特殊技能《スキル》を使い続ければいんだ。魔力ポーションと気付け薬は食料より持ってきてる」
「いや言った手前なんだけど、今回は遠慮しておこうかな」
「なんだよ」

 文句っぽく言ったイギルは、笑いながらエルノに絡みに行く。アルマはその元気なイギルの姿がいつまで続くかと、心の中でほくそ笑む。



 |狼の迷宮《ダンジョンウルフ》に着くと、アルマとイギルは約半年前に訪れた時のことを思い出す。あの時はアルマだけでなく、イギルすらも本当に王国軍に入るなんて思っていなかっただろう。

 だがそんな感傷に浸っている暇はない。今回は、食事も睡眠も全て|迷宮《ダンジョン》の中で行うので、周囲に形成されている集落の確認も無しに、|迷宮《ダンジョン》へ潜っていく。

 アルマとイギルは|迷宮《ダンジョン》へと降りていく階段に一歩目を出した瞬間に、自らの|特殊技能《スキル》を発現した。

「さあ、始めるか。|感覚複製《イマジンハック》!」

 イギルはもちろん最大の憧れ、アルマの感覚を複製し、自らの身体にアルマを投影する。



 なぜアルマがイギルに|特殊技能《スキル》の育成を指示したのか、それには大きな理由があった。
 数年振りに黒岩の砦を訪れ、バンディに再会し、ジンの顛末を聞き、かつての仲間を思い出したうえで、イギルとガルベスの共通点を自らの中で見出していた。死した仲間を今の仲間に投影して自らを慰めようというわけではない。
 バンディもガルベスもジンも実力はあったのだ。心無い試練が強かったはずの彼らを弱体させただけで、あの時の四人は最強を謳ってもおかしくはなかった。
 
 イギルは自らの実力に、別人の力や特性を上乗せできる。それは現状、速度特化のアルマ一人であるが、剛力のバロンであったり、柔軟性に富んだエルノを複製できるようになれば、ガルベスのオリジナルであった|覇気《オーラ》の魔法と似たような力を扱えるようになるということ。
 ガルベスの場合は三属性魔術にちなんだ、火、水、風の三種であったが、イギルの場合その制限がない。
 アルマの速度、バロンの剛力、エルノの柔軟性、ランスの正統剣術、ロードの聖剣、ガルムの変則的剣術など。例を挙げれば無限大の可能性を秘めている。
 そしてその最初の段階として、アルマの複製を完成させるとともに、エルノの複製を可能にする。それがこの特訓でのイギルの目標だった。



 イギルに合わせて、アルマも自らの|特殊技能《スキル》を発現する。身体が魔物に変質せず、精神を侵されることのない許容上限は40パーセント。

「独立魔力解放! 40パーセント!」

 生体魔力の内、四割が独立魔力へと入れ替わる。それによって体のあらゆる筋肉は魔物の魔力によって活性化されていき、ある種凄まじい勢いを持った成長痛のような痛みを身体に齎す。めきめき、みしみしと体内が変質していくが、独立魔力が体に馴染めば異様なほどの高揚感に包まれる。
 それは戦闘を強く欲するが、これは芽生え切っていない殺戮衝動だ。だからこそその衝動を人間の理性によって抑え込むことで、この状況を体に馴染ませる。

「さあ、いくか……」

 喉の奥で狼のように喉を鳴らすアルマの言葉と、一瞬で変化を起こした体に纏っていた魔力に、リリィは静かに尋ねる。

「それが、あの時魔人を一瞬で倒した……」
「ああ、そうだ。|特殊技能《スキル》によって吸収した魔物の魔力を身体に巡らせることで、劇的な身体能力上昇を図る技。もちろんあの時はその割合が多かったが故に自我を失ったが、今日はちゃんとリミット以下で扱ってるから大丈夫だ。だが、バロンかイレイスに伝えられただろうが、お前らは俺が暴走したときに俺を殺す使命もあるんだろう?」

 その言葉に、すぐさま快い返事をするようなものはおらず、誰もアルマと目を合わせようとしない。

「そんな暗い顔をするな。お前たちに殺されないために、制御するんだ。でも物事を考える上で、万が一ってのは絶対に想定するべきだ。だから今日共に戦いながら、どうやって俺に対処するか、それを皆には考えてほしい。獣人種の英雄、狼人族を一匹で滅ぼす力だ。生半可な覚悟じゃ全滅するだろうからな」

 無理に決まってる。半笑いに全滅なんて言葉を使ったアルマに対して、イラつきを覚え、リリィはアルマの背中を拳で小突く。

「舐めんな。一瞬でやってあげるわ、そん時はね。でもまず二週間後にちゃんとベッドで眠れるように尽力して頂戴」
「ああ。俺と同じ班でよかったって思わせてやるよ」



 アルマたちは、アルマの|圧力《プレッシャー》によって魔物を避けながら、第五階層までの闘技区を戦闘無しで踏破して見せる。だが、もちろん|迷宮《ダンジョン》という名だけあって、|迷宮《ダンジョン》の本番は迷宮区に入ってからだ。
 バロンに後付けされたのだが、|迷宮《ダンジョン》の地図を購入は禁止とのことで、本当に何もわからない状態で、マッピングしながら|迷宮《ダンジョン》を進むことになる。

 |狼の迷宮《ダンジョンウルフ》の迷宮階層は全部で十階層。迷宮区一階層は闘技区のように岩に囲われた洞窟が広がっていた。だが洞窟と言っても天井は十数メートル上にあり、横幅も五人横並びで歩いても窮屈しないどころか、余裕があるほどだ。

 だが少し歩けば何本も横道が現れ、既に道の候補は二桁に乗ろうとしている。

「この一番大きいメインホール――便宜上そう呼ぶことにした――も向こうまで行ったら二つに分かれてたけどどうする?」

 先にメインホールを進み、横道がどれくらいあるか確認しにいってもらったエルノとリリィが帰ってきてそう言った。

「横道を潰していくか、大きいところを進んでいくか……。どっちがいいと思う、アルマ」

 班長であるアルマに、イギルは指示を仰ぐ。

「バロンも言ってたろ。これは訓練の代わりだ。だから一番敵と遭遇しやすいルートを選ぶ」
「はは。まあそういうと思ったよ君ならね」

 エルノは笑い、気合い入れか、腰に差した剣の柄を固く握る。

「脳筋なのか、キレ者なのかどっちかはっきりしてほしいわ」

 リーシュは呆れたように言った。

「わ、私は、なんでも……」

 いつになったら馴染むのか、ナディアは相変わらずそんなリアクションだ。

「よっしゃ! じゃあ全部しらみつぶしで行くぞ!」

 イギルは気合いを入れて、一番目の横穴を指さしたが、突然アルマに頭を叩かれる。

「|迷宮《ダンジョン》ででかい声出すな」
「わ、わりぃ。ってかその状態の叩き、痛すぎて気絶するかと思った……」

 静かにするなと言った直後、皆はこらえきれずに吹き出した。各々が声に出して笑っている中、発現していた|紅魔眼《マジックセンス》が、一つの魔力を捉え、アルマは刀剣を引き抜く。

「おい、お客さんがいらっしゃった。お前ら、|迷宮《ダンジョン》攻略開始だ」
『おう!』

次話


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  • 最終更新:2020-04-20 03:13:43

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