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前話


本編

 夜遅くであった。外が騒がしいと思い、起きかけたところ自分の部屋をけ破るような勢いで部下の兵士が飛び込んできた。

「バロン隊長! 報告します! 今こちらに向けて魔物が接近中とのことです!」
「形や、数は?」
「獣型。数は一匹!」
「一匹だと!? なのにこの騒ぎか?」
「はい! 魔力量は通常の獣型の十倍以上。そしてその姿は今まで確認された魔物とも一致しないとのことです!」
「新種か……。すぐに出る! ラン――はいないのか……。先行部隊の者を集めろ。都市の大門前集合だ!」
「はっ!」

 聖教騎士団の中でも、敵陣の中を先頭で駆け、少数で遊撃を行う部隊、それが先行部隊であった。それに所属している者たちは国から認められた実力者たちであるため、このような異常事態には一番に先行部隊が動かされる。

 バロンは戸棚に入れておいた大剣を取り出し、鎧を着て部屋を飛び出した。

 バロンが門に辿り着くと、既に多くの兵士が守りを固めており、その数は三百を超えていた。

――魔物に対して三百か。異常だな。

「状況は?」

 バロンは場を指揮している者に対し、尋ねる。

「はっ、今こちらに全長三メートルほどの大きさの魔物がとてつもない速さで向かっているとの報告がありました。確認すると狼型の魔物でありますが、ここらでは見られない型であり、学者も見たことが無いと。またその足跡には微かに闇の魔力が感じられると」
「未発見で、未知。そして闇か。頭が痛くなるな」
「魔砲台は?」
「いや、まだ様子を見よう。だが俺らの部隊をすぐにここに連れてきてくれ」
「はっ!」

 少しすると多くの兵士たちの中からリーシュが慌てた様子で走ってくる。

「隊長!」
「おう」
「この一件、いかがとお考えですか」
「あの坊主と関係があるか、ということか?」
「はい。団長が異様な遣いを任せ、私たちに彼と出会わせた。それは私たちに彼を討伐しろという命令だったのではないですか?」
「それはあの坊主が魔人と関わりがあるかもしれないからか?」
「はい。だというのにランスを共に連れて行かせるなんて」
「だが、連れの嬢ちゃんは人間だった。しかもランスとの試合を隣で見ていたからわかる。あの坊主と嬢ちゃんの信頼は確かだ。魔人と人間があれほどの信頼関係を築き上げるだろうか」
「そんなのは理由に」
「理由にならないよな。だがこの件とこれは別だ。集中しろ」
「わかりました。隊長……」



「目標確認! 凄まじいスピードです! ここまであと三十八秒!」
「構え! 攻撃に備えろ!」

 様々な男と女の怒号が門の周辺で響き始める。騒ぎを聞きつけた住民も門の周りに集まりはじめ、収集はつかない程に大きな事態になっていた。

 杖を構え、剣を構え、槍を構え、弓を構える。

「目標! 速度を上げました!」
「なっ!?」

 剣を構えているバロンの目の前にいる巨大な牙。今までかなり遠くにいたはずの目標が今目の前にいる。黒い身体に鋭い牙、漏れる吐息は熱く、異常な|圧力《プレッシャー》がバロンの身体を包み込む。

 果てしない深淵に飲まれたような恐怖が見る見るうちに心を蝕んでいく。長年多くの魔物や人間と剣を交わしてきたバロンですら、戦う前に敗北を確信するということは初めてのことであった。

「隊長! 魔物の背中に!」

 リーシュに言われて目を送るとその魔物の背中にはランスとサリナが抱えられていた。バロンがそれに気づき、殺意を消失させると狼の毛は一気に白くなり、バロンの前に跪いた。そしてバロンの前に一枚の板を置く。

「アイデン……? これは坊主のじゃねえか。なにがあったんだ……」
「隊長!」

 リーシュが門から飛び降り、風魔法によりその体を受け止めさせ、サイレンスに近づいた。そしてランスの身体より先に剣を取る。

「ダインスレイフが……」

 バロンはその単語をいつぶりに聞いたかと、その耳を疑った。驚きではない。怒りと戸惑いが凄まじい勢いで頭の中を回り始める。

「ランスは起きているのか!?」
「いえ、気絶しています!」
「起きる前に神殿へ運べ! 至急封印術式の準備を! リーシュはそっちについていけ!」
「承知しました!」

 バロンはサリナを取り囲んでいる医療班の人間の元へ歩いていき尋ねる。

「嬢ちゃんの様子は?」
「いくつか骨折をしているようでありますが、命に別状はありません!」
「嬢ちゃんを医療施設に! なるべく早く治せ! 話を聞けるのがその子しかいないからな」
「はっ!」
「よう、お前はなんで――」

 バロンがサイレンスに触れ、この魔物に対し礼を述べようとしたところサイレンスは来た道をもう一度、凄まじい速さで走って行ってしまった。

 バロンは溜め息をついた後、ランスの様子を確かめるため神殿へ向かっていく。






――身体が重い。頭が痛い。

 長い眠りから覚めたような、感じたのはそのような感覚であった。目を閉じているが明るさを感じるため夜ではないのだろう。ベッドの上だろうか。

――今自分はどこにいる?

 ゆっくりゆっくりと白い靄に掛かったような記憶を手繰り寄せていくと、薄っすらとその色が見え始める。迷宮でアルマとサリナと戦っていて、魔人に遭遇し最初はサリナだった。サリナがやられて、自分がやられた。

 だがやられた時の記憶はない。ダインスレイフを使おうと心から思った。隊長から使用を禁止されていたが、勝つために生きるために使った。ダインスレイフを。

――ダインスレイフ、呪われた剣だ。何でそんな剣を自分は持っている?

 これは父親、いや母親から貰った。母親は誰だ。

 酷く鋭い痛みが頭を襲った。そして思い出した。母親の胸の中で優しく温められていた日々を。ランスと呼ぶその声は温かい春に鳴く鳥のように美しい。とても色が白く、美しい女性だった、はずだ。

 だがあの肌の白さは本当に色白だったからか。ランスの頭にはそんな疑問がぐるぐると回り続けていた。なぜなら既に彼は気付いているのだ。魔人の青白いあの肌を見て気付いていたのだ。それを認めたくない自分がいる。ただそれだけだ。

 昔見たことがあった。見たことがあるというより、見てしまった。

バロンやリーシュが頑なに隠していた書物。ダインスレイフのお伽噺が描かれた書物であった。物語の主人公は人間ではなく、魔人。魔人の青年が魔人にしか扱えない剣、ダインスレイフを用いて人を征伐するというお伽噺は、端的にランスの中で巡る血について表してしまっていた。

 そして今日、あの村で起きた惨劇から一度も使ってこなかった、いや使えなかったダインスレイフを自分は使った。使えてしまった。

――ああ、そういうことなんだろう。

 薄っすらと開いた目の先には全てが白い部屋、聖教都市の医療施設の部屋であり、その部屋に付けられた窓枠から眩しい程の光が差し込んでいた。ランスは上半身だけを起こして、窓枠の外にある太陽に手をかざす。微かに透けて見える指先の血は明らかに赤い色を持っていた。しかしこの血には少なからず魔人の血が流れているのだろう。

 そんなことを考えていると、ランスの部屋の扉は何者かによって開かれた。

「ランス!」

 騒がしく、ベッドの元に駆け寄ってくるのはリーシュであり、不安そうな面持ちでランスの容態を確認する。

「大丈夫なんですか? 大丈夫なんですね! よかった……」
「副隊長、落ち着いてください。俺は大丈夫です。他の二人の容態は?」

 事実を受け入れたからか、自然に体や思考は冷静になり、自分のことよりもサリナとアルマのことを心配した。そんなランスにリーシュは優しく微笑み返す。

「サリナさんは無事ですよ。多少骨折はしていましたが、命に別状はありません。アルマ君については今回のことに対する質疑も含めて隊長から。もし歩けるようでしたら隊長の執務室へ。恰好はそのままでよいとのことです」
「わかりました」

 ランスは医療施設を出て、バロンのいる執務室へと足を進めた。話とはダインスレイフのことであろうとランスは察しがついており、その際自分の出生についても話をしようと心に決めた。

「隊長、ランスです」
「入れ」
「はい、失礼します」

 バロンはペンを置き、客応対用の席にランスを促した。

「失礼します」

 バロンはランスの正面に座るが、暗い面持ちで口を開こうとしない。

「あの、サリナやアルマは……」
「嬢ちゃんは昨日のうちに目が覚めている。ところどころに骨折が見られたから未だ完治はしていないが、もう元気に動き回っているよ。坊主は重傷で昨日の夜から医療班が交代で治療に当たっている」
「な……大丈夫なんですか!?」
「手は尽くしている。俺は坊主も心配だが昨日あったことをお前に聞かなければならない」
「そ、そうですよね。話と言うのは」
「ああ、もちろんだ。まずはこれだ」

 バロンはランスの前にランスの直剣、ダインスレイフを置いた。既にダインスレイフには封印術式が施されており、その力は失われている。

「なにか覚えていることはあるか?」
「いえ、サリナが黒い衣の男に襲われた時からの記憶は……」
「だろうな。じゃあお前が盾を装備していなかったのは意識の中にあったか?」
「いえ、盾は一度装備しました。アルマとの決闘で右腕での魔力操作が困難になったため、装備していなかったタイミングはありましたが、黒い衣の男と戦った時には盾とダインスレイフを」
「そうか。それならば術式が何らかの形で破壊されたということか。だが外していたタイミングがあったんだな? 俺は昔、お前になんと言った?」
「盾は何があっても外すなと」
「そうだ。この際だから話すがこの盾は少量の魔封石を使用して作られた盾だ。なんでそんなものをお前に渡したかわかるか? ダインスレイフを封じるためだ。だが今回」
「ダインスレイフが解き放たれた。怒りによって覚醒した俺の魔人の血に呼応して、ですよね? 隊長」
「お前……気付いて……」

 ランスとバロンの表情はより一層強張ったものへと変わっていく。



 それからアルマが目を覚ましたのは三日経った後であった。

 喉は乾ききり、声は出せず、なんとか芋虫のように体をよじらせて上体を起こした。その姿を見た看護師は驚いたようにアルマを見つめた後、アルマの病室を飛び出していく。耳に何か詰まった様に聞こえづらかったが、微かに音を捉えており、医療班の人間を呼びに行ったようであった。

 サイドテーブルに乗った水差しからコップに水を注ぎ、喉を潤す。

「いってえな。酷い筋肉痛みてえだ」

 アルマはベッドから起き上がり、腹を擦ると微かに手ごたえを感じた。

「ああ? 今頃縫合処置ってどういうことだよ」

 と縫合処置が施された腹を見て、そのグロテスク加減に嗚咽を上げていたところ、部屋の扉が開かれて人が入ってきた。

「おお! 坊主起きてたか!」
「おいおいおいおい。目が覚めた一発目に脂臭いおっさんって言うことだよ」
「がっはっは! 相変わらずで安心したぞ!」
「うっせえ、うっせえ。こちとら怪我人だし、ここは病院だぞ? 少しは静かにしろよ」

 アルマがそう言ってもバロンはその大きな笑いを止める気はないらしい。

「悪い、悪い! で、調子はどうだ?」
「いや、悪いも何も何だよこれ。今時縫合処置なんて」
「それについてはな。お前に対して回復術が効きづらかったんだっていうことに理由がある。その傷口だけはなぜか回復術が効かないんだよ。なんか思い当たる節はあるか?」
「まあ魔人の最終形態みたいな感じの時に空けた穴だからな」
「最終……。まあ戦いについては後にしよう。まずはこれを見てくれ」

 と言って、バロンは手鏡をアルマに手渡した。

「おいおい、まじかよ……」

 アルマの頭から生えている髪の毛は全て、そうさながらサイレンスの白銀の体毛のように白くなってしまっていた。

「お前が腹に風穴開けてここまで来たとき、まだ髪色は黒かった。最初治療を始めると、お前の身体の仕組みがなんだが、内臓が色んな生き物を混ぜ合わせたような形になっていて医療班が手を出せなかったんだ。あれはどういうことなんだ? それこそ狼のような耳さえ生えていたんだから。だが時間が経つにつれて、髪の毛が白くなるのと同時に耳も身体の仕組みも人のものに変化していったんだがな」

――まだ黒かった? 多分それはサイレンスのように戦闘態勢であったからだろうか。魔力を失い、完全に意識が途切れたから髪の毛は白くなり、魔力開放で変化した体は元に戻ったのか。だが後遺症として、髪の毛はそのままになってしまった。

「はは。まあよくわからないけど|固有特殊技能《ユニークスキル》か何かが影響しているんだと思う。だが技能について多くを言うつもりは無いぞ?」

 バロンは呆れたようにため息をつきながら、また笑った。

「まあ、そう言うと思ってたよ」
「だろ? ま、これもこれでいいんじゃないか? 個性が出るしな」

 アルマがけらけら笑うと、バロンもまた呆れたように笑う。

「そういえば、サリナやランスは?」
「一応、無事だ」
「一応?」
「ランスからダインスレイフのことについては聞いているんだよな?」

 先ほどとは打って変わってバロンの表情は一気に暗くなる。

「ダインスレイフ。ああ、あの子供んときに人を殺したか何かってやつだろ?」
「ああ、じゃあダインスレイフがどういうものかも知っているか?」
「人を殺すまで鞘に戻らない剣だろう? 間近で見た時は興奮したね。あんな剣を扱う権利を持っているんなんてな」

 そのアルマの軽口に対し、食い気味にバロンは言った。

「ダインスレイフは鴉の王の第一使徒に与えられる剣だ」

 鴉の王という単語を聞き、アルマはふと神殺しの術で生えた鴉の羽根を思い出した。

「鴉の王ってのは何者だ?」
「鴉の王。人間種で言う全能神。魔王とも呼ばれ、魔人種の首都を治める者だ」
「おいおい、魔人種の王様は神だとでも言うのか!?」
「そうだ」
「ありえない。神は存在したとしても実体は持たない」
「その定理を覆したのが鴉の王だ」
「じゃあその使徒ってのは、魔人の勇者ってことか」
「ああ、呑み込みが早いのは助かるな。魔人種の勇者はしかも唯一無二の存在ではなく四人存在している。そしてそのうち一人目に神から与えられる力がダインスレイフなんだ」
「それはランスが持っているって言うことは」
「ああランスは人間と魔人、両方の血を継いでいるんだ」
「って言うのを今まで隠してたけど、ランスは自分でダインスレイフを使った結果、気付いてしまって俺が寝てる間に気まずくなりました。もちろん今はめんどくさくないようにメンタルケアはしてあるんだろうな?」

 寝ていた間に起きたことを正確に言い当ててしまったアルマに驚きを隠せないバロンであったが、その推理力に寧ろ笑いがこみ上げ、大きな声で笑った。

「がっはっは! 優秀にもほどがあるな坊主! しかも魔人も一人で退けちまうわけだしな!」
「そうだな。だからあいつはダインスレイフに詳しかったのか。強かった神殺しの術を使った魔人はな」
「なっ。神殺しの術!? 魔人の最終ってそういうことか? 神殺しの術を使った魔人に作られた傷だったってことか?」
「ああ、でっかい角に羽の生えた魔人と戦ったんだ」
「そうか、そうか。使徒を退けちまったのか……」

 バロンは底抜けとも思えるアルマの戦闘能力に目眩を起こし、近くにあった椅子に座り込んでしまう。

「使徒か! その分の報酬かなんかはがっぽりなんだろうな! はっはっ――」

 笑いで腹を伸ばしたところ、縫合した糸が突っ張り、不快感をアルマに与えた。

「おい、大丈夫か!?」
「ああ、っていうかこれ、外していいか?」

 アルマは縫合処置の糸を指さしている。アルマの言葉が理解できず、バロンは一瞬動きを止めるが、理解し、医療班を呼びに行こうとする。

「あーいいよいいよ。自分でやるから」

 と言ってアルマはクロノスの懐からダガーを取り出し、糸を切り、肉体から取り除いた後自己再生でその傷を塞いでしまった。

「戦場にいるから、結構ショックのある場面はみて来たと思ったが、さすがに縫合処置を自分で外すってのは気持ち悪いもんだな」
「もう遅れた技術だしな、縫合処置なんて」

 と話していたバロンだが、気付いたような素振りをした後、また暗い面持ちでアルマに問いかける。

「そういえば、ランスが魔人の血を引いていると聞いて、お前は何も思わないのか?」
「いや、まあ別にあんたらと思っていることは同じだと思うぜ? 迷宮を攻略したのは魔人のランスでも人間のランスでもなくて、パーティのランスだ。そんなこと言い始めたら俺は魔物だって言われて虐げられるかもな」

 と軽く笑うアルマに対し、バロンは安心したように椅子に座り直し、続ける。

「嬢ちゃんも同じようなことを言っていたよ。お前たちがそういう考えの持ち主で良かった。後ででいいからランスに会ってやってくれ」
「ちっ。なんで最近会った奴にこんな気を使ってやんなきゃならねえんだ?」
「悪いな!」
「悪いと思うならそれなりの報酬を頂くからな!」

 バロンはいつものように笑いながら、アルマの頭を荒っぽく撫でてから部屋を出て行った。出ていく直前に「よろしくな」と言って。

「よろしくされねえよ!」



 アルマは着替えた後、ランス達がいると聞いた聖教騎士の食堂へ向かう。そこでは既にサリナとランスが楽しそうに会話を繰り広げており、混ざりに行くのが申し訳なくなるような空間が広げられていた。

「あ、アル!」
「アルマ!」

 椅子から勢いよく立ち上がった二人はアルマの元へ走ってくる。

「よっ」
「ごめんね、ごめんねアルぅ。また一人で戦わせちゃって――」

 腕に添え木を付けたサリナは腕を庇いながらも泣きながらアルマの胸に顔を埋める。

「おいおい、また泣くのか? やめてくれや、心が持たねえよ」
「アルぅ……」

 なお泣き始めるサリナを無視し、アルマはランスの方に目線を移す。

「お前、髪の毛が……。しかしあいつを一人で退けたんだろ?」
「ああ、これは多分能力の後遺症だ。気にするな。俺はお前より強いからな。相手もそんなに強くなかったしな! はっはっは!」
「はは、その割には三日も眠っていたじゃないか」
「お前と決闘させられて、魔人と一対一だぞ? 正当な報酬じゃないか」
「はは、そうだな」
「なあ、サリナ? そろそろいいか?」

 泣き続けるサリナを慰め、椅子に座らせる。ランスにも椅子に座らせ、後読んでいた二人を待つ。
 再会を待ちわびたような形で、バロンとリーシュも食堂に現れ、アルマの指示に従い椅子に座ってくれる。アルマのために早めに仕事を切り上げてくれたらしい。

「まずは、集まってくれてありがとう」

 アルマはゆっくりと四人に頭を下げた。その心からの感謝を述べるアルマに、四人は驚愕した。

「坊主が話があるって聞いてきたが、こんな……とはな」
「アルマ君、私もそう聞いたのだけれど、お礼を言いたいのはこっちの方で」
「ああ、あんたらの大事なランスをちゃんと持って帰ってきてやったんだからな。だがそれとは別の話なんだ」

 ああ、いつも通りのアルマだと四人は確信する。

「ランス、お前の身の上話は聞いた」

 ランスは苦渋の表情を浮かべながらも、なんとか笑顔を作り、アルマの方を向いている。

「今日、良い目覚めをしたと思ったら、一番最初に見た顔はバロンで、聞かされた話はお前のその話についてだ。ほんとうにやってられねえよ。俺一人で足手纏い抱えながら、腹に風穴開けながら戦ってたってのにどういうことだよ?」
「済まない……」
「ああ、俺の怒りはその一言くらいじゃあ治まらない」

 ランスはいつものように皮肉では返すことが出来ず、本当に申し訳なさそうな表情をした。

「だから俺もお前に辛い自慢をさせてもらう」

 ランスは驚いたように顔を上げ、他の三人も俺の顔をじっと見つめる。

「仲間には全部打ち明けるんだろう? お前がそう言ってたんだ」

 ランスやバロン、リーシュはアルマの口から出た仲間という言葉に心から温かな何かが溢れ出すのを感じる。

「サリナには言ったことがあると思うが、俺は三年以上前の記憶がない。だいたい十二歳くらいか。だがそれから三年の思い出も良い思い出はあんまりない。ずっと世界の不条理の中で生きて来たもんだからな。裏切られて、裏切りが怖くて一人になって、仲間を失いたくなくて仲間を作らずにずっと独りで」

 四人はアルマのことを哀れみの目で見た。

「だが、最近楽しくなってきたんだ」

 その言葉に四人に笑顔が戻る。

「今までモノクロームだった世界に色が塗られたようだった。何もかもが鮮やかに見える。日が温かいのを久しぶりに感じた。勝つことで仲間を助けられた喜びを久しぶりに味わった。飯のうまさを久しぶりに感じた。仲間の温かみを思い出した。そして後ろで倒れていた二人を見て、死んでも二人を守りたいと思った」

 アルマは溢れそうな涙を堪えて続ける。

「俺はお前らと仲間になりたい。それはランスを認め生きてきたバロンやリーシュもだ。もしお前らが良いって言ってくれたとしてもそれじゃあだめなんだ。ランスだって言っていた。本当の仲間には自分の全てを話すべきだと。お前たち本当の仲間になる第一歩として、俺の過去を知ってもらう必要がある。本当にこんな奴と仲間でいいのかって」
「アル、そんなっ」
「サリナ。お前はわかるだろう? この旅で一度疑問を持っただろう、俺に」
「仲間――」
「そうだ今お前らに俺は仲間を救った英雄に見えているかもしれない。それでも払拭できない過去がある」
「俺は聞くぞ、アルマ」

 最初はランスだった。

「うん」

 サリナ。

「もちろんだ」

 バロン。

「君は、恩人ですから」

 リーシュ。

「ありがとう。じゃあ話すとするよ。愚かな仲間殺しの話を――」

次章


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  • 最終更新:2020-04-16 01:10:59

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