Prologue ~真紅の口唇~

エピソード一覧


本編

 俺は人は殺さない。
 ファミリアの幹部にまで這い上がった男は、悲哀に満ちた瞳でそう呟いた。


 小さな破裂音が、耳の痛くなるほどの静寂を切り裂いた。この時代に麻酔銃なんて代物。それは彼のために創られたものだった。

 そこから放たれたダートは、|標的《ターゲット》の首筋に突き刺さり、薬を注入した。微かな痛みを感じ、背後を振り向くが、既にその痛みすらも消え去り、視界はぼやけ、足に力は入らない。

 静かに。でも確かに手放されていく意識の中で、|標的《ターゲット》は彼の顔を確認しようとするが、そんな状態では男か女かもわからない。

 |標的《ターゲット》の頭の中にあったのは、ただゆっくりと忍び寄る死への恐怖だけだった。



 |標的《ターゲット》が確実に眠ったことを確認した彼は、腰に差してあるナイフを取り出した。

「命を奪わないだけ、許してくれよ」

 そう呟きながら、|標的《ターゲット》の人差し指と小指を両腕分。合計四本切り落とす。

 これを失えば、ナイフも銃も握ることは出来ず、前線からは退くしかない。この世界で銃を持てない者は、能無し。殺さずとも無能の出来上がりだ。

 そう。彼は敵であっても人は殺さない。

 |標的《ターゲット》の止血を済まし、傷口の処置を終わらせた彼は、堕ちた指を小瓶へと放り込む。この小瓶が彼の、彼だけに許された任務完了の証拠だった。彼は小瓶をポーチに入れ、コートのフードを被り、静かにその場を後にする。



 雨が降る街。雨の止まない街。
 いくら雨が降り、彼らの身体を濡らそうとも、彼らの身体から硝煙と血の香りが抜けることはないだろう。
 彼らはここで生きることを望み、いつしかここに囚われた。
 ファミリアの抗争に揉まれ、血の掟の元で生きていく。
「逃げ出したくなるなんてことはないさ」
 誰かがそう呟いた。
「ここではいつでも酒を飲める。煙草だって。気に入った女だって自由だ。血の掟に背かない限りな……」
 彼らにとってはここが。

 全てだ。



 ここは荒くれ者の街、レイニーブルー。
 これは雨が止まない街で起こる、雨が止むまでの物語。

次話


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  • 最終更新:2020-05-20 01:40:42

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